【HEROs】プロサーファー、アンジェラ・磨紀・バーノン「この活動をするために私は生まれてきた」

2017年10月、アスリートによる社会貢献活動の輪を広げていくことなどを目的に「HEROs SPORTSMANSHIP for THE FUTURE」(以下、HEROs)が日本財団によって創設された。GOETHEでは社会貢献活動に励むアスリートの声を伝える連載をスタート。第6回は、知的障がい児、発達障がい児に対してサーフィンスクールを行うことで海のチカラを感じてもらい、子どもの心身の健全な育成、誰もが暮らしやすい社会の実現を目指す認定特定非営利活動法人「Ocean's Love」スクール代表を務めるプロサーファーのアンジェラ・磨紀・バーノンの思いを届ける。


海には、閉ざされた心が一気に開くような凄いエネルギーがある

自らの運命を変えたターニングポイント。プロサーファーのアンジェラ・磨紀・バーノンにとってのそれは、約15年前の“あの瞬間”だったとはっきり言える。自閉症の子供たちにサーフィンを教える『サーファーズヒーリング』というアメリカの団体が、拠点としていたハワイ・ワイキキのビーチにやってきた時。自らの意志で参加しようと思ったわけではなかった。偶然知人から薦められ「気軽な気持ち」でボランティアとして出席し、子供たちをボードに乗せて見送り、そして迎えるというポジションに就いたのだ。

「私の親友から“こういうボランティアがあるから一緒に行かない?”と言われて、気軽な思いで参加したら、それが私の運命を変えました。自閉症の子供たちをボードに乗せて見送る。その時は、手を繋ぐのも嫌そうにする。でも、1本波に乗って帰ってくると、別人のような笑顔になっている。子供の笑顔を見た瞬間に、これだと感じたんです。この活動をするために私は生まれてきて、プロサーファーになった。海には、閉ざされた心が一気に開くような凄いエネルギーがある」

波に乗れば、子供は一瞬にして笑顔になれることを実感している。

自閉症の子が波に乗った瞬間に浮かべた、あの笑顔。それを見た瞬間から、知的障がい児、発達障がい児を対象としたサーフィンスクール「Ocean's Love」の構想は誕生した。思い立ったらすぐに行動。当時、スポンサードを受けていた『Local Motion』の担当者・伊東“あびる”花江さんに「私、こういうことがしたいんです」と熱い思いを伝えると、プロボディボーダーの鈴木薫さんもその思いに賛同。女性3人で活動をスタートさせた。

「もともと、私は障がいを持った兄と日本の社会で暮らしていく中で、サポート力、理解力が少ないことに寂しい思いとか、悔しい思いを抱いていました。大人になったら障がいを持った人が住みやすい社会ができる手助けができればなとずっと思っていた」

活動を始めて14年。自らも、海のチカラを日々受け取りつつ、全国各地でサーフィンスクールを行う。

3人兄妹の末っ子であるアンジェラ。2番目の兄が、6歳の時にくも膜下出血ともやもや病を発症。脳にダメージを受け、右半身不随と失語症を患い、突然障がい児となった。幼いながらも、シングルマザーだった母が「自分が100%責任を負うから運動会も遠足も参加させてあげてください」と学校と闘っているのが記憶に残っている。障がいがあるというだけで、集団的ないじめを受けている兄の姿も目に焼き付いている。この社会は、あまりにも障がい者への理解力、サポート力に欠けている。そうした自己体験で生まれていた感情の「点」が、あのワイキキで見た子供たちの笑顔を見た瞬間に、ひとつの「線」となったのだ。

「兄は遠足にも運動会にも普通に参加したかった。でも、本人にチョイスが与えられなかった。障がいがあるというだけで、いじめられたり、無視されたりするのは悲しい。私たち健常者も今日、交通事故になって、明日は障がい者になっているかもしれない。でも、それを経験したことがないからこそ、そこに理解が向かないし、目が向かない。どういう社会だと兄は住みやすいかな? と何度も何度も子供の頃に考えていた。だからこそ、Ocean's Loveでは障がい者への理解力とサポート力を増やすための活動をしています」

’05年に茅ヶ崎でサーフィンスクールをスタートした際は、年に1度の小さな活動だった。参加してくれる子供の数は10人も満たないという状況で、ボランティアも集まらなかった。だが、そんなことでアンジェラの熱い思いは消えることはなかった。地道に活動を続けて行く中で、障がい児の両親の間で口コミで広がり、今では年に12回の開催。定員20人の枠が毎回埋まり、ボランティアも多い時は150人も集まるようになり、開催地も北海道から宮崎まで全国7ヵ所に広がっている。

「サーフィンスクールを通してシンプルに海の持っているエネルギー、ヒーリング(癒し)の効果やパワーを感じて笑顔になってもらいたい、というのが最初の思い。開催しているうちに、もちろんそこも大事だけど、子供たちが普段できないサーフィンというスポーツを経験する中で自信を得て、その自信が、彼ら彼女らが社会人になった時、次のステップに向けての大きなパワーとなればなと思い始めるようになりました」

活動当初、ボランティアは10人も集まらなかったが、輪が広がった現在では150人近く集まる時もある。

Ocean's Loveを10年以上続けて行く中で、テーマとして掲げているのが「無限の可能性」。参加した障がい者が親が「うちの子はできないと思ったけど、実際に参加したら、なんとサーフボードに立てた!」と感動して泣いている姿を見た。「もっと無限の可能性を信じたい」という思いをもとに、今年からはアパレル大手『GAP』や、レストラン『アロハテーブル』等の協力を得て、障がい者の子供たちへの「就労体験」も開催。また、サーフィンができない冬の間には、別のスポーツで体を動かす「運動の会」、さらには、障がい者への理解を深めるための「勉強会」なども行うなど、活動の幅を広げている。

「障がい者は高校を卒業したら、作業所に入るというのがスタンダード。でも、その子の可能性がどこにあるのか、私たちは見いだしてあげたい。料理を作るのが上手だったり、洋服をたたむという作業が上手だったり、接客が上手だったり。そこにどれだけ時間と労力と努力を費やすかどうかで、きっとその子たちの将来の可能性が広がるのかが決まっていくんだろうなと感じています」

日々活動をしている中で、まだまだ日本においての社会貢献活動の難しさも実感している。自らが拠点とするアメリカでは「アスリートは社会貢献をしているというのが普通」と言うが、日本では「まだまだ結びついていない」と明かす。サーフィンは個人競技のため、やはり今後はもっとアスリート同志で「思い」を共有することが大切になってくると説く。

最後に、アンジェラの原点である「海」について答えてもらった。なぜ、あの場所は、障がいのある子供たちをも無条件に笑顔にすることができるのだろうか。

「私自身がプロサーファーになったことにおいて自分の人生が、いい方向に変わった。それがなぜかというと、もちろん当たり前なんですけど、海は常にそこにあるもので自分がどんな状態であっても、受け入れてくれる大きな愛を持っている。自分のお母さん以上の、目に見えない、感じたこともないくらいの大きな愛で包んでくれるのが、海。その海で自分がサーフィンをしている中で感謝の気持ちとか、やっぱりこの健康な体に対して“ありがたいな”と思う。私たち人間はお母さんの体の中にいる時に水の中にいる。きっとその経験があるからこそ、海に行くと自分が落ち着く感覚になったり、愛を感じたり、癒されたり、ストレスがリリースできたり、ちょっと心が沈んでいる時は元気をもらったり、というふうになるんじゃなかと」

運命を変えたターニングポイントは、アンジェラにとって、やはり単なる偶然の出来事に過ぎなかったのかもしれない。海の偉大さを熟知するプロサーファーとして、そして障がい者の家族を持つひとりの人間だったからこそ、あの「笑顔」の尊さに気づき、行動できたのだろう。海から陸へ、ノーマライゼーションの社会作りという夢は、まだまだ道半ば。「活動を始めた3人がおばあちゃんになって、海辺でゆっくりOcean's Loveの活動を眺めることが目標ですね」。

もちろん、その想像の中は、幼き頃に感じた悲しみなど一切存在しない世界である。


Angela Maki Vernon
1980年神奈川県横須賀市生まれ。日本人の母とアメリカ人の父の間に生まれ、18歳まで日本で育ち、その後ハワイに移住。サーフィン雑誌やテレビ番組でモデルやパーソナリティ等幅広く活動し、ハワイではプロサーファー・カリスマロコサーファーとして大人気に。ヨガのスペシャリストとして、ヨガDVD「Feel the ALOHA」や「Hawaiian Life Style with Yoga」をリリースするなど、健康的なヨガライフを実践。日本でもイベント出演やヨガのワークショップ、企業でのヨガを開催。認定NPO法人のボランティアサーフィンスクール「Ocean’s Love」は、障がいを持つ子どもたちに海やサーフィンの楽しさを伝えたいという彼女の想いから始まり、2005年より活動をスタート。


【HEROs AWARDとは?】

社会のため、地域のため、子供達の未来のため、競技場の外でもスポーツマンシップを発揮している多くのアスリートたちに注目し、称え、支えていくためのアワード。その年、最も「社会とつながるスポーツマンシップ」を発揮したアスリート、チーム、団体を表彰し、次の活動へとつながる支援を行う。スポーツの力を活かした社会貢献活動のモデルにふさわしい、もっとも優れたアスリート・チーム・リーグ・NPOから選出される「HEROs of the year賞」、スポーツの力を活かし優秀な社会貢献活動を行った「HEROs賞」が選ばれる。


【HEROs AWARD 2017受賞者】

■HEROs of the year賞■

宮本恒靖:~スポーツを通じた民族融和プロジェクト~ボスニア・ヘルツェゴビナのスポーツアカデミー「マリモスト(小さな橋)」の挑戦

■HEROs賞■

・鳥谷敬:「RED BIRD PROJECT」
・アンジェラ・磨紀・バーノン:「Ocean’s Love」
・坂本博之「こころの青空基金」
・福島ユナイテッドFC(サッカー):風評被害払拭活動「ふくしマルシェ」
・一般社団法人世界ゆるスポーツ協会:すべての人々にスポーツを

※各部門の活動動画はHEROs AWARD 2017 Webサイトで視聴可能


【HEROs AWARD 2018受賞者】

■HEROs of the year賞■

特定非営利活動法人Being ALIVE Japan:スポーツを通じて、長期療養を必要とするこどもたちに「青春」を

■HEROs賞■

・赤星 憲広:Ring of Red~赤星憲広の輪を広げる基金~
・有森 裕子:HEARTS of GOLD
・飯沼 誠司:ATHLETE SAVE JAPAN いのちの教室
・長谷部誠:プロジェクト名:ユニセフを通じて世界の子どもたちを支援
・浦和レッドダイヤモンズ:浦和レッズハートフルクラブ×バーンロムサイ

※各部門の活動動画はHEROs AWARD 2018 Webサイトで視聴可能


Text=鈴木 悟(ゲーテWEB編集部)