【松浦勝人】「忙しいことを言い訳にして、大切なことを忘れているような生き方をしている」


変わっていくこと、変わらなくていいこと

今、ロサンゼルスにいる。ヨーロッパに10日間くらい滞在して、ロスに着いたばかり。

アムステルダムでは、クラブミュージックのフェスに参加をした。クラシック音楽とクラブミュージックをかけ合わせるという面白い試みをやっていた。ステージにはオーケストラを入れて、その前にはDJと指揮者がいる。ダンスミュージックとクラシックが融合するようなイベント。言葉だと伝わりにくいと思うけど、すごく新鮮な感覚のイベントなので、日本を含めた各国でも可能性を感じた。

海外に行って、最先端のものを見て刺激を受けるというのは、僕にとって絶対に必要。日本の外に出れば、必ず何か刺激をくれるものと出合える。でも、体力的にきつい。僕は人一倍時差ボケに弱いので、到着してもひたすら眠い、日本に帰ってきても眠いという状態が続くことが多々ある。

今回は、時差ボケも少なく、体調もとてもいい。ヨーロッパに夜に着いて、そのまま深夜に開催されるクラブイベントに参加をしたので、時差ボケで眠いのか、寝不足で眠いのかよくわからないけど、時差ボケになる暇がなかった。

それに今回は体調を考えて、ひとつの都市に数日間は滞在するスケジュールを組んだ。考えたら、今までひとつの都市に長くても2泊ぐらいしか滞在してこなかった。イベントを視察する、ライヴやショーを見る、商談をするというのが海外出張の主な目的だから、用事が済んだら、すぐに別の都市に移動する、日本に帰る。でも、それだと移動ばかりで疲弊してしまう。

昔、ハワイで長期間生活をしたことがある。それまでもハワイには何度も遊びに行っていたのに、長期滞在をすると、それまで知らなかったハワイが見えてきた。季節が変わるぐらい長期間暮らしてみないと、その土地を理解することはなかなかできない。今回は、長期とは言えないかもしれないけど、今までよりは長く滞在をしてみて、今まで見えてこなかったものと出合えることを期待していた。こういう時間を持つことはなかなかできなかった。今回の海外出張は、僕にとって貴重な体験になっている。

ヨーロッパでは、街の人たちがすごく他人に対して寛容だと感じた。「自分は自分、他人は他人」という感覚で生活していて、他人に過度な関知をせず、それぞれが自由に生きている。

アムステルダムの街の中には、たくさんの運河が走っていて、そこを観光遊覧船で巡る。運河といっても、ものすごく狭い。船に乗って河岸を見ると、普通の住宅の窓がすぐ近くに迫っているから、自然と住んでいる人の生活が目に入ってくる。

これが日本だったら、河沿いの人のプライバシーだとか、いろいろ問題が起きると思うけど、そういうことがまったくない。住人も船をまったく気にしていないし、船に乗っている人もプライバシーを覗こうなんて思わない。河沿いの風景が次々と目に入ってきて、河岸で暮らす人も歩道を散歩する人も普通に生活をしているだけなんだけど、まるで劇の演者のように見えて、街の景色がそのまま上質なエンタテインメントになっている。人々、景色、すべてが街の風景に溶けこんでいる。

東京に暮らしていると、よく考えれば自分とは何の関係もないことに気を取られて、振り回されるところがある。いつもあくせくしていて、忙しいことを言い訳にして、大切なことを忘れているような生き方をしている。そのことにヨーロッパの人たちを見て、気づかされた。

でもだからと言って、東京もそうなればいいとは思わない。いい面も悪い面もその都市の文化であって、悪いところがあるからいいところもある。悪い面をなくそうとしたら、いい面もなくなってしまう。

東京は、いい意味で騒がしい。六本木でも渋谷でも、深夜0時をすぎても、人がたくさんいて、楽しそうにしている。東京なら、夜中でも自分から出かけていけば寂しくない。ヨーロッパはヨーロッパ。東京は東京なのだと思う。

今回の連載は、ロスにいて、スカイプを使って取材を受けている。ニッポン放送のラジオ出演の仕事もあるけど、これもロスからスカイプを使って出演をする。多少、音声が途切れることもあるけど、十分に話ができる。海外に刺激を受けに行くというのは、仕事の調整が必要になり、なかなかその時間をとることが難しい。でも、テクノロジーを利用すれば、僕は世界中どこにいても、仕事ができるようになっていくのかもしれない。すでに、できると思うし、そうしたいと思うこともある。

一方で、先輩からは「日本にいて、ちゃんと仕事をしろ」と叱られる。日本にいなければいけないというのは精神論のようなもので、本質的な意味はもうなくなっているとは思う。でも、

「日本にいて、ちゃんとしなければいけない」という気持ちも僕のなかにある。エイベックスでも、フリーアドレスやビデオ会議を取り入れていて、僕だけじゃなく、社員の誰もが会社にいなくても、どこにいても仕事ができるという状態に当然なっていく。近い将来、会社という大きな単位がなんだかわからなくなって、「会社とは何か」ということをきちんと考えなければならなくなる。

でも、安全とか信用とか組織とか、そういう今の会社の機能に所属したほうが、力を発揮できる人もいる。最終的には、会社という物理的な形は溶けてなくなり、気持ちのようなものでつながっている集団になっていくのだと思う。しかし、そこにいくまでには、考えなければならないことがたくさんある。

フリーアドレスなど新しい試みをやってきて、いいことはたくさんあったけど、よくなかったことも、もちろんたくさんある。今、それを手直しする作業を進めている。ここからロスを含めてアメリカで2週間ほど過ごして、さまざまなショーを視察して、それから東京に帰る。今回の視察で受けた刺激を、またいろいろなアウトプットに変えていきたい。

次回に続く

Text=牧野武文 Photograph=有高唯之


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松浦勝人
松浦勝人
エイベックス代表取締役会長CEO。1964年神奈川県生まれ。日本大学在学中に貸しレコード店の店長としてビジネスを始め、以降、輸入レコードの卸売り、レコードメーカー、アニメやデジタル関連事業などエンタメに関わるさまざまなジャンルに事業を拡大し続ける。本連載をまとめた単行本『破壊者 ハカイモノ』(幻冬舎)を2018年7月に発売。
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