三浦雄一郎は"次"を見据えて踏みとどまる 〜ビジネスパーソンのための実践的言語学28

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「6000メートルまで登ってみて、鍛え直せば90歳でエベレストに登れるのでは、という感覚になった」ーーー南米大陸最高峰アコンカグアへの登頂を断念したプロスキーヤーの三浦雄一郎さん


まるで小学生が「今はできないけど、中学生になったら」と自らの目標を語るように、「90歳になったら」と語る86歳のプロスキーヤー三浦雄一郎さん。標高6961メートルのアコンカグアの登頂を目指していた三浦さんだが、6000メートル地点のキャンプでドクターストップがかかり、登頂を断念。しかしそのコメントからは、自らの可能性を確認したかのような前向きな姿勢が伝わってくる。

獣医師だった三浦さんは、26歳で本格的にスキーの道を志し、1960年代にはプロスキーヤーとして世界で活躍。54歳で世界7大陸全最高峰からの滑降を成功させるなど、数々の偉業を成し遂げてきた。その後、目標を見失い、生活が不摂生となり、体調も崩しがちだったが、65歳のときに「70歳でエベレストに登る」と目標を定めて、猛トレーニングを開始。2003年、見事最高齢記録となる70歳7ヶ月で世界最高峰を制すると、その10年後の2013年には80歳で再度エベレストに挑み、見事成功。世界を驚かせた。

決してスーパーマンではない。身長は164センチと小柄で、少年時代から結核などの大病を何度も患っている。現在も不整脈が持病で、その心肺機能は「平地のウォーキングレベル」だという。今回の断念もこの不整脈が大きな理由となった。それでも彼は、肉体の限界、年齢の限界に挑む意思を示し続ける。

「悔しいとは思わない。撤退させられたおかげで、次のチャレンジがある」

「6000メートルまで登ってみて、鍛え直せば、不可能に近い夢である90歳でエベレストに登れるのでは、という感覚になった。さらにチャレンジを続けたい」

三浦さんの生き様を見ていると、30歳代、40歳代で「もう若くない」などと言ってはいけないという気持ちになる。新聞では“勇気ある下山”などと、その決断を讃えているが、本人はそう思っていないのではないだろうか。現在は、未来のためのリハーサル。未来と自分の可能性を信じているから、決して“命懸け”の無茶はしない。目標を掲げ、文字通り一歩一歩進んでいく。そうやって生きる人間に限界はない。人生100年の時代だ。常に頂上を目指し続ける三浦さんの姿は、私たちにさまざまなことを教えてくれる。

Text=星野三千雄 Photograph=朝日新聞社/Getty Images


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