「それ、会社病ですよ。」マーケットが試す。メディアは騒ぐ。それでも血の雨が降る改革を断行できるか?Vol.11


議院議員選挙も終わり、いよいよ安倍政権の真価が問われます。5月後半から、株価が下落、長期金利は乱高下していました。これはマーケットからのシグナルです。端的にそれが見えたのは、アベノミクスの「三本の矢」のひとつ、成長戦略の発表直後に株価が下がったことです。「そんなものでは合格点はあげられない」と言わんばかりでした。
 求められているのは、経済成長を軌道に乗せ、財政再建を推し進めること。そのための取り組みがこれから出てくるはずですが、それは逐一、マーケットに試されるのです。
 8月には中期財政計画が出てくる。9月には消費税アップの決断が求められます。同時に原発を再稼働するかどうかもマーケットは問うてくるでしょう。原発なき状況で発電のための燃料輸入が、国の経常収支を悪化させています。日本がこれだけの借金を背負えているのは、経常収支の大きな黒字があってこそ。今の状況が長く続けば、マーケットからノーを突きつけられる可能性がある。
 そして、成長戦略についても見直しが求められています。TPPをどうするのか。医療改革はどうか。社会保障の給付と負担の改革にメスを入れられるか……。マーケットからすれば、“丁半博打”のネタが続々と出てきます。もし、政権の意志にブレを感じたり、期待に添えない行動を取ったなら、待ち構えているのは、株価の下落、金利の上昇です。

 残念ながら、今の段階では、まだ政権の決心覚悟は見えません。成長戦略の柱のひとつに投資減税が挙げられていますが、これは一種のバラマキです。既得権益を刺激したり、省庁間の軋轢(あつれき)を起こしたりはしませんが、いわばただの景気刺激策であり、本格的な成長戦略とは呼べません。求められているのは、農地法の改正や混合診療の改革といった聖域に手をつけること。“血の雨”が降れば降るほど株価は上がり、金利は下がるのです。なぜなら、それは「本当に変わりそうだ」という期待に直結するからです。
 ただ、これをやれば、既得権益の代弁者のいる与党内は騒ぎになる。しかも、待ち構えているのは、小泉政権時代の郵政問題どころではない厚い岩盤なのです。郵政のような国営国有の組織をどうするのか、なんてことは所詮「内輪」の問題。対して、農業や医療は「外」の既得権益への斬り込みだけに難しい。それを妥協なく、揺らぎなくできるかどうか。
 メディアも騒ぐはずです。消費税が上がり、社会保障の給付が切られれば国民は負担を強いられる。こうなったら、メディアにもおいしい。政争が盛り上がれば売れるからです。多くのメディアは「弱者の代弁者」として、非難キャンペーンを大々的に展開するでしょう。この時、叩かれれば叩かれるほど「メディアの売り上げに貢献してやっているんだ」くらいにバッシングを楽しめるかどうか。「悪名は無名に優る。メディアの評判は支持率とは相関しない」と腹をくくれるか。
 安倍政権の正念場は、これから始まるのです。


Text=上阪 徹 Illustration=村田篤司
*本記事の内容は13年7月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい