"へうげもの"古田織部の時代を変える力 ~中野信子 Passionable Brain 第8回~

Passionable(常熱体質)とは、Passionとableを組み合わせた造語。仕事や遊びなど、あらゆることに対して常に情熱・熱狂を保ち続けられる=”常熱体質”である。この連載では、中野信子が常熱的な歴史上の人物を脳科学の視点から解説する。第8回は茶道の伝統を継承しつつも変革し、その新たな地平を切り拓いた古田織部の非凡さについて。


Key person:古田織部

今回はブランドについて考えてみます。買う話ではなく、創る話です。

古田重然という武将がいました。信長から秀吉、家康、秀忠と四代に仕え、豊臣方への内通を疑われ自刃した大名ですが、後世の私たちには古田織部という通り名の方が馴染みがあるかもしれません。千利休の高弟で、利休亡き後は天下一の茶人と称されました。彼が当時の一流のクリエイターを駆使して製作した茶道具から茶室まで一連の作品群は、織部好みと呼ばれ現代に伝わっています。

織部の特徴をひとことで語るなら、へうげもの。剽軽とかおどけ者という意味です。完成した茶碗を割って漆でつないでみたり、焼成時に歪んで大きくひび割れの入った水差しを賞賛したり。子どもの悪戯のようなその作品は、二畳の待庵に象徴される師の利休のミニマリズムの対極、‟悪趣味"と言ってもいいほどかもしれません。

利休に心酔しながらも、猿真似をしないところに、織部の非凡さがあります。利休一色の時代に自らの好みを通すのは危険でもあります。しかし、彼は表面的な形ではなく、「人と違うことをせよ」と言った利休の精神そのものを継承したのです。そして織部好みは、一大ブームとなっていきます。

脳の前頭葉に、美を判定する領域があることがわかっています。何を美しいと感じるかは、前頭葉で行われるだけに学習の効果も大きいのです。美醜の判断が、時代の流れや付き合う人、社会情勢に影響されて変化することもある。それまで美しいと判断していたものが、馴化、つまり慣れによって突然逆に感じられるようになったりもする。その生理的メカニズムは解明されていませんが、流行の変遷を見ると、この現象が周期的に起きると考える方が自然です。
 
利休が偉大でも、永遠ではありません。織部という変革者がいたからこそ、茶道の伝統は継承されたともいえるのです。これは現代のブランドに通じる話でもあります。たとえ一時、世界的に流行しても安泰ではない。例えば現在のGUCCIはそのことをよく理解しています。"悪趣味"を最先端モードに変え成功を収めたアレッサンドロ・ミケーレは、現代の織部と呼んでもいい人物かもしれません。

Text=石川拓治 

中野信子
中野信子
脳科学者。1975年東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了フランス国立研究所にて博士研究員として勤務後、帰国。現在は、東日本国際大学特任教授。脳や心理学をテーマに、研究や執筆を精力的に行う。著書に『サイコパス』、『脳内麻薬』など。『シャーデンフロイデ』(幻冬舎新書)が好評発売中。新刊『戦国武将の精神分析』(宝島社)が話題になっている。
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