【オフィス探訪】遠山正道率いるスマイルズのオフィスが現代アートだらけな理由とは?

GINZA SIXで連日行列のできる人気店の海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」。同店を手掛けているのが、実業家の遠山正道氏率いるスマイルズだ。2016年2月に、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」事業を分社化し、現在は5つの事業に加え、企業や行政のブランディング、企画プロデュースなども行っている。なぜスマイルズの事業は全てがユニークであり話題を集められるのか。オフィスにその秘密があった。


ビジネスは作品だ

スマイルズは、遠山正道氏の企画から「Soup Stock Tokyo」を創業、その後三菱商事の社内ベンチャーとして2000年に設立された。’08年に遠山正道氏のMBO申し出により、同氏が全株式を譲受し、独立した企業だ。

Soup Stock Tokyoは、当時、三菱商事に務めていた遠山氏が、「飲食業界が共感の場ではないのを見て『なんでこうなっちゃうの?』という疑問を抱いて書いた、一つの企画書が始まりだという。プレゼン時に遠山氏は、企画書とともに、現在も使われているロゴを入れた看板を作成し、提案している。

スマイルズのオフィスは、注目の飲食店も多い東京・中目黒の目黒川沿いに建つとあるビルにある。Soup Stock Tokyo事業を分社化したスープストックトーキョーと共に2階の執務スペース、3階のテストキッチンやイベントスペースとして利用している。

このオフィスの大きな特徴は、オフィスの至る所に数多くの現代アートが飾られていることだ。代表の遠山正道氏は、自らの作品で個展を開いた経験もある現代アートのコレクターとしても有名だ。

また、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015」や「瀬戸内国際芸術祭2016」にスマイルズとして作品を出品したり、小さくてユニークな美術館のプロジェクト「The Chain Museum」を開始したりするなど、アートに関する取り組みを行ったり、事業にアートの見識を生かすなど多面的にアートに接している。

作品を一つ一つ解説しながらオフィスを案内するスマイルズ広報部の蓑毛萌奈美氏は、「『ビジネスはアートに似ている』というのが、遠山の考えです」と語る。

「一つ一つの仕事は作品であるというのが、遠山の、スマイルズの考え方です。われわれもアートから学ぶこと、気づかされることがあるのではと思っています。アーティストが並々ならぬ想いや熱意で作品をつくり、一つ一つにサインを入れるように、自分のサインを入れられるような仕事をしようという考え方です。社内では、“作品性”という言葉を使っています。

例えば、Soup Stock Tokyoの店長であれば、自分のサインを入れられるような作品性の高いお店になっているか、スタッフであれば、作品性の高い盛り付けができているか、掃除ができているか。私たちは、ひとつひとつの仕事を作品として捉えることで、自分ゴトとして熱意をもって仕事に取り組んでいます」

執務エリアにはたくさんの打合せスペースがある。アートバーゼルで見つけてきた作品(バナナが載った像)などさまざまな現代アートが並んでいる。

現代アート作品をオフィスに飾る意図は、アーティストの熱意の結晶である作品を目にすることで、「今やっている仕事は、自信をもってサインを入れられるか?」と自らに問うことにある。

それが質の高いサービスを提供し、来店者のCX(顧客体験)を向上させる。

スマイルズの出発点であるSoup Stock Tokyo事業も、遠山氏が三菱商事在籍時に「作品」として生み出されたものであり、「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」をはじめとした他の事業も、発案した社員が当事者となり、熱意で周りを巻き込みながら「作品」としてつくり上げ、今なおその完成度を高め続けているといえる。

提供価値は顧客が決める

「アート作品には、売れないものもあれば、何億という値がつくものもありますが、アート作品の価値は、コストの積み上げではなく、アーティストの思いや熱量、メッセージ性などにあると思います。

それを私たちの仕事で考えると、Soup Stock Tokyoであれば1杯630円のスープの価値とはなにか、ということを問うことです。もちろんビジネスなので、食材費や人件費、店舗の家賃などのコストは無視できません。しかし、コストの積み上げではない価値づくりをわれわれは考えていきたいと思っています。この1杯630円というスープを高く感じるか、安く感じるかはお客さま次第ですが、店舗に行くとホッとできる、何か違うスイッチが入るなど、そこで『体験』する価値こそが大事だと考えています。そんなところもアートに似ていると感じています

ただ、『仕事を自分ゴト化しろ』と命令しているだけでは、いっこうに自分ゴトにはなりません。スマイルズでは経営層から決裁を得る回数も一般的な企業に比べて極めて少ないと思います」

アート名: The Card Players(David Hockney) /「また、アートから事業のヒントを得ることもあります。今後の事業につながる可能性をアートから発見することもあります。」

思いを持ったスタッフが周りを巻き込みながらプロジェクトを起こし、部門長に相談しながら自発的に仕事を進めていく。遠山氏が指示をすることはほぼなく、逆に遠山氏が「キャッチフレーズを考えるブレストに参加してください」と、アサインされることもあるという。

このようなオペレーションによって、オフィスでは日々小さなイノベーションが起きている。

硬直化した組織にとらわれないのもスマイルズ式なのだ。

右側の写真は、MBO時に代表の遠山氏が、六面全て丸と書いてあるサイコロを撮影したもの。

「遠山はいつも、ハンコのいらない仕事ほどやりがいがある、と言います。例え話でよくするのは、来客時にお出しするお茶を自分の見立てで変えてみたり、会議テーブルに花を活けてみるなど、特に誰かの許可を取らないといけないようなものではない、日常の中でのちょっとしたことです。大きなビジネスの提案ではなく、そういうリアリティーのある小さなきっかけから、自分ならではの仕事をスタートさせるのがスマイルズらしいと思います」

「働き方開拓」を行うために分社化

スマイルズは’16年2月、成長したSoup Stock Tokyo事業を分社化した。祖業ともいえる事業の分社化についてこう説明する。

「店舗に立つパートナー(アルバイト)のモチベーションや接客が、Soup Stock Tokyoというブランドそのものをつくっていきます。分社化したのは、同社により最適な社員やパートナー向けの施策や評価制度などを整えたいという思いがあったからです」

日々商品開発を行っているテストキッチン。社員おのおのが朝食会、新入社員の懇親会を開催するなど、コミュニケーションの場として活用されている。「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」の海苔弁もここで生まれた。

スマイルズの中で、Soup Stock Tokyo事業だけが規模が大きく、店舗数も全国に60店舗以上あり、多くの人材を常に必要としていたため分社化する前までは、スマイルズの新入社員はまずSoup Stock Tokyoの店舗勤務となることが多く、スマイルズの新しい事業に携わりたい、デザイン部に入りたいと希望して入社したスタッフとの間にミスマッチが生じていた。

分社化することでスマイルズとスープストックトーキョーの採用は別枠になり解消できるようになったという。現在スープストックトーキョーは、「働き方開拓」に取り組んでいる。

「『働き方開拓』とは、経営者が旗を振るだけの改革ではなく、組織(チーム)や個人が主体となって働き方や生き方を模索し、開拓していく取り組みです。企業が働きがいや働きやすさを提供するだけでなく、そこで働く一人一人が、働くことを通じて、人生を本質的に豊かにすることを目指しています」

すでに「働き方開拓」としていくつかの制度が設けられている。そのスタートとなるのが「生活価値拡充休暇」だ。本社社員だけでなく、店舗で働く社員も含め、給与はそのままに年間休日休暇を120日間と定めた。だが、店舗のあるビジネスでは、年間120日の休日休暇を取るのは難しい。

「店舗社員の休みの日に、代わって店舗に入るサポート専門の部隊をつくりました。今までもエリアごとにスタッフやエリアマネージャーがサポートしていましたがスタッフが少ない店舗は調整が難しいという声がありました。そこで、年間120日の休日休暇を実現するために、本社の経費で運営する部隊としました。これにより、店舗社員も安心して休めるようになりました」

壁面の本だなにはデザイン関連やビジネス本のほか、各ブランドの作品やアートも並んでいる。ファミレスのようなスペースは、人気の打合せ場所だ。

複業・起業もOK?

休みをきちんと取れるようになることで、『ピボットワーク制度』も機能します。ピボットワーク制度とは、Soup Stock Tokyo店舗で働くことを軸としながら、スマイルズグループの他のブランドや関連会社、または他の企業で複業できる制度です。

特にスマイルズでは、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ネクタイブランド「giraffe」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、LOVEとARTがテーマのレストラン「PAVILION」などさまざまな事業を行っているので、ピボットワーク制度の活用で人材の流動性を高めることもできます。

「実際に、人事や広報に興味があるという店舗スタッフが、人事の採用アシスタントとしてスマイルズグループ内での複業を行っています。社員インタビューを実施したり、他事業部の取材に行くなど、新たなチャレンジをしながら自身のキャリアを考えるよいきっかけとなっています。」と、ピボットワーク制度によって自らのキャリアを開拓するきっかけをつくっているスタッフの例を蓑毛氏は紹介する。

スープストックトーキョーで開始された働き方開拓は、今後様子を見てスマイルズでも採用していくという。

遠山氏は理想のオフィスについて「実家みたいな場所になるといい」と語っている。ずっといるわけではないが、時々顔を出すような心地のいい場所。グループ全体を村のようにとらえ、社員だけが出入りするのではなく、ステークホルダーをはじめとした関係者やスマイルズと何か一緒にやりたいという企てがある方などが、気軽に訪ねて来てくれて、新たな出会いやプロジェクトが生まれるような場にしたいとの思いだ。

スマイルズ広報部の蓑毛萌奈美氏

スマイルズの採用ページで社員インタビューとして蓑毛氏が語っている夢がある。それはスマイルズの自社ビルをつくることだ。

1階には一般の人も利用できる社員食堂を設ける。そこにはアート作品が並び、イベントも開催される。グループ会社や関連会社もフレキシブルに出入りができ、ビル1棟まるごとを使ってスマイルズの価値観を表現し、社員だけでなく社外の方々も含めみんなで共有・共感できるそんなオフィスを目指している。

手狭になってきたというスマイルズのオフィスはこれからもアートと人材を増やし、新しい事業や話題のビジネスを手掛け、成長していくだろう。


スマイルズ
代表取締役社長 :遠山正道
本社所在地:東京都目黒区中目黒1-10-23 シティホームズ中目黒203
設立:2000年2月
資本金:5千万円
従業員: 社員101名 アルバイト191名(2018年3月現在)
事業内容:飲食店、小売店の経営、食料品、繊維製品、日用雑貨の企画、製造、販売、インターネット等を利用した通信販売、各種イベントの企画、運営、管理
URL:http://www.smiles.co.jp/

Text=稲垣 章(MGT) Photograph=松川 智一