マラソン日本記録更新! 大迫傑の粘りにみる新型コロナウイルス問題~ビジネスパーソンの言語学85

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座85、いざ開講!  

「もう一回追いつくぞという気持ちより、一回離れてもいいからちょっと休んで自分のリズムでという感じでした」―――東京マラソンで日本記録を更新、日本人トップでゴールした大迫傑選手

新型コロナウイルスが猛威をふるうなか、エリートランナーのみの出場という異例の形式で開催された3月1日の東京マラソン。東京オリンピックの3人目の枠を争うこの大会で、大迫傑選手は自らが持つ日本記録を更新する2時間5分29秒で日本人トップ(4位)となり、“3人目の男”の座をほぼ確実なものとした。

レースは、ペースメーカーがランナーを引っ張り、それに2時間2分台の記録を持つ外国人選手がついていくハイペースの展開。天候にも恵まれ、序盤からかなりの好記録が出ることが期待された。ともに「三強」と呼ばれた井上大仁選手が第1集団に食らいつき、設楽悠太選手は第2集団に沈む中、大迫選手は22km地点で第1集団から遅れをとることになった。マラソンでいったんトップ集団から落ちた選手が再び追いつくことはほとんどない。テレビ観戦していた多くの人がこの時点で大迫選手が日本人トップになることはないだろうと予想したのではないだろうか。だが、大迫自身はこの展開でもかなり落ち着いていたという。

「前の選手から遅れたときも、いかにリラックスして自分のペースを取り戻すか、自分のリズムをもう一回立て直すかという感じでした。あんまり記録というのは考えていなかった」

2位に入れば代表の座が確定していた昨年9月のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)では、設楽選手の序盤のハイペースに焦り、自らの走りができなかったことで3位に終わった。今回はその反省がいきる形になった。

「離れたときにもう一回追いつくぞという気持ちより、一回離れてもいいからちょっと休んで自分のリズムでという感じでした」

その後、32km地点で前の集団に追いついた大迫選手。逆にハイペースに耐えていた井上選手は、大迫に抜かれたあとも順位を落とし、26位に沈むことになった。42.195km、2時間以上続く時間を自分のペースを守って走り抜くのは、鍛え抜いた選手にとっても難しいことなのだ。他の人のペースに惑わず、自らの力を信じて、自分のペースを貫く。その結果として大迫選手は、日本記録を更新することができた。

新型コロナウイルス問題は、私たちに否応なくペースダウンを強いてくる。走りたくても走れない。走ろうと思っても許されない。そんな状況にストレスを抱えている人も多いだろう。でもきっと、ここはいったん下がって、自分のペースを整えるべき時期なのだ。ゆっくりと走りながら、自分はこの難局をどう乗り切るべきか、この時期をどう過ごすべきかを考え、ペースをあげるべき時期を待つしかない。

この問題のゴールは、いまだ見えない。まだ序盤なのか、すでに折り返し地点を過ぎたのか、あるいはゴール間近なのか。いま私たちにできることは、この苦しい時間帯を耐え、自分の走りを貫くことしかない。苦しいときこそ、自分自身を省みる。大迫傑の驚異的な粘りは、そんなことを教えてくれた気がする。

Text=星野三千雄