【知られざるヒーロー列伝】三島由紀夫との出会い ~トレーニング界の伝説、遠藤光男 第1回~

すごい男がいたもんだ! 話を聞きながら、昔流行した、ビールのコマーシャルのワンフレーズが、脳裏をかすめた。 遠藤光男氏、75歳。戦後、黎明期の日本ボディビル界を語る上で欠かすことのできない人物であり、まだ方法論が確立されていなかったウェイトトレーニングに、独自の合理的なメソッドを導入した、パイオニア的存在でもある。ここに示すのは、そんな知られざるヒーローの物語。



身体の弱さを克服するために、ジムに目覚める

錦糸町のエンドウジムでトレーニングを指導する遠藤光男氏。右は長男の克弘氏

子供の頃、身体が弱かったんですよ。中学生のとき、突然膝が痛くなって、40度の熱が続いて、2か月ぐらい学校を休んだんです。病院ではリウマチだとかカリエスだとか、いろいろ言われましたけど、結局原因が分からない。

しばらくして、治ったと思って立ち上がったら、まったく歩けない。バタっとひっくり返って、這ってトイレに行くような状態で。使ってないから筋力が衰えていたんですね。

ちょうどプロレスの力道山ブームの頃でした。海外から来るプロレスラーが、みんないい体しているでしょ。憧れましたね。どうやったら、ああいう体なれるのかなあと。それでトレーニングというものに目覚めていったんです。

高校2年生のときに、後楽園ジムというところに入会しましてね。今の東京ドームの場所に、昔、競輪場があって、その地下にジムを造って、競輪選手たちが外界とあまり触れ合えないように缶詰になって、寝泊りしながら体を鍛えていたんです。そこを一般的に開放し始めのが、後楽園ジムのスタートです。

昭和33年に、柔道の講道館が、小石川から春日町に移転したときに、その跡地に後楽園ジムが入りました。その上に、田辺ジムというボクシングジムもありましたね。私は、その真ん前の都立工芸高等学校に通っていたもんですから、そこを選んだんです。

その頃は、ジムに高校生なんていませんでしたよ。みんな社会人ばっかり。一番若手で、新弟子だったわけです。三島由紀夫先生とお会いしたのも、その後楽園ジムでした。

作家・三島由紀夫との出会い

三島先生は初め、産経新聞社のある産経会館の地下のジムに行かれていたんですが、そこが閉鎖されたので、後楽園ジムに移籍して来られた。そのときに知り合って、7年ぐらい一緒にトレーニングをやりました。

三島先生は40歳手前で、自分が16、7。まだ高校生で若かったですからね、皆さんが「三島先生」と呼んでいるなかで、「三島さん、三島さん」って親しく名前を呼んでいましたね。一緒に練習をやるようになったのは、20歳ごろからです。

三島先生は、見た目はとても細い方で、骨格もあんまりがっちりとしてはいなかったですが、体を鍛えること、トレーニングが大好きで、週に2~3回ジムに来てました。

けっこう力も強かったんですよ。ベンチプレスが大好きで80キロぐらいでやってましたね。あとは懸垂とか、スクワットもまんべんなく。ベンチプレスとスクワットと同じぐらいの重さで、上半身がかなりすごかったですからね。腹筋がとても強かったのも印象に残ってます。腹筋割れてましたから。周りの人も一目を置いていましたよ。

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まあ、とてもシャイな人でしたよ。新しい練習着を下ろすと、みっともないからって床に置いて「遠藤君、一緒に踏んづけて汚してくれよ」と。「いいんですか?」と聞いたら「かまわないから」って。「よし、このぐらいでやろう。新しいの着ているの、みっともないから」と、そんなこともありました。

いろいろと繊細な人でしたし、一切カッコつけない人でした。自分から偉そうなことをしたことも、言ったこともない。

後楽園ジムで一緒にやってるときに、たまに私や若い連中を近所のトンカツ屋に連れて行って、ごちそうしてくれました。白山通りの「かつ吉」って言ったかな。

私は文学のことなんて興味なくて、とにかく体を鍛えることしか頭になかったんですが、本を頂くこともありました。「太陽と鉄」という作品の中には、運動を始めたときのことを書いておられましたね。鉄というのはトレーニングのバーベルのこと。太陽というのは外に出て陽に当たったりする、自然界のことですよね。

第2回に続く

Text=まつあみ靖 Photograph=吉田タカユキ


【知られざるヒーロー列伝】<予告>トレーニング界の伝説、遠藤光男

【知られざるヒーロー列伝】三島由紀夫の自決に接し ~トレーニング界の伝説、遠藤光男 第2回~


遠藤光男
遠藤光男
1942年東京都生まれ。日本ボディビルディング界の第一人者で、24歳だった'66年のボディビル・ミスター日本となる。翌年に東京・錦糸町で遠藤ジムを開き、その年にはモントリオールで開催された世界選手権で3位に。三島由紀夫や勝新太郎とも親交があり、大相撲界、プロレス界など幅広い人脈を誇る。
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