"最後の昭和男"内村航平は、このまま終わってはならない ~ビジネスパーソンの言語学㊷

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「東京五輪は夢物語。このままじゃ無理。なんとかしたいけど、何をしたらいいのか分からない」ーーー体操全日本選手権で予選落ちした内村航平選手

昭和の最後の年、昭和64年1月3日に生まれた内村航平が岐路に立たされている。オリンピック3大会に出場し、個人総合2連覇。金銀あわせて7つのメダルを持つ絶対王者にとって、東京オリンピックは選手生活の集大成。体操選手として30歳という年齢はピークを超えている。それでも内村ならその壁を突破できるものだと誰もが信じていた。だが、両肩に故障を抱えたまま出場した4月26日の全日本選手権の予選ではミスを繰り返してまさかの37位で予選落ち。オリンピックへとつながる世界選手権代表への道は絶たれた。

「東京五輪は夢物語。このままじゃ無理。なんとかしたいけど、何をしたらいいのか分からない」

「(代表復帰の可能性は)かなりゼロに近い。ゼロじゃないけど、10もない。1年間が終わったなという感覚でいる。諦めたくはないけど」

「練習から気持ちを高めてもできない。意味が分からない感覚になっている。そこが改善できれば東京五輪は見えるかもしれないが、まあ厳しいでしょうね」

あまりの惨敗は、内村自身からプライドも奪ってしまったのだろうか。演技後のコメントは、諦めの境地すら伺わせるものばかり。「首から下は全部痛い」というほどの状態は、王者から気力をも奪っているのかもしれない。団体総合と個人総合で金メダルを獲得した2016年のリオオリンピックのあと、「自分の中ではやりきったというのがある。体操の事を考えずにゆっくり生活したい」と語っていた内村。長年にわたって背負ってきたものの重さ、プレッシャーの大きさを考えれば、「地元開催のオリンピックなんだからがんばれ!」というのは酷な話だろう。

それでも、せめて少しでも“強がり”を見せてほしかった。栄枯盛衰は世の流れだ。絶対王者とはいえ、それに逆らうことはできない。体操界もいつまでも内村に頼っているわけにもいかないし、この機に若い選手が躍進し、新しい時代を築いていく可能性ももちろんある。だからこそ、内村の最後の仕事は、彼らの大きな壁になることだ。王者の座を譲るのではなく、奪わせる。王者らしい王者に打ち勝ってこそ、若き挑戦者は自信を得ることができるのではないだろうか。

東京オリンピックに出場できなかったからといって、彼の輝かしい実績が失われることはない。だからこそ、身のひき方にもこだわってほしい。時代をつくったトップランナーには、次の時代を生み出す責任がある。昭和男の意地とプライドは、日本体操界の大きな財産になるはずだ。

Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images