エイベックスという看板はいらない ~素人目線 松浦勝人の生き様~


前に進んでいくための唯一の方法

20年前、一緒によく仕事をし、よく遊んだ仲間と食事をした。お互いに年をとり、お互いに置かれている立場も変わっているはずなんだけど、彼らはあの頃とまったく同じ華やかさで僕の目の前に現れた。あの頃とまったく同じノリで、あの頃の思い出話をする。「懐かしいですね」そう言われたけど、僕には懐かしいという感情が不思議と湧いてこなかった。僕は、音楽を自分の仕事にして以来、階段を登るように次のレイヤー、もうひとつ上のレイヤーと、常に前に進み続けてきた。昔の僕と今の僕は同じではないし、先週の僕と今週の僕ですら同じではない。

彼らは20年前と同じレイヤーに踏みとどまっている。それが悪いことだとは思わない。一生の思い出になる経験を持っていることは幸せなことだと思う。きっと、そういう席で、僕もあの頃と同じように浴びるように酒を飲んで、気絶するまで酔っ払ったら、彼らは安心したのだと思う。でも、それはできなかった。

違う仲間からは、「あのぶっ飛んだ熱狂のなかからmax matsuuraが生まれてきたんじゃないですか!」とも言われた。それも確かにある。常に頭を限界まで高速回転させ続け、流行やブームの熱気のど真ん中にいた。24時間そのままだったら、その熱量で精神がどうにかなっちゃいそうなので、大量の酒を流しこんで、記憶を飛ばして、どうにか24時間を保たせていた。

そんなめちゃくちゃな生活のなかからいろいろなことを発想して、多くのものが生まれてきた。でも、それを続けていたら、きっと僕はどうにかなってしまっていただろう。

今の僕は流行の中心にはいないということを自覚しなければいけない。それを忘れて、自分が中心にいるかのように勘違いして、毎日酔っ払っていても、もうそこからは何も生まれてきはしない。流行の中心にいるのは僕ではなくて、若くて生きのいい人たち。真摯に彼らの力を借りて、いろいろなものを生みだしていくという、次のレイヤーにこれからは登っていかなければならない。


この数年、会社の組織改革を進めてきた。部長がいて、課長がいるという部課制だけではなくて、フラットな体制であるプロジェクト制を作り、全面的にフリーアドレス制を採用した。昔からいる社員にとっては、びっくりするような変わり方をしたと思う。でも、僕はまだ満足できない。まだ足りない。

まだまだ仕事が遅い。何か新しいアイデアをスタッフに投げると、1ヵ月ほどかけてそのことを検討していたりする。僕のなかでは、もうとっくに次のことに進んでいるのに、まだやっている。これを解決するには、今世間でよしとされている組織体制を取り入れるだけではなく、「会社2.0」とも言えるまったく新しい体制にしなければならない。

今、若くて生きのいい仕事をしている人たちは、会社という枠組みなんか乗り越えてしまっている。ある人は、「IT企業に勤めていたけど、ひとりでも仕事ができるということがわかったので、会社を辞めました」と言う。同じ考え方の仲間がたくさんいるので、やりたい仕事をやりたい仲間とその時だけやる。そういう「働き方2.0」をすでに実践している人がたくさんいる。僕は、エイベックスを、そういう2.0の人が集まる場所にしたい。

それを実現するにはどうしたらいいか。僕が出した仮説は、僕がエイベックスを飛びだしたらどうなんだろうということだった。僕が外部の2.0の人たちと組んで、新たなビジネスを生みだす。0から1にする仕事をして、それをエイベックスというプラットフォームに投げて、1を10にし、10を100にしてもらう。今中心にいる人たちのところに、今度はこちらから飛びこんでいくイメージ。

エイベックスという組織を活かすためには、こんな風に僕が外に飛びでるのがいいんじゃないかと思った。

この発想をスタッフに提案してみたら、全員が反対。現実には難しい、無理ですと言う。それが簡単じゃないことは僕もわかる。スタッフの心配は間違っていない。でも、全部正しいとも思わない。

「発想が行きすぎています」「そんなことを考えるのはごく一部の人だけです」と言う。でもごく一部の人しか考えないことだからいいんじゃないかと僕は思う。非常識、だからいいんじゃないかと思う。だって僕たちは「Really! Mad+Pure」を掲げている会社なんだから。

発想が行きすぎていると言うけれど、あと5年もしたら、こういう今では考えにくい2.0的な考え方ですら、きっと古臭いものになっていると思う。

外にいる生きのいい人たちというのは、もうお金という軸で仕事をしていない。そういう人たちと組んで仕事をするには、エイベックスという大きな看板がかえって邪魔になる。企業特有の縦割り、手続き、制約というものがあり、それが仕事の自由度とスピードを奪う。彼らと一緒に仕事をするためには、僕も彼らと同じ立場になり、対等な関係で結びつかなければならない。

誤解しないでほしいのだけれど、エイベックスが嫌になったということじゃないし、無責任に放りだすと言っているわけじゃない。この仮説で言いたいことは、劣化した会社1.0の仕組みを徹底的に破壊して進化させたいということだけ。エイベックスを2.0の会社にしたいだけ。僕のなかでもまだぼやっとしているけど、全員がフリーエージェントで、それが有機的に結びついたり、離れたりしながら仕事をするのが会社2.0なんじゃないかな。

まだ誰もやったことのないことだから、そこに踏みこんでいくことは誰だって怖い。でも、エイベックスという集団がこれからも輝き続けるためには、前に進んでいき、次のレイヤーに登るしかない。僕は前に進んでいくしかないし、そうしていきたい。

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Text=牧野武文 Photograph=有高唯之


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松浦勝人
松浦勝人
エイベックス代表取締役会長CEO。1964年神奈川県生まれ。日本大学在学中に貸しレコード店の店長としてビジネスを始め、以降、輸入レコードの卸売り、レコードメーカー、アニメやデジタル関連事業などエンタメに関わるさまざまなジャンルに事業を拡大し続ける。本連載をまとめた単行本『破壊者 ハカイモノ』(幻冬舎)を2018年7月に発売。
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