サニブラウンがあえて厳しい環境に身を置き続ける理由  ~ビジネスパーソンの言語学51

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講! 


「チャレンジを証明するいい機会になった」―――陸上日本選手権 男子200mを制し、100mとの2冠に輝いたサニブラウン・ハキーム選手

まさに圧巻の走りだった。6月30日の陸上日本選手権で100mに続き、200mで優勝したサニブラウン・ハキーム選手。6月6日には100mで9.97秒の日本記録を出したばかり。大本命という前評判に違わぬ走りを見せ、雨中の決戦を制した。

北九州で生まれ育った彼は、城西大学付属城西中学校・高等学校に進学。早くから海外の大会に出場して結果を出すと、大学はフロリダ大学に進学した。その視点は20歳のものとは思えない。彼は、海外で自分を磨き続けることで自らの成長を促進し、さらにそれを日本の陸上界に還元しようとしているのだ。

「チャレンジを証明するいい機会になった。自分が成果を見せることで、後に続く高校生、若い人、年上の人もそうですが、アメリカ、外国などの環境で、揉まれるチャレンジができるようになればいい」

自ら"鉄は熱いうちに打て"を実践し、その成果を実感できているからこそ、「内向き」な選手が歯がゆく思えるのかもしれない。練習方法だけなら動画サイトで見ることができる時代だ。コーチングのメソッドも世界レベルでどんどん共有されている。それでも“差”が生まれるのはどうしてなのか?

ある海外留学経験のあるアスリートが言っていた。

「日本では自分から話さなくてもコーチが指導してくれる。でも向こうでは、自分から問題点を発見し、それをコーチに慣れない言葉で伝えなければならない。練習は日本のほうが厳しかったけど、自分の体の動きを言葉で理解するようになったことで成績がよくなった」

こういった効果は、アスリートに限らないだろう。あうんの呼吸で物事が進む環境では、自分自身を見つめるのは難しい。野菜栽培では水分などをじゅうぶんに与えないなど、あえてストレスを与えることで甘みが増すことはよく知られている。単に海外に行き、そこで練習することに意味があるわけではないのだ。

「表彰台に到達するのは過酷な道のりだと思うが、何とかそこまでねじ込めれば」

サニブラウン選手は、世界選手権への抱負をこう語った。その向こうに来年の東京五輪を見ているのは間違いないだろう。まだ成長過程にある彼は、これからも自らにストレスを与え続ける。果実が実るのが今から楽しみだ。

Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images