正論ファシズムの時代に対する坂本龍一からの問いかけ ~ビジネスパーソンのための言語学36

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「なんのための自粛ですか? 電グルの音楽が売られていて困る人がいますか?」ーーー「電気グルーヴのCDおよび映像商品の出荷停止、在庫回収、配信停止」に対する坂本龍一氏のツイッターでのつぶやき

麻薬取締法違反で逮捕されたピエール瀧容疑者の犯罪行為は、厳しく断罪すべきだ。どんな人でも目に触れる可能性のあるドラマやCMの放映を取りやめるのも当然といえる。だが、彼がかかわった過去の音楽作品まで「出荷停止、在庫回収、配信停止」するというのは、さすがにやりすぎだろう。一度火の手があがると、すべてを焼き尽くすまで止まらない現代の風潮にツイッターで疑問を投げかけたのは、坂本龍一氏だ。

「『電気グルーヴのCDおよび映像商品の出荷停止、在庫回収、配信停止」 なんのための自粛ですか?電グルの音楽が売られていて困る人がいますか?ドラッグを使用した人間の作った音楽は聴きたくないという人は、ただ聴かなければいいんだけなんだから。音楽に罪はない。」

あまりにも当然の意見だ。ドラッグを使用した、もしくは使用したことがあるミュージシャンの作った音楽をすべてNGにするとしたら、音楽の歴史の何割かをすべて否定してしまうことになる。ビートルズもザ・ローリング・ストーンズもエリック・クラプトンもエミネムもレディー・ガガもNG。もしかしたらモーツァルトやベートーヴェンもドラッグに手を出していたかもしれない。それが彼らの音楽を否定することになるだろうか。ピエール瀧の罪を否定することと、電気グルーヴの音楽を楽しむことにまったく矛盾はない。

あくまでも推測だが、「出荷停止、在庫回収、配信停止」を決めた人たちも音楽に罪があるとは思っていない。彼らは炎上が自分たちに及ぶことを恐れ、早めに手をうったのではないだろうか。清く正しい正論で武装したクレーマーほど厄介な存在はない。彼らが大挙して押し寄せる前に対処する、その気持ちもわからないではない。

さわらぬ神にたたりなし。言いたいことがあっても、下手に意見表明をすれば一気に炎にのみ込まれる。そんな“正論ファシズム”の時代だからこそ炎上を恐れず、いち早く声を上げた坂本龍一氏の勇気に頭が下がる。坂本氏が声をあげて以降、「作品に罪はない」という意見が大勢を占めることになった。ミュージシャンとしての意見を表明したことによって、初期消火が成功したといえるだろう。

ビジネスシーンも同じだ。もしあなたの近くが焦げ臭くなったときは、一度立ち止まって考える。世間の正論ではなく、自分の正論を構築し、恐れることなくそれを表明する。沈黙は、追従だ。炎上を恐れ、ただフタをするだけの対処は、自分の手足を縛ることにしかならないということを肝に命じておくべきだろう。


Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images