【起業家インタビュー】TableCheck谷口 優の世界で戦うための超ポジティブ思考

「最高のレストラン体験」の実現を目指し、2011年に谷口 優氏が立ち上げたTableCheck。人気店の空席状況をリアルタイムで確認・予約できるサイト&アプリ「TableCheck」、飲食店向けの予約・顧客管理台帳システム「TableSolution」は国内外で高い評価を受け、世界規模での導入が進んでいる。だが、スタートは順調ではなかった。業績が思うように伸びず、同社の個人株主でもあるメルカリ代表の山田進太郎氏から「やめたら?」と言われたこともあったという。そんな苦境から、谷口氏はどう這い上がり、グローバルな舞台で活躍するまでにいたったのだろうか? 


海外で培ったポジティブな生き方

いまでこそTableCheckの事業は順調だといえますが、創業当初は苦しい時期が続きました。システムを開発するにはまとまった資金が必要。お金をかき集めて、やっとの思いでシステムを開発しても、なかなか課金に結び付かない。資金がまわらず、正直、もうダメだと思ったことは何度もあります。具合の悪い祖父にさえ資金繰りを相談したほどです。

そんな厳しい状況のときに、メルカリ代表の山田進太郎さんにお会いする機会がありました。創業して2年後、ちょうど事業を大きく変革した頃です。そこで現状を伝えたところ、あっさり「もうやめたら?」と。でも、僕はその言葉をエールとして受け取った。「人に言われて簡単にやめられるような事業なら、やめてしまえ。頑張れ」という前向きのメッセージだと解釈したんです。ものすごいポジティブ思考でしょう。このポジティブさが、苦境を乗り切る原動力ですね。ただ、この話には後日談があって、再び山田さんにお会いし、感謝とともに言葉の真意を尋ねたところ、「本当にやめたほうがいいと思っていた」との言葉が返ってきました(笑)。

こうしたポジティブな考え方がどうして身に付いたのか? そのひとつに、少年時代の経験があります。僕は商社に勤めていた父親の都合で、0~6歳と、10~15歳まではシンガポールで育ちました。現地で通ったインターナショナルスクールでの授業の進め方は、日本とはまったく違う。例えば、歴史の授業ではジョン・F・ケネディの暗殺に関するドキュメンタリービデオを延々と見せられます。それを元に、自分で調査・研究を進め、学期末に自分が考えた真犯人を発表するんです。犯人はリー・ハーヴェイ・オズワルドそのままでもいいし、CIAでもいいし、宇宙人だっていい。ロジカルに説明できるかどうかが評価されるのです。日本の歴史の授業では、年号と内容を覚えるだけ。シンガポールでは、自分で考え、調べ、判断することの重要性と、何事にも前向きに取り組むことの大切さを教えられました。

日本に帰国して、高校に進学。でも、馴染めずに1ヵ月で中退してしまいました。日本の高校教育に価値を見出せなかった……。まあ、いわゆる中二病です(笑)。中退を機に16歳で働き始めて10以上の職を経験。その後20歳で大検を受けて、早稲田大学に入りましたが、大学にも興味を持てずじまい。3年で中退しました。

中退後、CyberSource日本法人に就職。VISAの子会社で、カード決済の代行がおもな業務でした。Eコマースや航空券などあらゆる商品を扱いましたが、特にホテルの予約関連についての仕事が興味深かった。ちょうどその頃、ホテルの予約は電話からネットに移行する過渡期。ホテル側はネット時代の到来を喜んでいましたね。理由は大きく2つ。多言語対応できるスタッフを24時間雇う必要がなくなったことと、キャンセル料を取れるようになったことです。電話で予約を受けていた時代は、誰もキャンセル料を払ってくれなかったですからね。このネット予約への移行はレストランにも広まっていくだろうと考えました。

高い給与よりもチャレンジ精神

2011年3月、TableCheckを起業しました。最初は大手飲食サイトのサービスを販売する代理店業務が中心。自分のアイデアをカタチにするビジネスはできませんでしたが、やりがいはあった。飲食業界の人たちにヒアリングを重ね、アイデアを練り込んでいきました。今のビジネスプランの大部分は、当時に作り上げたもの。当時、思い描いたビジネスを100%とすると、現在は20%が達成できているという状態です。

人気店の空席状況をリアルタイムで確認・予約できるサイト&アプリ「TableCheck」と飲食店向けの予約・顧客管理台帳システム「TableSolution」。

TableCheckが大きく進化したのは、2013年初め。取締役としてジョン・シールズが参画してくれたのがきっかけです。それまでのTableCheckは営業メンバーのみで、エンジニアが1人もいませんでした。でも、システムを作り上げるにはエンジニアが不可欠。理想の人材を探していたところ、シンガポール人の友人がジョン・シールズを紹介してくれました。

ジョンはアイビーリーグのブラウン大学を優等で卒業し、リーマン・ブラザーズ・ジャパンにてVice Presidentとして働いていた。その後、野村証券の買収によってレイオフされることになったので、「一緒にやろう」と誘ったところ、快諾してくれました。彼との相性は最高ですね。1を言えば、10をわかってくれる。「あれをやろうと思うんだけど」と言ったら、「ああ、あれね」という感じ。「あれ」だけで、すべてが通じる。そのスピード感がビジネスでは重要なんです。

ジョンのリーマン時代の年収は数千万円。それがTableCheckでは1/10に。大幅なダウンですが、「素晴らしいソフトウェアを開発して飲食業界に革命を与えられるなら、チャレンジしたい」と言ってくれた。そのくらいのクラスになると、金銭よりも“挑戦”を優先する人が意外に多いんですよ。

グローバル展開ありきでスタート

TableCheckのビジネスは、最初からグローバル展開を考えていました。社員の出身国は日本、アメリカ、インド、フランス、韓国、シンガポールなど15カ国。ネイティブに話せる言語は10カ国語になります。「TableCheck」「TableSolution」というネーミングは、世界中どこでも通じることを意識。サービスの内容も、世界共通です。

世界中から優秀なエンジニアが集まる。

「TableCheck」と「TableSolution」のリリースは日本が最初でした。僕は日本人で、日本の文化に精通していますから、まずは母国から足元を固めようと思ったのです。日本の飲食業界のシステムは、世界から遅れています。“おもてなし”の質は高いけれど、生産性は低いんですよ。

どういうことかというと、米国では10数年前に、すでにネット予約のシステムが確立されていました。ちょうどその頃サンフランシスコを訪れた際、レストランに予約の電話を入れると、「予約はネットでできます」と言って、電話をガチャッと切られた。「なんで、この人、こんなに効率の悪いことをやっているんだろう」と、不思議がっているようでした。日本式の電話での丁寧な対応は素晴らしい“おもてなし”といえますが、人材と時間の無駄遣いともいえます。有能なスタッフが1日に100本も電話対応をしていたら、それだけで1日が終わってしまう。国によって文化の違いはありますが、効率化は図っていかなければならない。今後レストラン予約は大部分がネット経由になる。世界共通の必然の流れとして、日本もそうなるだろうと感じました。

「TableSolution」では、インターネットを活用し、あらゆる情報を集約させています。席数、立地、売上、時間ごとの稼働率、顧客情報、予約状況、キャンセル率……まさにあらゆることです。そうすることで、お店にも、お店を利用するお客様にも、メリットが増えました。例えば、お客様が予約するレストランのホームページなどに、お店の予約台帳システムと連動するネット予約ページをリンクさせることで、超人気店でも当日予約が可能なケースが増加。アレルギーで食べられない料理などの情報伝達ミスも減り、より快適なレストラン体験が可能になりました。2014年のヒルトンを皮切りに、ハイアット、インターコンチネンタル、リッツカールトンなど、国内外の大手有名ホテルのほとんどのレストランに、当社のシステムが導入されています。

世界に広がる新しいソリューション

日本に続いて、昨年9月に韓国、今年1月にシンガポールにオフィスを開設しました。まずはアジアを制覇し、欧米にも進出していきたいと考えています。同時に、「TableCheck」「TableSolution」の精度も高めていきます。

「『TableCheck』と『TableSolution』を世界中で使われるサービスにする」という意志が込められている。

今、実現・普及に取り組んでいるのが「サインレス決済」。レストランでの支払い時のやり取りって、結構手間なんですよ。請求金額が書かれた伝票をお客様のテーブルに持っていき、クレジットカードを預かり、レジに戻って支払いの手続きを取り、お客様のテーブルへ戻ってサインをもらい、カードをお客様へ返す。スタッフはお客様がいるテーブルとレジを何度も往復しなければなりません。この手間と時間を省く決済システムを年内にリリースしようと思っています。こうした大きな変更を含め、バージョンアップは年間約300回にもなりますね。

僕自身、レストランが大好きで、外食産業に大きく貢献しています。1日に5回は食事をする。おそらくエンゲル係数は100%を超えているんじゃないかな(笑)。僕も含めて、みんながハッピーになれる“最高のレストラン体験”を、これからもどんどん増やしていけるよう、ポジティブに取り組んでいきます。


●座右の銘
「なせばなる」。僕はポジティブ思考ですから、最終的に何事も達成できると考えています。もちろん、うまくいかないこともあります。そうしたときは、ひたすら“ふて寝”する。ふて寝すると気持ちがさらに落ち込む。落ちるところまで落ち込んでしまえば、あとは上っていくしかないのです。

●愛読書
リチャード・ドーキンス著『利己的な遺伝子』やV・S・ラマチャンドランとサンドラ・ブレイクスリーの共著『脳のなかの幽霊』など、生物学や心理学の本が好きですね。物の見方の幅を広げてくれると思います。


Yu Taniguchi
1984年生まれ。幼少期から約11年間をシンガポールで過ごす。帰国後、進学した高校は1ヵ月で自主退学し、16歳より働き始める。20歳の時に高卒認定試験を取得し、早稲田大学政治経済学部に進学、3年で自主退学。2007年、CyberSource日本法人(VISAの100%子会社)へ入社。国際的な統合決済管理プラットフォームである当社で、営業・リーガル・経営企画など様々な業務に取り組む。 その後、2010年よりEnglish OK(のちにピクメディアに社名変更)にて新規事業立ち上げとして参画。2011年、TableCheck(旧 VESPER)を設立。
https://corp.tablecheck.com/


Text=川岸 徹 Photograph=坂田貴広