プロフットボーラー久保裕也 「オフの時間の過ごし方」 BORDERLESS STRIKER 第2回

世代交代が進むサッカー日本代表において、24歳、久保裕也は間違いなくキーパーソンに挙げられるだろう。5年前から単身海を渡り、周囲に日本人がほぼ誰もいないスイス、ベルギーで武者修行を続ける道を自ら選択。なぜ、この男はあえて厳しい環境に身を置くのか。なぜ、この男は国境に捉われることなく成長を求める道を歩むのか。6月に開幕するロシアW杯を前に、苦悩し、進化し続けている若きストライカーが、その知られざる思いを「ゲーテ」だけに綴る連載エッセイ。

ヘントの街は自分に合っている

僕は都会で生活したことがない。山口で生まれ育ち、高校からは京都へ。京都と言っても生活の場は宇治市だ。よくいえばのどかな、高校生の僕にとっては退屈な町だった。3年間暮らしたスイスのベルンは、さらに田舎だった。サッカーしかやることのない日々で、ストレスも溜まりがちだった。

昨年から暮らしているヘントも決して大きな街ではない。旧い街並みが残るこぢんまりとした古都で、世界遺産に登録されている鐘楼や大聖堂を目当てに観光客が多く訪れる。日本でいえば京都というよりも金沢に近い印象。都会でもなく田舎でもなく、僕にはちょうどいい環境だ。ベルン時代より、かなり快適に過ごせている。

ヘントには、日本から来た方も暮らしていて、ある会合で出会った方が「いつでもご飯を食べに来てくれていいよ」と声をかけてくれた。僕はコミュニケーションが上手なほうではないが、自分の殻に引きこもっているばかりでは、サッカーにも悪影響があるというのは、過去の経験でわかっている。だから思い切って、その言葉に甘えてみることにした。自炊には慣れているが、ひとりで食べるのは味気ない。でもそのご家庭にうかがうと、いつもおいしい日本食があり、そして他愛のない会話がある。その時間がとても心地いいのだ。いまでは毎週のようにお邪魔させてもらっている。

年上の“同志”もできた。昨年ヘント駅の近くで美容院「Mr.Crazy」をオープンした本田充信さんだ。本田さんは、名古屋で3つの美容院を経営しているのだが、「いつかヨーロッパに自分のサロンを持ちたい」という若いころの夢を叶えた方だ。40歳を超えて、単身ベルギーにやってきて、苦労してサロンをオープン。カットやシャンプーはもちろん、サロンの掃除やビラ配りまで、すべてひとりでやっている。

僕も最初は、客としてサロンを訪ねたのだが、いろいろな話をしているうちに仲良くなり、時々食事に出かけるようになった。まったく別の世界の先輩だが、「日本の美容の技術をヨーロッパに広めたい」という本田さんのパワフルな生き様には元気をもらえる。

ヘント駅の近くで美容院「Mr.Crazy」をオープンした”同志”の本田充信さん

僕はよく「ストイックだ」といわれる。スイス時代に孤独にサッカーばかりやっていた姿がテレビで放送され、そのイメージが広がったようだ。確かに、遊んだりわいわい騒いだりするのは好きではないから性格的には真面目なほうだとは思うが、それでもストイックというほどではない。

プロである以上、体調を管理するのは当然なので、体重や体脂肪は毎日計測する。少し増えたなと思ったら、調整することはあるし、食べるべきタイミング、食べてはいけないタイミングは考える。しかし基本的には、好きなものを好きなときに食べるようにしている。ハンバーガーでもパスタでも食べたいと思えば食べる。サッカー選手のなかにも炭水化物を断ったり、グルテンフリーにこだわったりする人は少なくないが、僕はあまり気にしすぎないようにしている。

試合があるのは週に1〜2回。だいたい夜開催なので、集合時間は午後遅めだ。それ以外の日は、午前中にチーム練習があり午後はオフ。さらに試合の翌々日は完全オフ。試合会場によって移動に時間をとられることもあるが、ベルギーの国内リーグではそれほどの大移動はない。個人でトレーニングをすることもあるが、やりすぎて疲れが残っては元も子もない。オフにしっかり休んで、試合で100%のパフォーマンスを出すのがプロだ。

要するに、空き時間が多い。かなりヒマなのだ。家族がいる選手は別だろうが、独身の僕の場合、ひとりで過ごさなければならない。食事に出たり、近所を散歩したり。それでも時間が余る。最近の“ヒマつぶし”の強い味方は、Netflixだ。日本やアメリカの連続ドラマを観ていると、あっという間に時間が過ぎる。あるドラマにハマったときは、展開がどうしても気になって練習ギリギリまでスマホでドラマを追いかけていた。

ちなみに練習前にスマホを見ている選手は少なくない。ちらっとのぞいてみると、過去の試合の映像や名選手のゴールシーンなどを見ていることが多い。Netflixでドラマを観ているのは、僕だけだと思う。ストイックからはほど遠い姿だと自分でも思う。

観光客で賑わうヘントの街並み

僕はストライカー=点取り屋だ。この“仕事”は、フィジカルはもちろん、メンタルのコンディションがとても重要だ。結果がいいときは素直に喜べばいいが、悪かったときのことを引きずりすぎるのはよくない。上手に気分を切り替えながら、ピッチに立ったときは、常に前向きにゴールを目指す。そんなストライカーであるためには、ストイックすぎない日常も必要だと思っている。

第3回に続く

第1回「ハングリーな環境で強くなりたい」
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Composition=川上康介

プロフットボーラー久保裕也 「マリ戦、ウクライナ戦を振り返って」  BORDERLESS STRIKER 第3回

プロフットボーラー久保裕也「監督が誰であったとしても」 BORDERLESS STRIKER 第4回

プロフットボーラー久保裕也「春だからこそポジティブに」BORDERLESS STRIKER 第5回


久保裕也
久保裕也
1993年山口県生まれの24歳。京都サンガF.C.のU-18に在籍していた2010、'11年と2種登録でトップチームに登録され、チームに帯同。高校3年だった'11年はJ2で10得点と活躍した。19歳だった2013年6月に単身欧州に渡り、スイス1部スーパーリーグのBSCヤングボーイズに移籍。昨年1月からはベルギー1部、ジュピラー・プロ・リーグのKAAヘントに所属し、移籍後7試合5ゴールの活躍でチームを上位プレーオフ進出に導いた。日本代表は、高校生だった'12年のキリンチャレンジカップでA代表初選出。昨年W杯最終予選では2試合連続ゴールを決めるなど、日本の本選出場に貢献した。
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