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2023.05.04

普通の人でも「嫌なことをしない」は可能なのか?【藤野英人×成田悠輔 対談】

ひふみ投信シリーズのファンドマネージャー藤野英人氏が率いるレオス・キャピタルワークスが運営するYouTubeチャンネル「お金のまなびば!」から、藤野氏と研究者・実業家の成田悠輔氏の対談を3回に渡って紹介。第3回は「これからの日本に必要なこと」について。#1 #2

藤野英人と成田悠輔

日本のDXはなぜ遅れているのか?

「日本の企業には、昭和97年の会社と令和4年の会社の2通りがあるという風に考えていて。昭和97年という会社は、昔の成功体験をずっと引き継いでいて少しずつ悪化している。新たな貸し借りとか新たな生き方をしようという令和4年の会社もあるけど、まだ昭和97年の会社が多いから、全体で見ると“(日本が)成長しない”という風に思っているんです」

そう切り出したのは、ファンドマネージャーとして、長く日本の企業を分析してきた藤野英人氏だ。藤野氏によれば、成長する会社には3つの“当たり前”があるという。①お客様中心主義で、マーケットの変化を見ていること ②長期主義の目線 ③データオリエンテッドだ。昭和97年の会社というのは、だいたいが❶会社都合主義 ❷短期主義 ❸自分たちの経験主義なのだという。

「日本人は磨き込むことが好きなので、“道”のレベルまでオタク的に磨き込むところがあるんだけれども、もともと商品とか製品というのは、ある社会課題に対して、それに適合するものを提供しリターンをいただくもの。日本の場合、だんだんその目的と手段が変わって、顧客とは関係なしに磨き込んでいくみたいなところが、大きな問題のひとつだと思っています」

成田氏は藤野氏に同意すると同時に、日本におけるDX化の遅れについて、その要因を分析。日本の“優秀すぎる”ある部分が関係しているという仮説があると語った。

「企業、自治体、パブリックセクターも、データやソフトウェアと異常に相性が悪いように見える場合が多いじゃないですか。これも、イノベーターのジレンマ的な部分があるんじゃないかという仮説を持っているんです。日本の生活とか仕事の仕組みを作っているハードウェア的な部分がすごく優秀だったために、移行に失敗したんじゃないか、という。

この場合のハードウェアというのは、紙みたいなハードウェアもあれば、人間というハードウェアもあって、会社の手続きや行政手続きでも、印鑑もあればFAXもあれば紙もあるみたいな感じですごく非効率なんだけれども、頑張ってやっていくとコンプリートできるようになっている。会議室Aから会議室Bに印刷した紙を持って行って、そのサインをもらって帰ってくるみたいなフローだけを生業としている人が大量にいて、結構、皆しっかり仕事をするために回ってしまっている部分があるじゃないですか。

アメリカで生活をしていると、人って信用できない。バスの運転手とかちょっと疲れると、停留所を飛ばして走って行ったりするような感じですよね。旧共産圏とかの肥大化した官僚組織みたいにいわれる国でも、あっという間に市役所とかが動かなくなって、モバイルを渡して動かすしかない、みたいなことになるんです。

そうならずに、“プロセス”といえるもので、これだけ非効率なものを動かせるという日本の凄さがDXを拒んでいる感じはしています。

自分本位の非効率な謎の作り込みと、すごくアナログな体質をちゃんと管理できる謎のスキルとパワーが、この国の企業と役所になぜかあって、その凄さが今の日本の“昭和97年”を繰り出しちゃっているなという」

藤野英人と成田悠輔

左:藤野英人/Hideto Fujino
早稲田大学法学部卒業後、国内・外資大手資産運用会社でファンドマネージャーを歴任。2003年レオス・キャピタルワークス創業。中小型・成長株の運用経験が長く、ファンドマネージャーとして豊富なキャリアを持つ。投資信託「ひふみ」シリーズ最高投資責任者。
右:成田悠輔/Yusuke Narita
夜はアメリカでイェール大学助教授、昼は日本で半熟仮想代表。東京大学卒業(最優秀卒業論文に与えられる大内兵衛賞受賞)、マサチューセッツ工科大学(MIT)にてPh.D.取得。一橋大学客員准教授、スタンフォード大学客員助教授、東京大学招聘研究員、独立行政法人経済産業研究所客員研究員などを兼歴任。

日本の産業が「ガラパゴス化」と表現されるようになって久しいが、その風潮は、我々が思っている以上に、社会全体の奥深くまで染み込んでしまっているのかもしれない。それを解消するには「何かを壊すしかない」と藤野氏。そして、そのきっかけについて、成田氏が考えるところを聞いた。

「回らなくなると変わるんじゃないか、という楽観的な期待を持っていて、実際、回らなくなりつつあると思うんですよ。介護にしても教育にしても、物理的に人がいない。さらに急に国境を閉じたり、(海外からの)研修生とかにまるで人権がない労働環境を提供したりする国に移民は来てくれないんで、物理的に労働量が足りないというステージに完全に入ったわけじゃないですか。

一億総貧困化もだいぶ進行していて、渋谷や新宿を歩いていても、夜中は危ないなと感じるようになっていますよね。24時間営業のところは夜中に警備をつけたり、トイレを開けなくなっていると思うんですよ。徐々に日本が国際的に見ると“普通な国”になりつつある。

で、すごくアナログに仕事をコンプリートする力を持っていた日本人のプールが減ることによって、どうにもこうにも回らなくなって変化するしかない、というステージにきはじめていると思います」

「仕事や会社が嫌いな人」が多い国・ニッポン

話は変わり、藤野氏が成田氏に「今、最も投資をしていること」を聞いた。

「自分の心と体への投資が、一番リターンが高い。自己投資というか、要は自分の嫌なことをやって消耗しないとか、単純に食事とか睡眠とか、ベーシックな健康に関わることと、精神衛生に関わるようなこと。ここで、お金のために無理をしなくていいようにするのはすごく大きいですよね。

データやエビデンスがあるわけじゃないですが、自分自身の肉体と精神への投資というのは、他の金融商品への投資とは比較にならないようなリターンを持っている。金融商品への投資を考える前に、自分の生活への投資っていうのが圧倒的に重要なんじゃないかなと思います」

この言葉を頭で理解はできても、強者の論理だと、反発を覚える人も少なからずいるだろう。その反発に対し、「そんなことを言っているから、弱者のままなのだ」と返すのは簡単だが、藤野氏は、それも「共感が得られにくい言葉」だいう。そして、大半の日本人が抱く仕事の価値観への問題点を浮き彫りにした。

「成田さんは嫌なことはなるべくしないし、僕もそう思っているわけです。それが結果的にパフォーマンスを上げるし、自分のエネルギーや時間を含めたパフォーマンス効率が高いと思っているわけだけれど、多くの人は、仕事というのは誰かから与えられるもので、選択できるものではないと思っている。

それをコンプリートして我慢料が給料日に支払われる、これが仕事だと思っている人がすごく多くて、日本の仕事観でいうと、仕事というのは苦痛であるとか、会社は嫌いだという人(の割合)は他国に比べて極端に高い。これを何とか、そうじゃない価値観に変えたいなという気持ちがあるんです」

人生の大半の時間を費やしている“仕事”が苦行だとしたら、それは、人生のQOLを下げているとしか言いようがない。その負のスパイラルは、いったいどの段階から始まっているのだろうか。成田氏は「仕事や職場を選ぶ時に重視する項目を間違えている可能性が高い」と指摘する。

「会社がどれくらい有名か、人に説明して恥ずかしくないか、給料はどれくらいか、正社員かどうか、みたいな基準をまず最初に持ってきちゃうじゃないですか。その思い込みを、どう取り外せるかだと思うんですよね。

その軸と同じかそれ以上に、自分で自分の生活の主導権を持てるかどうかとか、仕事の内容を変えたいと思ったときに自分の意志で変えられるか、みたいな仕事の中身と主導権に関する価値観みたいなものを、もっと前面に出していくことが大事なんじゃないかという気がします」

年収や社会的ステータス、見栄や世間体は一旦横に置いておいて、自分の充足感を軸に人生をデザインすること。その幅を広げるために、自分に投資すること。仕事や人生に対するマインドセットを変えることが、停滞ムードの日本を打破する鍵となるのかもしれない。

■第1回、第2回は関連記事からご覧いただけます

動画で対談を見たい人はこちら↓↓↓↓

TEXT=ゲーテ編集部

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