やっぱり男のスタイルは頭がよくないと!

ひところ「モテる」「モテキ」なるキーワードが巷を席巻した。そればかりに拘泥していられないが、この世は男と女しかいないのは確か。我々のファッションがどう映るか、他者からの視線を考えるにはやはり女性の意見も聞くべきと小誌は考える。そこで3人の素敵な女性にご登場いただくことに。世代や職業も異なる彼女たちに、男のスタイルはいったいどのように映っているのか、とくとご拝聴。


女優 鈴木 保奈美

ファッションは身だしなみ。自己満足ではない

1966年東京都生まれ。86年デビュー。ドラマで女優としての地位を確立し、一世を風靡する。結婚・出産を機に芸能活動を休業し、約10年のブランク後、活動を再開。ファッションへの関心も高い。「最近やっと、好きだけど似合わないもの、似合うけれど好きじゃないもの、好きで似合うけれどライフスタイルに合わないものという取捨選択ができてきました。意外に最初好きだったスタイルに戻りますね。原体験に。それを現代風に更新して取り入れています」

映画『プラチナデータ』では遺伝子学教授を演じた。原作では男性だった役柄をあえて女性にしたのは、理性と母性の両極を持った存在であり、物語のテーマにも大きく関わるため。それは女優であると同時に、母として長期休業し子育てに専念した鈴木保奈美さんにふさわしい配役だったのではないか。そして男性のファッションにも聡明かつ優しい視線を注ぐ。
「最近、街を歩くお洒落な男の子を見かけると、なんかすごくいいなと思います。好き嫌いはないのですが、基本的には『あ、考えているんだな』と思えるのがいい。スニーカーひとつでも意図があって履いていることがわかった瞬間、イメージが3割ぐらいアップしますね(笑)」
 突き詰めて考えれば、それは人間的な信頼度という。
「そういうところに気を配ることができるというのは周りにも気を配れること。ファッショナブルかどうかはさておき、やはりファッションは身だしなみなので。それは自分だけのことじゃなくて人との関係のなかで必要なものであり、自己満足だけの世界ではないのですから」
 そうした男性のファッションのなかでも、特にスーツに憧れるそうだ。
「男性にとってはパターンが決まってしまうので面白味がないという捉え方もあるでしょうが、むしろ婦人服は何でもありで、自由の不自由さみたいなものを感じる。だからシャツ、タイ、ジャケットという決められた枠でいろいろな組み合わせや遊びができ、条件は同じなのにまったく違う印象を与えられるところに憧れるし、結局そこに着る人のキャラクターが強く出てくるのだと思います。そうしたこだわりに心の余裕というかどこかゆとりがあるように感じます。それはやっぱりインテリジェンスでもあるんじゃないかな」
 先日初めて百貨店のメンズ館に足を踏み入れたそうだ。そこで目にしたのは、販売スタッフも客も誰もがお洒落できちっとした空間だった。
「ここはすごいなと思ったんです。社会全体がこうなったら平和でいい(笑)。気持ちの余裕を持ってまず自分を大切にして、相手にも気を遣っていったら、世の中は楽しいし住みやすくなる。争いなんか起きませんよね」
 鈴木さんはそんなファッションの可能性を信じている。

わたしが考える頭のいいスタイルの男
グレン・グールド
「髪はクチャクチャなのに、必ずジャケットを着ていて。スーツの崩し方とかカッコいいですね。お洒落は個性でもあり、その人らしさだと思います。それと実在しないけど、スタイルでは『ハートカクテル』の男の人。清潔感があって、センスを感じる。愛用品を好きで選んでいる感じが素敵です」


バイオリニスト 奥村 愛

背伸びせず、その人らしいスタイルがいい

1979年アムステルダム生まれ。
4歳からバイオリンを始める。7歳までアムステルダムに在住し、帰国後、国内外で活動。2002年『愛のあいさつ』でCDデビュー。近作『ラヴェンダーの咲く庭で』。CMやテレビ、ラジオへの出演も多い。「最近思うのは反省はすごく必要だけれど、後悔はしてもしょうがないということ。後悔したところでそのコンサートはもう直しようがない。だから次に生かすことにエネルギーを働かせない

女性バイオリニストと聞けば、誰もが深窓の令嬢のような可憐な姿を想像するだろう。誤解されては困るが、もちろん奥村愛さんも間違いなくそのひとりだ。しかし会った時、イメージしていたロングヘアーは、春を思わせる軽やかなスタイルに変わっていた。聞けば前日、ドラマの撮影の仕事でヒロインがバイオリンを弾くシーンの代役をしたところ、髪型だけが異なっていることが現場で発覚。とはいえかつらをかぶればすむ程度の話だ。しかし奥村さんは惜しげもなく髪を切ることを選んだ。そんな男前なのだ。
「性格はすごい大雑把ですね。それでポジティブ。この性格ですごく楽だったなと思います」
 その前向きさから音楽だけでなく、幅広いジャンルにチャレンジしている。だがいずれも培った経験を演奏に生かすとともに、クラシックの魅力を広く一般に知ってもらうため。気負うことなく、自然体でこなし、それは男性のファッション観にもうかがえる。
「男性は背伸びせず、身の丈に合った、その人らしいお洋服を着ているのがいいかなと思います。音楽の世界でも本番直前に舞台袖に集まった男性陣を見ると、オッ!と見違えますね。普段とは違い、なぜか衣装に着替えると凛として格好よく見える。いやそんな気がする(笑)」
 それは単に華やかな衣装だから、というわけでもない。
「私たちにとってはいわゆる作業着みたいなものですから。仕事をするための。でも準備をしていく間に気持ちを高めていって、衣装に着替えると気が引き締まるという人は多いですね。やっぱり本人が集中したり、気合いが入った瞬間が美しいということでしょうね」と答える。
「でも同じスーツでも街中でよれよれを着ているビジネスマンを見かけますが、人格を疑ってしまう。逆に知的だなと思うのはバランスが取れていること。色使いがうまいのもバランスだと思います。ヨーロッパの音楽祭では、そうした着飾った人たちがたくさんいらして本当に格好いいと思いました。特に年配の方がすごく素敵ですね。気持ちの若々しさやお洒落を楽しむ感覚が伝わってきます」
 豊かな人生経験が男のスタイルの滋味を増すということか。それはどこか奥村さんが歩む音楽の世界にも似ている。

わたしが考える頭のいいスタイルの男
白洲次郎
「本当に素敵です。スーツ姿もTシャツとジーンズになっても。渋谷に名曲喫茶があり、創業者が大正のハイカラな人で、写真を見せてもらったらすごく格好いい人でした。その方も白洲さんに似ていましたね。多分、当時の最先端だったのでしょう。でもそれを今に置き換えても残念ながら匹敵する人がいないですね」


夏木 マリ

パートナーには私にお洒落を楽しませてほしい

東京都生まれ。1973年デビュー。93年から芸術表現「印象派」もスタート。2009年支援活動「One of LOVE」プロジェクトを始動する。最新マキシシングル『ALLIANCE』の楽曲では、音楽シーンを牽引してきた男たちを従えたPVが話題に。『私たちは美しさを見つけるために生まれてきた』(小社刊)を4月18日に発売。また、代官山T-SITEにて4月19日~23日に特別写真展「PLAYER MARI NATSUKI×MICHAEL THOMPSON」を開催する。

男は女が変えられる。
「ごめんね、上から目線で」と茶目っ気を見せながら、扇情的な言葉で夏木マリさんは語り始めた。その根拠となるのが、もっとも身近な男性であり、夫の斉藤ノヴ氏である。
「ミュージシャンである彼のファッションはとても攻撃的だった。でも今は生き方もヘルシーだったり、ナチュラルということにプライオリティが置かれていると思います。だからもう少し普通のスタイルがいいんじゃない? と薦めたんです」
 そして夏木さんは斉藤氏のファッションに対して、ひとつの希望があった。それは一緒に歩く時には、私にお洒落を楽しませてほしい、ということ。
「まず女性がお洒落をちゃんとできたうえで、自分のスタイルを決める余裕。彼女を立てて、楽しませてから自分のことを考える優しさであり、それができる男性が強く、賢いと思います。ひとりよがりになっちゃうファッションが多いけれど、一歩引いてくれる。そんなカップルでいられる世の中が素敵でしょ」
 そう聞くとまるでおのろけのようだが、夏木さんの話からはスマートな男女関係であり、賢い男のスタイルが思い浮かぶ。すると突然スタジオに斉藤氏が現れた。これには一同ビックリ。やはりふたりは呼応し合うのだ、まるで音叉のように。
 さて夏木さんにとって頭のいいとはどういうことなのだろう。
「現役感があるということ。やはり時代と向き合うには、それだけの体力というか、知恵やインテリジェンスが必要。だからファッションでも今を感じる人はやはり賢いと思いますね。そのためにも失敗を過去にたくさんしておくべきと思うんです。元気で体力のある頃にね。ゲーテ世代で失敗しておかないともう最後ですよ(笑)」
 最後はこんな話で締めくくった。
「以前パリで会った男性がずっとトレンチコートを着ていて、それで10年ぐらい経って久しぶりに再会したら同じトレンチを着ているんですよ。それを見た時にとてもインテリジェンスを感じました。きっとそのトレンチには彼なりの物語があると思う。ただお洒落というのではなくてね。そのスタイルにそれまでの10年間もちゃんと生きてきたという感じが伝わってきた」
 そんな夏木さんの眼差しが、男を磨くのかもしれない。

わたしが考える頭のいいスタイルの男
アルベルト・アインシュタイン
「もちろん頭はいいですよね(笑)。私はちょっとおかしいぐらいが好き。次元が宇宙規模というか、広いキャパシティを持っている人って、自分の立ち位置も整理されているように思います。でも、そこまでぶっ飛んでいると、意外とシンプルなものを着ていたりするんですよね。その内外のバランスに賢さを感じます」


Direction=島田 明 Text=柴田 充 Photograph=浅井佳代子(浅井佳代子写真事務所)

*本記事の内容は2013年3月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい