若いビジネスパーソンの新たなライフスタイルの選択肢「CCRC」とはいったい?

「CCRC」をご存じだろうか。引退した高齢者が生涯、楽しく元気に暮らす目的で各地に設立された高齢者コミュニティーのことだ。発祥は米国だが、日本政府も数年前、大都市で深刻化する介護者不足の解消と地方の過疎化の緩和という一石二鳥を狙い、「生涯活躍のまち(日本版CCRC)構想」を打ち出した。実はこの日本版CCRCが今、仕事にも遊びにも充実感を求める若いビジネスパーソンの新たなライフスタイルの選択肢として、注目されつつあるというのだ。


継続的ケア付き高齢者共同体

CCRCはContinuing Care Retirement Communityの頭文字を並べたもの。直訳すれば「継続的ケア付き高齢者共同体」だ。高齢者がまだ元気なうちに、専用の共同住宅や戸建てが並ぶ地域に移り住み、他の高齢者と交流したりボランティア活動や趣味にいそしんだりしながら、自立した生活を送る。医療や介護サービスも完備されており、安心して余生を過ごせる。これがCCRCの基本的な考え方だ。

日本政府が普及を目指す日本版CCRCは、これらに加え、高齢者がその地域で暮らしたり働いたりしている若い世代と日常的に交流することを念頭に置いている。様々な世代との積極的な交流が、高齢者の心身の健康維持や地域の活性化に不可欠との考えからだ。

この多世代交流を特に重視し、民間の立場でCCRCを推進しているのが、CCRCプロデューサーの佐藤順一郎さんだ。1971年生まれの40代で、自らも家族と一緒に沖縄に移住し、多世代交流を実践しながらCCRCの建設計画を進めている。

佐藤さんは先日、高齢者の暮らしを支援する一般社団法人66Love協会が東京都内で開いたイベントで、同協会のCCRC責任者として登壇。「CCRCで一番重要なのは、人と人とが交流するコミュニティーの存在。コミュニティーがないところにハードだけ作っても、CCRCは成功しない」と強調した。

コミュニティー形成の呼び水になり得る例として紹介されたのが、ワインだ。日本でもワイン文化が成熟期を迎えつつある中、脱サラして田舎に移住し、ワイン造りを始める愛好家が急速に増えている。自治体としても、農家の高齢化で増え続ける耕作放棄地の有効利用につながるほか、ワイナリーがある程度集積すればワインツーリズムによる観光収入や新たな産業の誘致も見込めるため、ワイン造りを積極支援する自治体は多い。

イベントで佐藤さんと対談した「前田龍珠園」オーナーの原田旬さんも、その一人。もともと会社員だったが、ワインで有名な山梨県勝沼町に親戚が所有していた歴史あるブドウ園を突然引き継ぐことになり、会社を辞めて2014年から夫婦でワインを造り始めた。植えられているブドウの木の樹齢は60年超。ワインは一般に、古木のブドウから造ったほうが果実の凝縮感があり、おいしい。生産量が少ないこともあり、原田さんの造るワインはなかなか手に入らない。

佐藤さんから地元の人や若い世代との交流について質問された原田さんは、「ブドウ園を訪ねて来る人たちの中には、いずれは自分でブドウを育て、ワインを造りたいと考える人も少なくない。そういう人たちには、勉強のために農作業を手伝ってもらうこともあります」と説明。さらに、「たまたま、うちのワインを飲んで気に入って下さった大学の農学部の准教授がおり、その縁で今、その准教授の生徒さんたちにブドウ園の畑作業を手伝ってもらっています」などと報告した。

山梨「前田龍珠園」のワイン。オーナーの原田旬さんは会社を辞めて2014年から夫婦でワインを造り始めた。

現実には、原田さんのブドウ園が核となってその地域に日本版CCRCが建設される計画は、今のところない。だが佐藤さんは、「CCRCの成功に不可欠なコミュニティーが生まれるには、そこに住む人の多くが価値観を互いに共有したり、同じ趣味を楽しんだりすることが大切。また、定住者だけでなく、長期や中期の滞在者や旅行者などを加えた柔軟な形のCCRCもありだと思う」と述べ、将来のCCRC設立の可能性に言及した。

CCRCにこだわらず、独自の移住支援プログラムを用意して若い世代の誘致に力を入れる自治体は増えている。IT(情報技術)が発達し、どこにいても大抵の仕事が支障なくこなせるようになった今、ワーク・ライフ・バランスを求めて田舎に住みながら東京の会社に勤務したり、独立して田舎で起業したりするビジネスパーソンは多い。

そうした中、日本版CCRCのメリットは何か。それは、共通の価値観や趣味を持つ人生やビジネスの先輩からいろいろなことを学んだり、助けてもらえたりする機会がより広がる点だ。価値観や趣味が共通するだけに、オフビジネスの楽しみも増える。

作家の故・堺屋太一氏は、バブル経済崩壊後の2000年前後、「日本は地縁・血縁社会を経て、職場のつながりを重視する『職縁社会』に移行したが、これからは趣味や好みを共有する人たちで成り立つ『好縁社会』が訪れる」と予想した。事実、SNSの普及などで好縁社会は現実のものとなりつつある。日本版CCRCは、そうした好縁社会をより一層進化させたものと言えるかもしれない。

Text=猪瀬 聖