子育ての基本は「ほめる」ではなく「勇気づけ」 ~親子関係はアドラー心理学で解決①

仕事では実績を上げ、高い評価を受けているし、周囲からの信頼も厚い。ところが、相手が我が子となると、努力と成果がどうも見合っていないような……。前回、夫婦関係の悩みを、アドラー心理学をベースにズバリ解決してくれた熊野英一先生が、今度は親子問題をレスキュー! 


アドラーが考える子育てのゴールは「子供が自立した人間になること」

子供のことは愛しているし、大切に思っている。だからこそ、良い子になってほしいと願い、ほめたり、叱ったり、なだめたり、おだてたりするわけだが、どうも効果が表れない。そのうち、こちらも感情的になり、子供にきつい言葉を浴びせてしまい、子供の泣き声でふと我に返る。「またやってしまった……」。

「子供に対してイラッとしてしまうのは、相手が自分の期待通りの言動をしてくれないから。けれど、子供をコントロールしようとすること自体が間違っているのです」と、熊野さんは指摘する。

子育てにおいてアドラーが提唱するのは、「子供を、自分で考え、決定し、行動できる自立した人間に育てる」こと。

「親が、ほめたり、叱ったりして、自分が思う”良い子”に誘導していては、子供の自主性は育ちません。『ほめられるからやる』『叱られるからやらない』というように、相手の気持ちを忖度して行動する人間になってしまう危険性すらあります。私は、さまざまな企業の人材育成にも携わっていますが、最近は、上司が指示をしないと動けない若者が増えています。幼い頃から親の意向を慮って行動してきたので、自分の意思や考えで行動することができなくなっているのでしょうね」

そもそも「ほめる」も「叱る」も、立場が上の者が下の者に対して行う行為。

「部下が上司に対して、『よく頑張っていますね』などとほめることはしませんし、叱ることもしませんよね。『ほめる』も『叱る』も、上から目線の、いわば“縦の関係”における行動。アドラーは、親子であっても、コミュニケーションは対等であるべきとしています。だから、親は子供をほめる必要もないし、叱る必要もありません。子供を、自分と対等な存在として認め、彼らが自分の課題を自分で克服できるように”勇気づける”だけで良いのです」

“親の都合”でほめられるより、まるっと受け入れてもらえる方が子供は嬉しい

とはいえ、昨今耳にするのは、「ほめる子育て」。多くの教育者が、「子供はほめて育てた方が、伸びる」と主張し、同調する親も目立つ。

「確かに、頭から怒鳴りつけるより、ほめる方がいいとは思います。でも、『ほめる』のは、行動した結果に対してなされるもの。しかも、親や先生、世間の期待値を超えた時に、『よくやったね』『すごいね』と言ってもらえるわけですよね。裏を返せば、大人が設定した期待値や基準を超えられなければ、なんの言葉ももらえないということ。となると、子供は、『どんなに頑張っても、期待値を超えられるかどうかわからないし、うまくできなければ、親に失望されたり、さらにハッパをかけられかねない。だったら、初めからやらない方がいい』などと、チャレンジしない子になってしまうかもしれません。また、ほめてくれる人がいないと、行動に移さない人間になるという弊害も考えられます。

それよりも、たとえうまくできなくても、子供をまるごと認めて、受け入れる。親がそうしてくれれば、子供は自分の存在価値を確認でき、失敗しても心折れることなく、次もまたチャレンジできる人間へと成長するはずです」

自己受容、他者信頼、他者貢献が備われば、ハッピーに生きられる

アドラーは、幸せの3条件を、「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」だと説く。こと子育てに関しては、「3つめの『他者貢献』を『自己肯定感』とセットにして捉えると、わかりやすい」と、熊野さん。

「ダメなところも含めて自分を受け入れる『自己受容』と、親子間の揺るぎない『信頼関係』。そして、自分の存在そのものが、すでに価値を持っているという『自己肯定感』をベースに、そんな自分が家族や友達に価値提供できていると思える『他者貢献』の喜び。その3つが子供に備わるように、勇気づけし続けることこそが親の最も大切な役目だと思います。

まずは、子供をコントロールしようとすることをやめましょう。そして、子供をまるっと受け入れ、彼らが自分で考え、決断し、行動できる人間になれるように、勇気づけをする。子供への対応に迷ったら、この原点に立ち戻ってください。そうすれば、『今自分は、この子に対してどんな言葉をかけるべきか』が、きっとわかりますよ」

この心得をベースに、次回からは、「子供がゲームをやめない」「勉強しない」「兄弟ゲンカはどう仲裁すればいい?」など、具体的な悩みに熊野さんが回答していく!

アドラー心理学とは
ユダヤ系オーストリア人心理学者アルフレッド・アドラー(Alfred Adler、1870-1937)が築き上げた心理学。個人とは分割できない存在であるという理論のもと、現代のさまざまな問題に具体的な解決法を与える実践的な心理学として、臨床現場はもちろん、学校や家庭や企業でも活用されている。


Eiichi Kumano
アドラー心理学に基づく「親と上司の勇気づけ」のプロフェッショナル。日本アドラー心理学会正会員。1972年生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業し、メルセデス・ベンツ日本勤務の後、アメリカのインディアナ大学ケリー経営大学院に留学、MBAを取得。帰国後、保育サービス業などを経て、2007年、株式会社子育て支援を創業。著書に『アドラー式働き方改革 仕事も家庭も充実させたいパパのための本』などがある。

『アドラー式子育て 家族を笑顔にしたいパパのための本』
熊野英一
小学館 ¥1,404

Text=村上早苗 Photograph=鈴木克典