至高のホテル 今、どこより気になるホテル Vol.01 グランド ハイアット 東京

施設やイベントなど、東京のホテルに大きな影響を与え続けてきた。そのホテルの要である伝説のホテルマンの姿を通して、10年間の挑戦を探る。

誰もが主役になれる大劇場のような世界

 11月1日、ホテル業界に衝撃が走った。クリスマスにグランド ハイアット 東京のグランド ボールルームで、矢沢永吉がディナーショーを行うと発表したのだ。
 ホテルのディナーショーは演歌系歌謡曲が主流。宴会場に懐メロ系の歌手を呼ぶのが通常のスタイルである。しかし、グランド ハイアット 東京はスタジアムを満席にするロックシンガーをそこへ迎えようというのだ。客層も普段とはまったく異なるテイスト。キャパシティ、スタッフの質と数、組織力……などすべてに自信がなければ、たとえ思いついても実現できないイベントだ。
「命がけで働いてくれ」
 本郷潤二副総支配人は、熱のこもった口調でスタッフの士気を高めた。
 12月24日、25日は、グランド ハイアット 東京がエンタテインメントの殿堂になる。

ゲストを高揚させる光り輝く大階段

 今年、開業10周年を迎えたグランド ハイアット 東京がある六本木ヒルズは、ひとつの“街”だ。東京の中心、六本木6丁目の11.6haには、200を超えるショップ&レストラン、9つのスクリーンを持つシアター、テレビ局、緑豊かな庭園、会員制ライブラリー、美術館などがあり、いくつもの企業が本拠を置いている。
 その中にあるグランド ハイアット 東京は、そこを訪れるひとりひとりをドラマの主人公にする劇場だ。
 スタッフに迎えられてロビーに入ると、明らかに空気が濃厚なことに気づく。シトラス、アルデヒド、ムスク……。さまざまな国の人のさまざまなパフュームがブレンドされた香りが鼻腔を刺激する。その香りは空港の国際線ラウンジを思いださせる。日常とは遠く離れた世界へいざなわれるのだ。
「日本でありながら、日本でない空間」
 この外資系ホテルで日本人トップとして采配を振る本郷氏が強く意識しているテーマだ。そして、これは1000人近くいるスタッフにも浸透されてきた。
「勤務時間内は外国にいると思え!」
 ホテル内すべてのスタッフが肝に銘じている。それを思うと、ゲストたちが発するロビーのパフュームの香りは、はからずも、東京にいながらにして旅を実感できるホテルの演出効果になっているのだ。
 そのロビーで、ドアを背にチェックインカウンターと向き合うと、これからどんなエキサイティングな出来事が展開するのか──。わくわくしてくる。
 上手には大階段がそびえる。10年前のオープン当初からゲストが競うように予約をするレストラン、『フレンチ キッチン』へと向かう花道だ。下手のエスカレーターホールの先、宴会場へ向かう大きくなだらかなラインを描く階段は螺旋状で、こちらは空に昇っていくかのよう。
 どちらの階段もステップが美しく輝く。この光の階段を昇る時、あるいは降りる時、気持ちは高揚し特別な時間を感じる。
「このホテルを訪れている時は、ゲストにいつもよりも3割、4割、5割増しの自分になっていただきたい」
 本郷氏が願うとおり、ホテルのスタッフたちは、ゲストを主人公にした物語の名脇役に徹する。そこを訪れる誰もが心地よく自分らしく過ごすことをファーストプライオリティに、サービスが行われているのだ。
 日本のラグジュアリーホテルには、昔からその場にふさわしい服装や振る舞いがある。男性は、客室を一歩出たら、スーツかジャケットを着用するのが身だしなみだ。
 つまり、ホテル側が自分たちのゲストを定義してきた。
 グランド ハイアット 東京の発想は真逆だ。
「自由な空間をご提供して、ゲストには、自分の思うお洒落で楽しんでいただきたい」
 発想はシンプルだが、懐が深くなければ実現できない要件だ。ビンテージのデニムにスニーカーでロビーを横切る人もいれば、ハーフパンツにビーチサンダル姿まで見かける。こんな光景は他のラグジュアリーホテルではありえない。そして、よく見ると、その人だけの着こなしの妙があり、ホテルの雰囲気と絶妙にマッチして、ビンテージにも洗練が感じられる。
 ゲストの個性的な装いはホテルを画一的にしない効果を生み、エンタテインメント性をより際立たせる。プラスのスパイラルを生んでいるのだ。
 10店舗あるホテル直営レストラン・バーでも、常識にとらわれない大胆なサービスを行う。
 洋食系のレストランでも箸を用意しているのはもちろん、3世代家族が食事をしている時、おばあちゃんが和食を希望すれば日本料理の店のメニューから料理を運ぶこともいとわない。ゲスト主体ですべてのサービスが行われる。スタッフが常に臨機応変に動く身体と気持ちを備えているからこそできる対応だ。
 晴れた午後など、テラス席で握り寿司を楽しむ外国人の姿もある。このサービスには、当初レストランスタッフが難色を示し、本郷氏が説き伏せた。
「屋外で生の食材を提供するんですか!?」
「テラスで寿司を食べたら素材はすぐに傷むのかい?」
「いえ」
「お客様に喜ばれるならば提供しよう。できるだけ早く召し上がるようにと、ひと言添えればいい」
 すべてのレストランがホテル直営なので、本郷氏の采配でジャッジできるのだ。

本郷潤二の人生はホテルとイコール

 本郷氏はいうなればグランド ハイアット 東京という劇場の総合プロデューサーだ。一日の大半の時間ロビーに立ち、頻繁に各フロアを巡回し、采配を振る。
 そして、同時に、ホテルのイベントプロデューサーの役割も担っている。
 その産物が、クリスマスに行われる矢沢永吉ディナーショーであり、毎年夏と年末に開催され、この12月27日に20回を迎えるディスコナイト「CLUB CHIC」。本郷潤二プロデュースの、'70年代のダンスクラシックスを愛する大人たちのイベントだ。
 その夜は1000平方メートルのグランド ボールルームに1500人が集い、深夜まで踊り続ける。ミラーボールが回るなか、オールディーズの軽快なダンスナンバーでステップを踏み、照明を落として官能的なスイートソウルミュージックでチークを踊る。
 ラグジュアリーホテルとディスコが奇抜な組み合わせに感じられたのだろうか、スタート当初は集客に苦しんだ。しかし、今ではホテルの人気イベントに成長し、回を重ねる毎にグレードアップしている。今やこのディスコをモチーフにした'70年代ディスコパーティーが、都内各所で行われ、オールドスタイルのディスコがブームになっているほどだ。毎回即完売しているVIP席で、この冬はドン・ペリニォン ヴィンテージ2003やアンリ ジローNV限定ボトルなど最高級のシャンパンがフリーフローで供される。
 こうしてオープンから10年、グランド ハイアット 東京は絶えず革新的な企画を提案し、実行し、オープン以来本郷氏が特に目を配っている料飲部では、最高売り上げ記録を更新中。
 その成果の源泉は、ホテルに対する思いの強さだ。それはもはや「ホテルマンの魂」と言っても大げさではない。本郷氏の人生はホテルとイコールだ。この副総支配人の生活にONとOFFの境界線はない。常にON状態で24時間グランド ハイアット 東京とともにある。そこにはまったくぶれがない。
 CLUB CHICも成功を信じてとことんエネルギーを投入した。ディナーショーへの思いも同じだ。矢沢氏の事務所の社長の問いかけにも本郷氏は即答した。
「矢沢の公演で、12月24日と25日、ホテル全体の雰囲気ががらりと変わってしまいますが、よろしいのでしょうか?」
「もちろんOKです」
 ホテルと本郷氏がイコールの関係だからこその即決だ。
 そして、グランド ハイアット東京では、本郷氏同様常に仕事に対してONの状態で生きる「24時間ホテルマン」が日に日に増殖している。だからこそ、常にドラマが生まれている。

【10年間の挑戦】

'70年代のヤンチャたち感涙のディスコパーティー
CLUB CHIC

2005年の年末にスタートした大ディスコパーティー。本郷氏自らステージに上がり、観客を盛り上げる。12月27日に開催する第20回は、Bro. KONEやマイケル鶴岡のライブも予定している。20時スタートで深夜まで開催(最終入場は23時30分)。フリードリンクの一般席¥15,000、高級シャンパンのフリーフローがつくVIP席¥25,000。

都内初! 専用テラスつきラウンジ 
グランド クラブ ラウンジ
グランド クラブ ルーム以上のゲスト用ラウンジは緑豊かなテラスつき。専用デスクでスムーズなチェックイン&アウトが行え、朝食やドリンクも提供。石彫家、和泉正敏氏による作品も空間の一部。

クルマで滑りこんだ時からドラマが始まる駐車場
ホテルエントランスにクルマを滑りこませた時から、エンタテインメントはスタート。専用スタッフにキーを預けるだけで、周囲の目線にほぼ触れることなくチェックインできる。

館内を飾る200点以上のアートプログラム
東洋と西洋の出会いを意識した、コンテンポラリーなアートを、あちこちで鑑賞できる。上:神殿前ホワイエに飾られた千住博氏の作品。下:エレベーターホールのアートはジュン カネコ氏によるもの。

ショースタイルを意識したオープンキッチン 各レストラン
館内の多くのレストランはオープンキッチンスタイル。味覚だけでなく、視覚、聴覚、嗅覚……で料理を楽しめる工夫が。写真はステーキハウスの『オークドア』。

プライベートのシェフの料理とパフォーマンス 
シェフズ テーブル

『フレンチ キッチン』の個室にはドイツのブルトハウプ社の最高級キッチンシステムを設け、シェフのパフォーマンスを目の前に食事を楽しめる。なんとも贅沢な場所だ。

テラス席の光や風の香りが料理の味を引き立てる 各レストラン
屋外を好む外国人ゲストも多く、複数のレストランにテラス席がある。リゾート感溢れる空間で、さまざまな料理を味わうことができる。写真は『オークドア』。

人里離れた山間の宿を訪れたかのような離れ 
旬房・料亭

日本料理の『旬房』は世界的に有名な杉本貴志氏がデザイン。香川県の庵治石を大胆に使った。離れの『料亭』(写真)は都心のホテル内と思えない静かな佇まい。

【まだまだ先陣を切るこれからの取り組み】

矢沢永吉プレミアムライブ
矢沢永吉初めてのディナーショーが12月24、25日に開催される。EIKICHI YAZAWA SPECIAL NIGHT「Dreamer」と銘打たれたこのライブにかける意気込みは熱い。矢沢氏からは「去年、日産スタジアム6万5000人を熱狂させた矢沢が、真反対のディナーショーをやる……。次は何をやらかすのか……」というコメントが、ゲーテ編集部に寄せられた。宴会場がどのようなステージに変貌するのか? ホテルにとっても前代未聞の挑戦になる。

オーク ドアのセラーでお気に入りのワインを見つける
『オーク ドア』のワインセラーを使ったプランを検討。ここでハムやチーズなどのオードブルとともに、ワインの試飲ができる。ワインはアメリカ西海岸や南米などの、ニューワールドが中心。

インターナショナルなディスコイベントを企画中
30~50代の日本人を集めたCLUB CHICの成功を踏まえ、外国人ゲストをイメージしたディスコイベントを予定している。「国際的なホテルらしい、ダイナミックでドラマティックなイベントにします」


タッフのモチベーションアップに尽力
ここで働くことにスタッフが誇りを感じられるよう、さまざまな努力がある。3日間他部署を体験するクロストレーニングや、系列の海外ホテルへの研修も積極的に行う。写真はリニューアルされた海外の倉庫風にイメージされたスタッフ用カフェ。デザイナーズチェアが配されている。

プレジデンシャル スイートホテルの最上階、21階を占有する260平方メートルのスイートルーム。温水のプライベートプール(写真奥)、坪庭つきのコネクティングルームを持つのは都内でここだけだ。大きな窓に囲まれ、たっぷりの光が降り注ぐ。「冬、雪の朝に巡り合えたお客様は、真っ白の東京を自分たちだけのものにできます」。1室¥1,186,500
※消費税込・サービス料別。宿泊の場合は、宿泊税別。
本郷潤二
グランド ハイアット 東京副総支配人執行役員。1958年東京都出身。'77年東京ヒルトン入社。ホテル日航福岡などを経て渡米。不自由だった英語を駆使しシカゴで120名の大リストラを担当。アトランタ、金沢を経て、2000年グランド ハイアット 福岡料飲部長。'02年に同ホテル東京へ。

Text=神舘和典 Photograph=川口賢典、岡村昌宏

*本記事の内容は13年11月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい