まるで壇蜜⁉ 妖艶な雰囲気を醸し出すベントレー「ベンテイガ・スピード」の魅力【深堀クルマNEWS】

100年に1度の変革期を迎えたと言われる自動車業界。本連載では、国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで、幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から業界の今を深堀する。最先端のクルマ紹介はもちろんのこと、 歴史ある名車の今と昔、自動車ブランド最新事情、今手に入るべきこだわりのクルマたち等々、さまざまな角度から深堀する。第2回は、 ベントレー・ 「ベンテイガ・スピード」 について。


SUVのゲームチェンジャー  

未だ熱気冷めやらぬ、世界的なSUVブーム。日本市場では、今や軽自動車から超高級車までが揃うほどだ。その過程では、いくつかのゲームチェンジャーといえる存在が登場してきた。今回、紹介する「ベントレー・ベンテイガ」も、そのひとつだ。

ベンテイガは、英国のラグジュアリーカーメーカー「ベントレー」が、2015年9月のフランクフルトショーで世界初公開したラグジュアリーSUVである。その存在は、ショーファードリブンやラグジュアリークーペを手掛けていたベントレー初のSUVであると共に、最もハイクラスな超高級SUVが世に送り出されたことを意味していた。

全長5mを超えるボディは、圧倒的な存在感を放つが、優雅さも併せ持つ。その中には、惜しげもなくハンドメイドによるレザーやウッドなど天然素材を取り入れたキャビンが備わり、快適な移動を提供してくれる。これらの点は、他のベントレーとも共通するが、最大の違いは、その優雅さとは裏腹に、高い悪路走破性を備える点だ。さらに、600psを超えるハイパワーエンジンを搭載することで、最高速度は300㎞/hを超えるスポーツセダン顔負けの高速走行まで許容する。

まさに高級セダンの快適性とSUVの高い走破性を身に着けたベンテイガは、世界中の欲張りな富裕層の気持ちをしっかりと掴み、新たな市場を開拓に成功。その後のさまざまな高級SUVの誕生に大きな刺激となった。そのベンテイガを、よりスポーティに仕立てたのが、今回の試乗車である「ベンテイガ・スピード」だ。

ベントレーが世界最速の量産SUVと謳う「ベンテイガ・スピード」の特徴は、その名が示すように、スポーツ性能の向上だ。ベース車同様、6.0LのW型12気筒ツインターボエンジンを搭載するが、性能向上が図られている。最高出力635ps、最大トルク900Nmを発揮。スペックだけを見ると、+27psの馬力の向上に過ぎないが、これにより0-100㎞/h加速が、-0.2秒となる3.9秒。最高速度は、+5㎞/hの306km/hまで高められた。また、その性能を遺憾なく発揮できるよう、サスペンションにも、専用チューニングが加えられている。

いうまでもなく、ビジュアル面も専用仕様が施されており、主な違いとして、ダーク仕上げのグリルや専用デザインの22インチアルミホイール、大型のテールゲートスポイラーなどが挙げられる。またインテリアでは新たな試みとして、ベンテイガ初となるアルカンターラ素材を用いた。このように特徴を挙げていくと、かなり限定的ともいえるが、奇をてらう派手な演出よりも、細やかなアクセントで、しっかりと違いを見せる。これはベースモデルの存在を否定せず、モデルとしての品格も重んじるラグジュアリーカーらしいプライドの表れでもあるのだろう。

パープルを纏うベンテイガ・スピードは、かなり妖艶な雰囲気を醸し出す。例えるなら、ちょっと謎めいた雰囲気を持つ大人の女性。私の脳裏に浮かんだのは「壇蜜」の姿だ。ブラックグリルや大型のテールスポイラーなどのアクセサリーが、何処か危険な香りも漂わせる。インテリアは、ブラックを基調としたもので、単にスポーティなだけでなく、華やかなエクステリアと絶妙なコントラストとなり、内に秘めた洗練さや知的さを感じさせてくれる。オプションで、レザーインテリアとすることも可能だが、この艶っぽさは、アルカンターラによる貢献も大きい。もちろん、手触りの良さと温かみはアルカンターラに分があり、乗員に、より包み込まれるような安らぎも与えてくれる。

スピードの乗り味は、標準車と比べると、やや硬質だ。もちろん、快適性も十分考慮した範囲での味付けだが、標準車の持つ絨毯のような滑らかさではなく、堅牢さやスポーティさを意識させる足回りに仕上げられている。これは標準車よりも、さらにドライバーズカーとしてのキャラクターが強められていることを意味する。最も街中では、ハイパフォーマンスの象徴となる635馬力の性能を感じることはできないが、12気筒エンジンの素性の良さを、堪能することは可能だ。滑らかな発進とスムーズな加速は、贅沢な大排気量エンジンによるもの。このため、2.5tもある車重のことを思い起こすシーンは、皆無である。

そして専用チューニングが加えられたエキゾーストノート(排気音)が、ドライバーの心を刺激してくれる。最も心配される都市部の取り回しだが、もちろん全長5150mmと全幅1995mmあるボディなので、サイズ感を意識することは重要だ。しかし、ドライバーの視点が高いこと、後部の車幅感覚が掴みやすい特徴的なリヤフェンダーを備えることで、想像するよりもずっと運転しやすいことを付け加えておく。

スポーツカーの一面も備えるベンテイガ・スピードは、世界的にも好評で、2020年モデルでは、たった20台しか日本に導入されない貴重な存在だ。価格は、3000万円と高価だが、ベースモデルとの差は、わずか100万円程度と意外とコストパフォーマンスも高いモデルともいえる。忘れてはならないのは、決して、ベンテイガよりも優れるモデルが、ベンテイガ・スピードではないことだ。最大の違いは乗り味にある。あなたがショーファードリブンに相応しい究極の快適性を求めるなら、ベンテイガがベターだ。ただスピードモデルの懐も深く、高い快適性に加え、よりドライバーを魅了するスパイスが与えられているモデルだ。アグレッシブなライフスタイルには、よりスピードが映えるだろう。

Yasuhiro Ohto
1980年埼玉県生まれ。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後、フリーランスになり、現在は自動車雑誌やウェブを中心に活動中。主な活動媒体に『ベストカーWEB』『webCG』『モーターファン.jp』『マイナビニュース』『日経スタイル』『GQ』など。歴代の愛車は、国産輸入車含め、全てMT車という大のMT好き。