オザケン is comin' back ~野村雅夫のラジオな日々 vol.2 小沢健二~

現在、大阪のFM802を中心に、ラジオDJや翻訳家などさまざまな顔を持つ野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらいます。

外からの視点を持っている人には、その役割がある

「雅夫さん、小沢健二は好きですよね?」

先月、FM802のプロデューサーが聞いてきた。「まぁね」とばかりに頷いた僕に、彼はいつもよりいくぶん高揚した様子で企画について説明してくれた。4月に大阪城ホールで単独公演が予定されているので、その盛り上げをFM802と姉妹局FM COCOLOで考えていること。普通のプロモーション的なインタビューでは面白くないので、2局からふたりずつ世代の違うDJを選んで、ざっくばらんに語り合う対談を収録したいこと。幸運にも、そして光栄にも、そのひとりとして僕に白羽の矢が立ったというわけだ。

題して、Our Osaka Our Ozawa。FM802とFM COCOLOの表記には、4つの輪(○)がある。ラジオからどんな4つのトークの輪(○)が広がるのか。僕らのオザケンが大阪城ホールでライブをする理由とは? 春を前にして「大阪」を想う『私たちの大阪、私たちの小沢』。

企画を仕切ったディレクターが考えたコピーは気が利いているものの、出演するこちらからすれば、気が気ではない。曲は当たり前のようにかけているし、ライブは一度観ているものの、直接会ったこともないし、好きではあるがマニアというわけでもない。あちらはレジェンドでも、こちらは一介のラジオDJだ。対談なんて、成立するのか。

「大丈夫ですって。事前に雅夫さんのプロフィールなどはお渡ししておきますから」

「じゃあ、僕にできる準備は、新譜を聴くことと……あとは心構えくらいなのかしら?」

「ハハハ、そうですね。台本は特に用意しませんし、先方のご希望で、事前の打ち合わせもなしです」

不安だ。心構えといったって、イタズラにあれこれ想定したところで、無用な緊張を自ら煽るだけになってしまいかねない。僕にできたのは、自分がいつどのように彼の音楽に接していたのかを思い出すことくらいだった。

ファースト・コンタクトは、フリッパーズ・ギターの『恋とマシンガン』。90年のドラマ『予備校ブギ』の主題歌だったが、確か翌年あたりに再放送されていたものをキャッチして、ブラウン管を前に小学生の僕は無意識に身体を揺らせたこと。

名盤『LIFE』は、94年。僕は高校1年生で、ギター部に所属していたから、収録曲を弾き語りでよくコピーした。『ラブリー』のコードは初心者には難しくてまったくラブリーとは思えなかったこと。

母親におねだりして誕生日に買ってもらったダッフルコートを学ランの上に羽織り、ウォークマンで『ドアをノックするのは誰だ?』を聴いていたら、歌詞にそのダッフルコートが出てきて何だか嬉しくなったこと。

大学院生の頃、友達が『今夜はブギー・バック』のスチャダラパーによるパートを完コピしたことに驚き、ラップに興味を持ったこと。

ああ、枚挙に暇がない。かくして、収録の日はあっという間にやってきた。

普段なら、僕がゲストをスタジオで出迎えるわけだが、今回は対談だということもあり、逆の構図で、小沢さんは既にブースに陣取っていた。僕がおそるおそるそこへ入っていく。挨拶も抜き。僕がヘッドホンを装着したのを合図に、いきなり新曲の『アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)』が流れてくる。それを黙してふたり丸ごと聴いた。無音。

「あ、野村雅夫です」

「小沢健二です」

「いやあ、こんな風にして聴くの、初めてですけども。これ僕、感想言っちゃっていいんですか?」

「どうぞ」

そこからは無我夢中の30分強だった。もう放送したものだから、ここで逐一内容を書き起こすようなことはしないが、印象に残っていることについていくつか触れておきたい。

「羽田沖 街の灯がゆれる」という歌い出しで、僕などは「オザケン is comin' backだ」と興奮した昨年のシングル『流動体について』がいかに細かく作り込んだサウンドだったか。対して、今回の『アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)』は、勢い重視でラフに仕上げた理由。それは、彼にとって初の映画主題歌となった『リバーズ・エッジ』の原作岡崎京子の絵のタッチを意識したからだという。

たまたま『リバーズ・エッジ』の完成披露舞台挨拶でMCを務めていた僕が、「この頃は目が見えないから」という歌詞を踏まえ、「あの作品は目に見えない空気感のようなものを行定勲監督がしっかりすくい取っていて、ぞくぞくきました。映画を観ていると、時にそこに映っていないことに興味があるんですよ」と話すと、小沢さんは返す刀で「音楽も僕が好きなやつはそうです。入ってない音に魅力がある」とおっしゃった。何かの表現を鑑賞するうえで、とても示唆的なものを含む言葉だと思う。

長い時を経て「羽田に降り立った」小沢健二が、今の日本をどう見ているのか。「見た目は洋風、中身は関西風、そして名前は純和風」なおかげで、日本にいようがイタリアにいようが、どこにいようが異邦人を自称する僕としては、せっかくの機会なので聞いてみたかったことだ。

結論から言えば、大同小異。細かく言えば、もちろん変わっていることはたくさんあれど、極端な構造変化は起きておらず、率直な想いとしては「変わってないなぁ」ということらしい。良し悪しは別として。

そういう話から、彼は「外からの視点を持っている人には、その役割があるのだと思いますよ」と言った。僕のようなものの存在意義についても気配りをしてくれたのだろうが、そっくりそのまま、僕は同じ図式を日本の音楽シーンと小沢さんの関係に当てはめていると伝えた。

21世紀になってからの(表現者としての)沈黙と、物理的な不在を経て、今後、本人の好むと好まざるとに関わらず、小沢健二という音楽家のアウトプットには、あの90年代とはまた違う関心がついてまわるだろう。

改めて、CDジャケットという形をぶっ壊したというシングル『アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)』は販売中で、小沢さんは4月から5月にかけて、「36人編成ファンク交響楽」という、これまたぶっ飛んだ編成のライブ『春の空気に虹をかけ』を大阪城ホールや日本武道館などで開催する。まずはここに照準を合わせて注視したい。

収録が終わり、小沢さんはあたふたと生放送のスタジオへと移動された。一応、対談という形にはなった、かな。「次にお会いしたら、またもっと面白いことになりますよ、きっと」。その日の別れ際、そんな言葉をかけてくれた。

僕は高校の頃に買って以来20年以上着続けているダッフルコートで身を包んで、局を後にした。ヘッドホンからは、Life is comin’ back。どんな未来が来るのだろう。期待の輪が広がった。

※この対談の模様は2018年2月23日(金)に、FM802 Ciao! MUSICA内で放送された。

FM802 Ciao! MUSICA(fri. 12:00-18:00)番組ウェブサイト   

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