ママの手料理を3000円で食べ放題!?~玉袋筋太郎のスナックミシュラン⑨学芸大学『胡蝶』

全日本スナック連盟の会長である玉袋筋太郎さんがスナックを巡り、プロの目線で、ママやお店の評価を下す連載「スナックミシュラン」。日本列島津々浦々、スナックは全国に7万軒もあるというのに「興味はあるけど行ったことがない」なんて人も多いはず……。玉袋筋太郎さんが、ママのキャラ、お店の雰囲気、つまみ、歴史、時にはお客さんの質まで、深い愛情を持って★をつけていきます。  第9回は東京・学芸大学にある『胡蝶』。 
  

今回は、学芸大学の第2弾。前回とは駅の逆側となる西口の一軒、『胡蝶』。紫色の看板に細い階段という、いかにもスナックらしいアプローチで、これぞスナックという感じだ。オシャレな若者が住み、チェーン系のお店も増えている学芸大学で、50年以上続く老舗スナックの大ママとママに話を聞いた。

スナックで家ご飯

玉ちゃん:はい。今日は胡蝶さん。まず、この料理を見よ!

ママ:うち、3000円で食べ放題ですー。

編集:すごいですね、これ食べ放題なんですか!?

玉ちゃん:そう。こっちがギブアップって言うまで出てくるからね。

ママ:お腹が空いてるのであればね。いくらでも出しますよ。

編集部:これ、つまみというレベルじゃないですよね。

玉ちゃん:そうなのよ!

ママ:今日はないけど、いつもは米もの、汁ものなんでもやりますよ。

玉ちゃん:餃子も作るしね。

編集部:餃子?タネから作るんですか?

大ママ:寒い時は湯豆腐なんかもやるよ。1人前ずつね。

編集部:すごいなぁ、ここスナックですよね?(笑)

ママ:歌いながらご飯も食べられるスナックでーす。

玉ちゃん:初めて来た時は、衝撃を受けたよね。こんなとこあるのか! って。それが胡蝶の魅力なんだけどさ、なんでここまで身銭切ってやってんだって話なのよ。なんだけど、ママも大ママも、料理作るのが好きだからって言うんだよね。

ママ:そ、好きなのよ。あと、大ママもよいお年ですのでね、やめたらボケるだろうって、リハビリも兼ねてね(笑)。できる間はのんびりやらせてもらおうかなって。

玉ちゃん:この料理、仕込みを考えたら、のんびりできる量じゃないけどね(笑)。でも、ひとり暮らしの人とかさ、ファミレス行ったり、ジャンクフードを食べるより、ここに来た方がよっぽどいいよね。

ママ:まぁ、うちには決まったメニューはないからさ、大ママと私の気分料理なので、毎日違ったものになっちゃうけどね。

玉ちゃん:今はさ、コンビニの惣菜とかも、すごくレベル上がってるじゃない。それをチンして食べるのもいいけど、胡蝶には人という温かみがあるからね、一味違うよ。

バブルからのジョブチェンジ

玉ちゃん:胡蝶は何年になるんだっけ?

ママ:私が来て20年だけど、その前に大ママが小料理屋をやっててね、その流れで料理があるんだけど、小料理屋を入れると53年かな。

編集部:ママは、胡蝶に来る前は何をされていたんですか?

ママ:私はグラフィックデザイナーだったんですよ。でも、母親っていうか大ママがね、ずっと小料理屋をやっていたからね。子供の頃から、小料理屋に行っては、おじさんに奢ってもらったりしてね。

大ママ:懐かしいわよねぇ。バブルの時代よね。

編集部:そっか、そういう時代ですよね。

大ママ:そうよ、それこそ、この子(ママ)が学生の時代なんかさ、お正月とか、ちょくちょく店に顔出しては、お客さんからお小遣いもらってたわよ。お店のお会計で3000円しかもらってないのに、お客さんが「ママの娘か!」って言って、1万とか2万とか、この子にポンポンあげるのよ。この子、1日で30万くらいお年玉もらっちゃってさ。

ママ:でも、ブランドものとかじゃなくて、製図台とか一眼レフとか買ってたの。真面目でしょ(笑)

大ママ:そういう時代があったよね。

ママ:そうよ、歌を1曲でも歌えばね(笑)っていうか、小料理屋なのにカラオケがあって、当時はレーザーディスクでね、1曲いくらみたいなシステムでね。

大ママ:そう、10人足らずのお店だったんだけどね、それでも学大一売り上げて、カラオケのメーカーさんにハワイに2回も連れていってもらったのよ。

玉ちゃん:なるほどな。そういう経験をして、デザイナーからスナックへのジョブチェンジなんだな(笑)。全然違う仕事していても、スナックができるってのは、血だな。

ママ:そうね、でも、一時期は保険の営業もやったりもしてたけどね。

玉ちゃん:そうか、そこで営業力をつけたのか。スナックだって、言ってみりゃ一夜の営業だからね、お客さんと対面でさ。ボトル入れてもらうってことが、新しい保険に入ってもらうってことだから(笑)

常連さんとの素敵な関係

玉ちゃん:で、ここはね、その営業力というかファンサービスがすごくてね、お客さんを連れて、毎年お花見をするのよ。

ママ:以前はいろいろやっていたんですけどね、今はお客さんもご高齢になってきたんで、花見と忘年会だけやっているんですよ。花見は、自宅の近所の小さな公園でね、飲み放題食べ放題で2000円。

玉ちゃん:1回、参加したけどすごかったよ。

編集部:どれくらいの人数が集まるんですか?

ママ:30人弱かなぁ。

編集部:その人数分の酒と食事を用意するんですか? すごいですね!

玉ちゃん:いや、それがさ、常連さんのお孫さんもいたりしてさ、すごい平和な風景なのよ。その時も、常連のお爺さんがさ、俺のこと気に入ってくれて、ダンヒルの金のライターをもらってくれって言ってさ。最初は断ったんだけど、どうしてもって言ってね。それが、ちょうど自分の親父が使っていたのと同じようなものでさ、なんか嬉しくなって泣いちゃってさ。

編集部:また、玉さん、すぐ泣いちゃうから(笑)

玉ちゃん:でも、そのコミュニケーションの場としては、最高だったのよ。スナックのパワーを感じたよね。

編集部:お花見に来られる方とか、常連さんはご年配の方が多いんですか?

ママ:うちのお客さんは、年齢も70、80代から20代まで、幅広いですね。学芸大学で、年に2回、「はしご酒」というイベントがあってね。好きなお店を3軒まわって3300円っていうのがあるんだけど、気になっていたお店とか、怖くて行けなかったスナックにお試しで行けるという。

玉ちゃん:この店のどこが怖いんだろうね(笑)

ママ:入るのに躊躇するみたいなんだよね。でも、そのイベントで初めて来て、「あ、怖くないんだ」ってなるし、常連のお爺ちゃんたちも「若い人たちが来て嬉しい!」ってなるんですよね。そうやって、お客さんの幅が広がりましたね。あと、花見には、今はリタイヤして引っ越しちゃったけど、昔この辺りで仕事をしていた時に飲みに来てくださっていた方とかね。わざわざ来てくださるんですよ。

スナック初心者にぴったり

編集部:小料理屋さんの時から店名は胡蝶なんですか?

ママ:うん、ずっと胡蝶。

大ママ:私の前に小料理屋をやっていた人がいてね、その人がやめるって言うんで、名前ごと買ったんですよ。最後の1ヵ月だけお給料いらないから働かせてくれと頼んでね。で、お客さんごと引き継いだのよ。そこから53年ね。

玉ちゃん:俺の1つ上だ、俺52だから。

ママ:うちは、長いっていうのもあるけど、お客さんの年齢層が幅広いっていうのもいいと思うのよね。カラオケも古い歌から全対応だしね。あと、今のお年寄りは若い子に優しいからね、頑固じじいなんかもいないしね。

玉ちゃん:うん、俺も胡蝶の常連さんとか何度もお会いしたことあるけど、頑固じじいって人はいなかったね。

大ママ:うちは、ちょっと合わないなと思ったら出入り禁止にしちゃうからね(笑)

玉ちゃん:そいつら落ち込んでるぜ。この料理と空気を味わえないんだもんな。

ママ:もちろん、なにか事件があってからのことだけどね。

編集部:でも、そりゃ、色んなお客さんがいらっしゃるから、中にはいますよね。デザイナー時代とは会う人が全然違うんじゃないですか?

ママ:ほんと、最初の頃なんか、何を言っているかわからないことだらけだったもん。デザイナーの時には会ったことないような人ばっかだったから。

玉ちゃん:未知との遭遇だな。

大ママ:壊れた蓄音機が多いからね。同じことを何回もね。くーるくーる、ずっと回ってるの(笑)

ママ:もうね、酔っぱらうと仕方ないよね。でも、今は大体言いたいことわかるようになったけどね。

玉ちゃん: さすがだわ。人や優しいし、料理は美味いし、酔っ払っても話を理解してくれるしね。胡蝶は、本当にスナック初心者にもすごくいいと思うな。

編集後記(取材陣の感想)
とにかく、胡蝶は楽しい。大ママとママ、親子でやっているというのもあるかもしれないが、お店というよりも家のような温かさがある。料理も、ハンバーグや煮物など、これまた心に滲みる温かさだった。取材後、お店に訪れたお客さんと触れ合ったが、テレビ局に勤める30代や、元弁護士の70代など、世代も職業も違う人が、それぞれ好きな曲を歌い盛り上がった。年末年始のお休みを終え、仕事で忙しく疲れたら、ぜひ足を運んでもらいたい。きっと温かいご飯と人が癒してくれるだろう。

HOME
★★★
「もはや家だな」

FOOD
★★★
「スナックという名の小料理屋で食べる家ご飯」

GENERATION
★★★
「50年以上、親子で続けているからね」

胡蝶
住所:東京都目黒区鷹番3-1-6 高橋ビル2F
TEL: 03-3710-3810
営業時間:平日18:00~翌2:00 土・日19:00~翌2:00
定休日:木曜・祝日


Composition=河合昇平(コレロ) Photograph=吉田タカユキ  

玉袋筋太郎
玉袋筋太郎
1967年6月22日、東京都新宿区生まれ。実家はスナック。高校卒業後にビートたけしに弟子入りし、1987年に水道橋博士と漫才コンビ「浅草キッド」を結成。社団法人全日本スナック連盟会長も務め、『浅草キッド玉ちゃんのスナック案内』などの本を手がける。
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