エキスパートの愛車物語③ フォトグラファー藤井元輔が「フェラーリ512TR」を愛する理由

「数ある工業製品の中で"愛"がつくのはクルマだけ」。トヨタ自動車の豊田章男社長が事あるごとにそう言うように、クルマとは人類に特別な力を与える大発明品なのかもしれない。1台の愛車にひとつの物語あり。ここに示すのは、各業界のエキスパートたちによる愛車物語。今回は、フォトグラファー藤井元輔さんが愛用するフェラーリ512TR。


「中学生の頃からの憧れのクルマ」

「フェラーリ512TR」を手に入れたのは2014年、33歳の時です。このクルマがデビューしたのは1991年で、これは92年モデル。512とは排気量5ℓのV型12気筒エンジンを表し、TRとはテスタロッサの略、エンジンのカムカバーという部分が赤く塗られていることに由来します。

512TRは中学生の頃からの憧れのクルマで、特にカメラマンとしてフェラーリ関連のお仕事をさせていただくようになってからは、何度も買おうと思いました。でも、値段も値段だし、ちょっと縁が遠いかなと諦めていたんです。
それがクライアントのレースの撮影を終えた帰り、東名高速でものすごく速い512TRを見かけたんです。

「TRだ!」と思った瞬間に、"欲しい病"が爆発して、次のサービスエリアから知り合いのクルマ屋さんに電話をかけたら程度のいい個体がある、と。すぐに見に行って、夕方にはサインをしていました。

実は奥さんに内緒で買ってしまったので(笑)、離婚の危機になりましたけれど、その後、仕事をがんばったのでなんとか認めてもらったようです。

藤井元輔さんの愛車フェラーリ512TRは、1991年にデビューした当時のフェラーリの最高性能モデル。ドライバーの背後に排気量5ℓのV型型12気筒エンジンを積む、ミドシップのレイアウトを採る。

フェラーリのオフィシャルフォトグラファーとして

2009年からフェラーリ関連の撮影に携わり、超一流ブランドがどうやってイメージを構築していくのかを目の当たりにしました。とにかくきちん、きちんとしていて、CIだったりルールが厳しいのですが、それでもがんじがらめというわけではなく、みなさんとても柔軟でクリエイティブです。

そんな環境に自分をアジャストしながら海外の人ともコミュニケーションを図って、100%のビジュアルを目指してきたことはいい経験になっています。
でもやっぱり、ビジュアルには厳しいですね。100点満点ではないと意味がないという姿勢に、随分と鍛えられました。

一説によると、フェラーリ512TRの生産台数は2000台余。現存し、しかも元気に走り回っている個体は貴重だ。

「年間で5000kmほど乗っていますが、まったく壊れません」

この512TRは僕のもとにやって来て間もなく5年になります。走行距離が6万kmの時に手に入れて、年間で5000kmほど乗っていますが、まったく壊れませんね。常にいたわるような運転を心がけていることもありますし、信頼のおけるガレージでこまめにメインテナンスを受けていることも大きなトラブルがない理由でしょう。

気に入っているのはまず音ですね。マニュアルトランスミッションのギアの操作が楽しいところも好きです。めちゃくちゃ飛ばすわけではなく、クルマにストレスを与えないように、オートマのように滑らかに運転するのが楽しいです。

クルマに存在感があって操縦の中身が濃いから、そんなに遠出をしなくても、100kmとか200kmとか走らせると充分に満足できます。朝ちょっと早起きして、首都高速を1周してから仕事に出かけるとか。

ゲートが切られていることがフェラーリのマニュアルトランスミッションの特徴。操作に若干のクセがあるけれど、それを滑らかに扱うことが知的なゲームのように感じるという。

「普通に使えるところに価値を見出しています」

乗り心地はいいですよ。若い頃にドリフト用のクルマに乗っていたので、それに比べれば快適だと言ってもいいくらいです(笑)。

テンションを上げて向かいたい仕事で、機材が少なくても大丈夫な撮影の時は、このクルマで現場に向かったりもしますよ(笑)。2歳と6歳、ふたりの息子もTRが大好きで、ドライブに行きたがります。2シーターなので、3人で乗れないところが唯一、残念なところですね。

僕はクルマを飾ったり眺めたりするタイプではなく、普通に乗れることが大事なタイプです。このフェラーリでも助手席に荷物を積んでキャンプに行ったこともありますから(笑)。特別な体験ができるクルマですけれども、同時に普通に使えるところに価値を見出しています。

ご覧のように、三脚を積んで撮影に出かけることも。「意外と使えるんですよ」と藤井氏は笑う。

「もっと仕事をがんばろうという気持ちになれる」

機材車としてトヨタのアルファードを持っていて、こちらは年間4万kmから5万km乗るので、何年か一度は入れ換えることになります。でも、512TRのほかに欲しいクルマはありませんね。もしあるとすれば、絶対に無理でしょうけどフェラーリのレーシングマシンぐらいです。

フェラーリに乗るようになってよかったと思うことのひとつに、このブランドのオーナーの方の気持ちがわかるようになったことがあります。V12のサウンドを聞きながらハンドルを握っていると、もっと仕事をがんばろうという気持ちになりますし、フェラーリが所有できるようになったことに誇りも持てます。あとはクルマの撮影が主体のカメラマンとして、信頼度が上がったようにも感じますね。

よく、あの人は徳があるとか人徳だとか言うじゃないですか。クルマにも車徳みたいなものがあると感じていて、街中で赤いフェラーリを見たら、クルマに興味がない人でもハッとすると思うんです。停めておくと子どもが近づいてきたり、運転していると手を振ってくれたり、人に夢を与えられるクルマなのかな、という気もしています。

このクルマの最も特徴的なアングルのひとつがこれだという。ボディにピニンファリーナのエンブレムが確認できる。

【藤井元輔の愛車遍歴】

①19歳 トヨタ・カローラ・レビン(AE92)  
大学の自動車部の先輩の友達から3万円で譲ってもらう。免許取得後、1週間で練習に行った峠で横転廃車(笑)。

②19歳  日産スカイライン(R32typeM前期) 
スカイライン好きの知り合いによりスカイラインの世界に引き込まれる。「ちなみに、納車時には直管マフラー!」

③20歳  日産スカイライン(R32typeM後期)
前に乗っていたスカイラインを飲酒運転の車に突っ込まれ廃車。後期型にアップグレード。その車ではオートポリスサーキットや夜の埠頭での運転練習にいそしむ。

④21歳  日産スカイライン(R32typeM前期)
サーキット専用車を学生の身分で増車。

⑤23歳  ホンダ・シビック(EG4) 
上京して1年の修行後に独立した時に、九州の後輩よりタダでもらう。半年でトラブルにより手放す。

⑥24歳  トヨタ・カローラ・フィールダー 
6MTで190psの機材車。「めちゃ楽しいクルマでした」

⑦25歳  日産スカイライン(R32typeM) 
機材車と並行して所有。「ドリフト専用でエンジンを2.5ℓに載せ換えたりタービンを変えたり。とても扱いやすい車でした」

⑧26歳  日産セフィーロ
前のR32スカイラインのエンジンがブローしたので、ドリフト用にセフィーロを買ったものの遅すぎて3ヵ月で手放す。

⑨26歳  メルセデス・ベンツE430T(W210)
エアロつけたりブレーキをレース用にしたり色々やった機材車。「28万km乗りました」

⑩30歳  メルセデス・ベンツE320T(W210) 
レーシングドライバーの織戸学さんから譲り受けた機材車。遅くて1年で手放す。

⑪31歳  メルセデス・ベンツE430T(W210)
相場が安くなってたのでまた買ったものの、電気系トラブルが出始め3ヵ月で手放す。

⑫31歳  トヨタ・アルファード 
子供が生まれたのでミニバンに。26万km乗りました。

⑬33歳  フェラーリ512TR
ついに購入!

⑭36歳  トヨタ・アルファード 
人生初の新車!


オーナーの気持ちが理解できたり自動車業界の関係者から信頼を得ることができるなど、自動車写真を撮るカメラマンとして仕事の上でもフェラーリを手に入れたメリットは大きいと語る。
Motosuke Fujii
大学卒業後上京、スタジオに勤務後独立。主に自動車関係の撮影を手がける。2009年よりフェラーリジャパン公式フォトグラファーを務め、公式イベントのほか全国の正規ディーラーの撮影も一手に担う。


Composition=サトータケシ


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