「釣りバカ」「FF」「エヴァ」……サブカルファン必見! 古刹で触れる現代アートの世界

一休宗純禅師を開祖とする古刹「大徳寺真珠庵」で400年ぶりに襖絵が新調された。 新たな作品の描き手に選ばれたのは、「釣りバカ日誌」で知られる 漫画家の北見けんいち氏のほか、当代随一のクリエイターたち。 迫力ある現代アートへと昇華した襖絵、そこに込められた想いを聞いた。 

本堂仏間の16面には、北見けんいち氏の作品「楽園」が描かれた。

創建500年の歴史ある名刹と現代アートが融合するとき

「真珠庵」は、永享年間(1429~1441年)に、“一休さん”こと一休宗純禅師を開祖として創建された「大徳寺」の塔頭。方丈に安置される一休和尚の像のほか、曽我蛇足の「山水図」「花鳥図」や長谷川等伯の襖絵など国の重要文化財を多数所蔵することでも知られている。

現在、この真珠庵を切り盛りするのは、第27世住職の山田宗正氏。ジャズやクラシックにも造詣が深く、世界の宗教音楽と読経をコラボさせた「音禅法要」を毎年開催するなど、ロック魂あふれるお坊さんだ。500年の時を経て経年劣化した曽我蛇足や長谷川等伯の襖絵を修復するにあたり、ある想いが芽生えたと山田住職はいう。

「修復期間中にできれば何かほかの作品を飾りたい。ならば新調しようと考えたわけです。せっかくだから、時代の先をいく知恵者として知られる一休さんのお寺らしく、今の時代を映した襖絵にしたい。未来につながるものを残したいと思いました」

かねてから親交があった「釣りバカ日誌」で知られる漫画家・北見けんいち氏に相談したところ、「歴史あるお寺の襖絵を描けることはたいへん名誉なこと」と快諾。このかつてないアバンギャルドな試みに、さらなる描き手として選ばれたのは、「ファイナルファンタジー」アートディレクターの上国料勇氏、「新世紀エヴァンゲリオン」の山賀博之氏など、現代を代表するクリエイターだった。

山田住職から出されたお題は「なんでもあり」。けれど、できあがった襖絵はそれぞれの個性を放ちながらも一体感のあるものになった。寺が備える力や住職の想いが、彼らの才能を同じベクトルに導いたのだろうか。

「今の時代を映した襖絵にしたいと思った」と語る山田住職。人を喜ばせたいと願い新たなことにチャレンジする明るい人柄は、まさに現代の一休さんだ。

「最初にお話をいただいたとき、大変光栄なことだと思いました。歴史ある寺院の襖に描くことは長年の夢でもありましたから。漫画家の地位向上のためにも、ぜひいいものを創造したいと決心しました」

こう語る北見けんいち氏と山田住職は古くから交流があり、しばしばともに与論島にも旅をするという。今回描いた襖絵「楽園」は、50年通う与論島で繰り広げられる宴会の様子を、本堂室中の襖16面に表現した華やかで心浮き立つ作品。島の人々や漫画家たち、師匠・故赤塚不二夫氏も精緻な筆で描いている。飲み食べ躍る人々の楽しそうなこと。北見氏のおだやかな人柄を彷彿とさせるような襖絵だ。

本堂室中の襖絵を任された北見けんいち氏。

上国料 勇氏は、ファイナルファンタジーX、XII、XIII、XV等、数々のゲーム作品で、コンセプトアーティスト、アートディレクターを歴任したゲームクリエイターだ。普段の制作はパソコンを使用するため、日本画の絵筆を持つのは初めての体験だったという。

「とてもじゃないがお受けできないと最初は思いました。歴史ある寺院の襖絵を描くなんて恐れ多いと。座禅会などで山田住職のお人柄に触れていたから、最終的には、少しでもこの方のお役にたてればと思ったんです」

何を描くか迷っていたときに、住職から「未来の観音菩薩」とリクエストされ、自分なりの解釈で描いていこうと気持ちが固まったそうだ。過去の観音菩薩像にとらわれず、自分の想いを表現できる良い経験になったという。

「ファイナルファンタジー」アートディレクター上国料勇氏の「Purus Terrae 浄土」は「礼の間」8面の襖に描かれた。トップ画面は同作品の全貌。

「自分は絵が上手くないから……」と自らを評する山賀博之氏。映画監督や脚本家、プロデューサーとして「新世紀エヴァンゲリオン」「熱風海陸ブシロード」など、数々の作品を手がけてきた。

「自分で絵を描くのは初めてだから迷いもありました。襖絵などにはよく鳥が描かれているから鳥にしようと題材は決めたものの、カラスではつまらない。そこで考えた末、気合を込めて凶悪な鳥を描くことにしたのです」

絵が上手くないからこそ、好き勝手に描ける強みがあるというが、完成した作品は壮大な世界観のある堂々たる作品。構想から完成までおよそ10ヵ月。描いているときが一番面白かったと振り返る。

「旦那の間」には「新世紀エヴァンゲリオン」プロデューサー山賀博之氏の8面の作品「かろうじて生きている」が完成。

今回のプロジェクトに参加したクリエイターは計6名。「大書院」5面の襖絵を描いた「オトナの一休さん」で知られるイラストレーター伊野孝行氏ほか、「衣鉢の間」4面を担当した日本画家で僧侶の濱地創宗氏、一休禅師の仏間を担当した美術家の山口和也氏の作品は完成間近だ。

通常は非公開の真珠庵だが、新襖絵の完成に合わせて、2018年秋に一般公開が予定されている。日本のトップクリエイターが終結した稀代のプロジェクトを目にするとともに、桃山時代の御所の化粧殿を移築した書院「通僊院」や村田珠光作と伝わる「七五三の庭」といった古刹の美も堪能することができるのだ。サブカルファンにとっても寺院通にとっても、秋の真珠庵は必訪のスポットだろう。

「オトナの一休さん」伊野孝行氏による襖絵。
大徳寺「真珠庵」秋の特別公開
公開期間:2018年9月1日~12月16日(10月19~21日を除く)
公開時間:9:30~16:00
拝観料:¥1,200

Text=中井シノブ Photograph=鞍留清隆