シティ・ポップの継承者、土岐麻子~野村雅夫のラジオな日々vol.47

現在、関西のFM COCOLOを中心に、DJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回は、新作『HOME』をリリースした土岐麻子さん。

なぜ今シティ・ポップなのか?

FM COCOLOでは、この夏、ラジオから涼を届けられればと、City Pop Summerというキャンペーンを展開した。

シティ・ポップと言えば思い出すのは、去年この連載でも紹介した竹内まりやさんとの対話。彼女が'84年にリリースしたシングル『プラスティック・ラブ』が、3年ほど前、非公式にYouTubeにアップされると、なんと2400万回以上も再生されて海外のリスナーやDJに高く評価されるにいたったという話を、ご本人に披露いただいた。

こうした国内外のジャンル再評価の流れを汲んで、日本だからこそ生まれたシティ・ポップをもう一度アナログレコードで楽しもうという企画『CITY POP on VINYL』も、この夏に生まれた。約100というラインナップを見渡してみると、往年の名盤だけでなく、若手ミュージシャンの作品も含まれていて、このシーンが今に受け継がれて発展していることもよくわかる。

話を戻して、およそ3週間にわたったFM COCOLOのCity Pop Summerキャンペーン。僕の番組CIAO 765では、毎朝5曲ほどセレクトした他、リクエストにもたくさん応えたので、計100曲近くを集中的にリスナーと共有できた。そのピークとなったのは、祝日の8月10日。一日まるごとシティ・ポップで通すことにしたのだ。CIAO 765には、大貫妙子さんがメッセージを寄せてくれた他、ジャンルの継承者のひとりだと僕が目する土岐麻子さんへリモート・インタビューを敢行。今回は、その際の僕たちの対話をお楽しみいただきたい。

――土岐さん、チャオ!

チャオ!

――お元気でしたか?

元気ですよ。はい。

――よかったです。

フフフ。お元気ですか?

――僕もなんとかやっておりますよ。

お元気そうでよかったです。

――新曲の『HOME』が先月リリースとなりました。「ホーム」という言葉、ステイホームだなんだと、この春、みんな何度言ったことか。土岐さん、これはいつ頃作られたんですか?

実は、去年の秋くらいにはもうできていて、提出していた曲なんです。すべて仕上がっていたんですけど、リリースが7月7日だったので、半年以上の期間があったんですね。その間に、世間ではホームという言葉がひとつのキーワードになって、なんだか自分の中では作った時よりもリアルなテーマになったんです。

――不思議なことですよね。

ほんと、そうですよね。

――僕らは毎日選曲をしてリクエストにお応えして、大体1日に4、50曲かけているわけですよ。

はい。

――当然、今できたばかりの曲だけをかけているわけではない。FM COCOLOでは、古くから馴染みのある曲もたくさんチョイスするじゃないですか。ふっとね、今こういうシチュエーションで聴くと、すごく胸に迫るなんてことがあるんです。制作当時には、そんな意図があったわけないのに、って。僕は、そういう音楽こそ普遍的なんだろうと思います。この『HOME』もそういうメッセージが実は込められていた、それが浮かび上がってきた、ということなのかもしれませんね。

そうですね。不思議です。

――FM COCOLOでは、今日は一日、シティ・ポップを特集しています。2時間ほど前に、土岐さんによるYMOのカバー『君に胸キュン』をオンエアしましたが、シティ・ポップ的なるものは、ずっと手がけられていますよね?

はい。

――シティ・ポップの定義って、難しいですよね。僕らも、キャンペーンが始まる頃から、そんな話をしていて…...。実は、ディレクターや僕らDJがそれぞれに、「私の思うシティ・ポップ」っていうようなお題で何曲か選ぶ企画があったんです。僕ももちろん参加して、基本的には70年代、80年代のものを選んだんですが、1曲だけ土岐さんの『PINK』を選んだりしていまして…。

オオッ!

――ハハハハハ。つまり、’78年生まれの僕にとっては、シティ・ポップは基本的に後追いになるんですけど、リアルタイムでは、僕にとってはやっぱり土岐さんがいらっしゃると…。

オオオッ!

――そんなこと言われてもね。困っちゃいますよね?

いえいえ。光栄です。非常に光栄なお話です。ありがとうございます。

――土岐さんにとって、’70年代、’80年代、当時のシティ・ポップは間違いなく糧になっていますよね?

間違いないですね。私の音楽の原体験ですので。心の中にずっとある音楽っていう感じですね。

――Cymbals(シンバルズ)のヴォーカルとしてデビューされた頃から、あるいはもっとずっと前から、土岐さんの作る音楽、その源、根底にはずっと流れている。

そうですね。サウンドとしての影響も、もちろんあるんですけど、それだけではなく、攻めた新しいことをやっている音楽だと子供心に感じていたんですね。達郎さんの音楽ですとか、EPOさんの音楽ですとか、テレビから流れてきて聞いているだけで、すごく新鮮でかっこよくて、新しいなって思っていたので、そういう姿勢をマネしたいという、スピリット的なところですね。

――シティ・ポップって、改めて定義が非常に難しいと思うんですよね。

そうですね。

――サウンドで定義する人もいらっしゃるじゃないですか。

はい。

――例えば、それまでの日本の音楽シーンとはちょっと違う、これも日本で勝手に名付けているような気もしますが、AORと言われるような音楽の流行を日本でも取り込んだ、音数の多くて、名うてのミュージシャンがせめぎ合うように豊かでおしゃれなアレンジを重ねていくっていう…。

はいはい。

――どっちかというと、そういうアレンジに重きをおいて聴いていた人も多いのかなと思うんですが、僕は、どっちかというと、言葉、わりと歌詞を重要視している方でして、そこで歌われている当時の都市生活者の営みみたいなものに、今振り返ってみると興味があるんですよね。前に、土岐さんとお話しする機会があった時に、アルバムで言うと、『SAFARI』の頃だったかな。土岐さんは、街を歌う、変化していく街の風景を歌うということは大切だとおっしゃっていました。今振り返ると、シティ・ポップにもそういう側面があったのかな、と思ったりするんですよ。

大いにあると思います。それもひとつの特徴なのかなと思うんです。街のことを歌っている曲が多いです。すごくファンタジックな歌詞だとしても、モチーフがすごく現実的だとか。当時の若者のリアルな生活ですね。たぶん、色々葛藤とか、街でも生きづらい気持ちもあったと思うんですよ。それをリアルに描くのではなく、ちょっとファンタジックに描いていたりする。そういう視点がすごく面白いなぁと思っています。私は1976年生まれなんですけど、子どもの頃、'80年代前半くらいに聴いていた、今でこそシティ・ポップと言われる曲たちの歌詞の中から街というキーワードを拾ったりしますよ。具体的な土地の名前とかね。たとえば、中央高速を走っていたらビール工場が見えるとか、競馬場が見えるとか。そうやってイメージする景色や、その当時、主人公が暮らしていた街の雰囲気が、曲の中に閉じ込められている感じがするんですよね。いつ聴いても、'80年代前半の街が思い浮かびます。そういった意味で、街のスケッチというか、本当の意味でのアルバムっていう役割を果たしているような気がします。

――流行も反映されていますよね。欧米へのあこがれも反映されてる。たとえば、カンパリ・ソーダが赤い色したオシャレな飲み物として登場したり、都市生活者が向かう避暑地ってのもよく出てきたりとか。そういうスケッチ的な要素が、この時代のシティ・ポップの再評価の理由のひとつかなとも感じています。

そもそも、シティ・ポップという言葉って、いつ生まれた言葉なんでしょうね。

――当時、リアルタイムに、「我々がやってるのは、シティ・ポップでござい」ってわけじゃないですからね。

そうですよね。だから、後から振り返って誰かが総称したってことだと思うんですけど、それが良い意味で抽象的な感じがする…

――そうですよね。

イメージっぽいっていうか。

――だから我々FM COCOLOは、この夏、それを逆手に取ったということも言えると思うんですよ。シティ・ポップは幅広いんだから、これだけ長くキャンペーンをやって、今日なんかは丸1日シティ・ポップばっかりってなっても成立しますよと。つまり、定義が曖昧ということは、それだけ豊かであるということの証左だと思うんですよね。

そうですね。

――お別れに、1曲、土岐さんにセレクトいただいたものをお送りします。土岐さんの思う、これぞシティ・ポップ。1曲に絞るのは難しい質問だということは重々承知の上の、酷なお題ですが。

はい。やっぱり1曲というのは難しいですよ。でも、考えてみました。夏じゃないですか。この夏に聴きたいということで選んだのが、大貫妙子さんの『Summer Connection』です。

――これね、事前にお願いしていたわけではないんですけど、今日は実は大貫妙子さんが番組にメッセージをくださったんです。なんたる偶然! でも、誰がどう定義しても、大貫妙子さんはシティ・ポップから外せない人ですよね。

ほんとにそうですね! サウンド的にも、当時すごく尖っていたと思いますし、歌詞も都市生活者の悲喜こもごもをわりとクールに描かれている。

――「その日暮らしはやめて」ってなかなか歌わないですもんね。

そうなんですよね。当時、'70年代の若者たちがどんな暮らしをしてたんだろうって、その全貌を見ることはできないけれど、一部を垣間見ることができるような曲が多いですよね、大貫妙子さんは。

――選んでいただいた『Summer Connection』も、「爪先まで焼かれて 女達にあてられ うかれてても 真昼の夢」なんて歌われます。何ですか、この抜群のセンスは! すばらしいですよ。

すばらしいですよ!  サウンドだけ聴くと、本当に華やかで、「南国で過ごしているのかな?」というイメージ。爽やかで楽しい、賑やかな曲なんですけど、歌詞に注意して聴いてみると、この主人公は南国から絵葉書をもらっているだけで、アスファルトの上で暮らしている。まだ夏休みが取れない社会人の方なのかなというイメージですよね。

――働いてばかりの日本人というリアルも浮かび上がってくるかな? どうだろ?

そうですよね。当時、高度成長期でね…。

――セレクトいただいて、ありがとうございます。次はまたスタジオにお越しいただけるといいな。お待ちしております。

はい、ぜひ! よろしくお願いします。

――土岐麻子さんでした。ありがとうございました。

ありがとうございました。

vol.48に続く

野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
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