社会人になる息子へ贈る"成功"への本棚

いっそう複雑化する社会で生き抜くための方策を本から学ぶ。そのための理想の本棚を、自らも幼い息子を持つ“ビジネス書の目利き”土井英司さんが推薦する。

土井英司 1974年秋田県生まれ。ゲーム会社、出版社を経て、Amazon.co.jpの立ち上げに参画。名バイヤーとして活躍後、出版コンサルタントとして独立。ミリオンセラーを生む。書評家として10年間書き続けるメルマガ「ビジネスブックマラソン」のほか、近著に『土井英司の「超」ビジネス書講義』(ディスカヴァー携書)等。

年間1000冊以上のビジネス書を読み、いわゆる成功者の著書に触れる機会の多い土井英司さん。自らを「成功オタク」と称しながら、「成功しようと思ったら常に自分自身を成長させ続けないといけない。絶えず変容していくためには心の中にエネルギーを入れていく必要がある」と、息子に真っ先に読んでほしい本として挙げたのが『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』だ。生きるための勇気をくれる1冊として自身も1カ月に1回は読み返すという。
「『もっと大きくなれるのに、なんと小さな俗物(ポテト)であることよ』という言葉に込めた、息子への期待。これくらいでいいだろう、とつい自分を過小評価してしまいがちですが、親の期待値に報いているか? 社会の期待に応えられているか? と問うことで、自分の器を大きくしていく方法もあります」
 ビジネスマンの生き方の基本、学ぶことの本質を衝(つ)いた不朽の名著を筆頭に、詩集、漫画、自己啓発ワークブック、歴史小説……と土井さんがセレクトした12冊には「普通の人になるな」という不文律が通底する。そのために習得すべきテーゼとして繰り返し登場するのが時間だ。
「何かを成し遂げたいと思うなら、時間の貴重さを理解することは大切。時間だけはすべての人に平等に与えられていますが、多くの時間を他人に奪い取られることに無自覚な人が少なくない。肝心なのはどれだけ自分を耕す時間として投資できるか。哲学者セネカが2000年前に説いたことすら僕らはできていない。成功するかどうかは、その人の“時間の決算書”を見れば一目瞭然でしょう。一角の人物は、すべてを遮断する作業を意識的に必ず行っているはず」

『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』 
キングスレイ・ウォード 著 新潮文庫

父が息子に語りかける形式でビジネスマンの基本、金銭感覚や礼儀、部下とのやりとり、伴侶の選び方まで。優れた教訓と父の愛情が溢(あふ)れている。「立ち返るべき基本動作のすべてが詰まっています。30のto do リストとして実践すれば成功するようになっている」

『もしも人生をやりなおせるなら』 
ナディーン・ステア 著 ディスカヴァー・トゥエンティワン

「正体不明の著者、85歳のナディーンおばあさんはドラッカーだった?」との都市伝説を持つ、詩集絵本。失敗する勇気を教えてくれる。「ついつい、頭でっかちになって、生きる喜びや挑む勇気を遠ざけてしまっていないか、と問いかけてくれる1冊です」

『ナニワ金融道』 
青木雄二 著 講談社漫画文庫

誰と付き合うかを正しく判断するためには人間の正体を知っておくことも大事。金のために人は簡単に人を裏切る。煙草銭欲しさに人を騙(だま)す奴もいれば、信用ならないが筋だけは通す奴もいる。「人の情けを知るために人生の予習として読んでおいたほうがいい」

『5(ファイブ)─5年後、あなたはどこにいるのだろう?』 
ダン・ゼドラ 著 海と月社

「先延ばしの人生に喝!」を入れる自己啓発的ワークブック。コロンブスは新世界を切り拓(ひら)き、ミケランジェロはシスティーナ礼拝堂の天井画を描き上げた……等、「偉人たちが成し遂げた偉業の列挙は、5年あれば大概のことができると教えてくれる」

『生の短さについて』 
セネカ 著 岩波文庫

実践を重んじる哲学者、セネカの書。〈生きることの最大の障害は、期待を持つということであるが、それは明日に依存して今日を失うこと〉。時間という貴重なものを自分のために用いることなく弄ぶ考え違いを正してくれる。「先延ばしにしない。すぐやるべし!」

『経営者の条件』 
P.F.ドラッカー 著 ダイヤモンド社

ビジネスにおいて限られた時間のなかでいかに効率よく成果を上げるか。自分をマネージメントするための8つの習慣は有名。行動する者、決定する者は誰もがエグゼクティブ。「息子にはキャリアの初期段階に読んでおくべきビジネス書の定番として薦めたい」

失敗を恐れず、時機を計り、選択肢を多く持つ

 目の前に仕事があり、話すべき上司がいて、手元にはスマホが。何かとマルチタスクが要求されがちの現在は集中することが難しい環境にあるが、一つのことに集中する機会に焦点を合わせることもまた、成功への必須項目。ドラッカーやアル・ライズはビジネスで効率的に成果を上げるための教科書となる。そして自分をマネージメントする規律の重要性を説く一方で、普通でない発想を獲得するには岡本太郎の言うところの“毒”が必要だと土井さん。
「迷った際は危険な道をとる。危険だ、と感じるのはワクワクしている証拠だから。危険を取り除くまで努力すればいいだけの話」
 失敗することを恐れて挑戦しない人生は空しい。ましてや、一つの道での挫折は人生の失敗など意味しない。
「円谷幸吉の責任感は尊いですが、どんなに苦しくても生きてこそ。イケてない人として描かれていた君原健二が生き残って銀メダルを獲った。私は『死んだらダメだ』と親父に言われて育ちました」
 機を読み、チャンスが巡ってくるのをじっと待つ忍耐力も成功への秘訣。時代の潮目を読むことと、運の正体を知ることは似ているとしてこう続けた。
「雀鬼・桜井章一さんも指摘しているように、ツイてない時って大概、基本動作が疎かになっているんです。運を味方につけることはすごく大事だと思っています。要はタイミング、人との出会い。どんな人と付き合うかで人生の大きさ、レベルは決まると言い換えてもいい。息子には友達は選べ、と言っておきたい」
 仮に自分でスケールの大きなビジョンや大義が描けないなら、大人物の参謀役として自らの価値を見出し、人のために仕える人生もまた選択の一つだとも。
「逆説的ですが、敗者となった丹羽家に仕えた江口正吉の生き方、潔さは魅力的。心惹(ひ)かれますね。不利だけど最後まで戦い抜く、どんな状況にあってもそれを一変させる発想を持てる人物。そんな生き方もいい。所詮、あの世に持っていけるものはこの世で与えたものだけ、って言いますからね」

『フォーカス!』 
アル・ライズ 著 海と月社

土井さんが著者買いするというアル・ライズは世界屈指のマーケティング・コンサルタント。「企業におけるブランディング構築の理論の原理原則は自己イメージの向上とプロデュース術に大いに役立つ。自分の強みを知った後で読むことをお薦めしたい」

『自分の中に毒を持て』 
岡本太郎 著 青春文庫

〈危険だ、という道は必ず、自分の行きたい道なのだ〉。生涯を通じて自分自身を最大の敵と見なし、自分に戦いを挑み続けてきた岡本太郎。「上には上の常識がある。それを知るためには自分をドーピングして、思考転換をする必要がある」


『もう走れません─円谷幸吉の栄光と死』 
長岡民男 著 講談社(古書)

注釈つきで息子に読ませたい1冊。東京オリンピックの国民的英雄でありながら自殺してしまったマラソン選手、円谷幸吉。「彼の責任感は尊いが、一つの道の挫折は人生の失敗じゃない、と言いたい。死んではダメだ。青春病ともいえる自殺願望に備えて」

『ああ正負の法則』 
美輪明宏 著 PARCO出版

対人関係に悩んだ時の人生のカンニングペーパーとして必読の書。〈人間関係は腹六分〉〈人を見たら魔界族と天界族を瞬時に見分けよ〉など、美輪さんならではのユニークな処世術が満載。「皆同じじゃなくていい、人と違っていいという多様性への寛容を養えます」

『運を支配する』 
桜井章一+藤田晋 著 幻冬舎新書

無敵の雀鬼と敏腕経営者。師弟関係にあるふたりの勝負師が語る運の正体、ツキの極意。〈不調のときは基本動作に立ち返る〉〈負けの99%は自滅である〉など己を律する作法のみならず、〈見切り〉のルールなど「なるほどと自分でも思い当たる話ばかり」

『うつろ屋軍師』 
蓑輪諒 著 学研マーケティング

丹羽長秀・長重の親子に仕えた若き軍師、江口正吉の半生を描いた小説。大義やビジョンを持つ大人物の参謀役として自らの価値を見出し、その人に仕え貢献することで大きな世界観を得ることも可能。「この人のために働きたいと思える人がいることは幸せですよ」

Text=砂塚美穂 Photograph=中村利和(BOIL)
*本記事の内容は15年5月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。
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