至高のホテル 業界ツウがそっと明かすホテル運営の秘密

目に見える“モノ”ではなく“空間”と“時間”を売っているホテル。贅を尽くした施設を用意し、24時間365日営業する。さて、採算のポイントはどこ?知られざるホテルの事情を情報ツウ3名が本音トーク!

今回語るのは…

A夫さん ホテル専門学校を卒業後、外資系ホテルのベルボーイからキャリアをスタート。その後日系ホテルに転職し、営業部門で活躍している。

B吉さん ホテル業界の専門誌に長年携わったあと独立。業界に広い人脈を持ち、最新情報はもちろんのこと、ホテルビジネスや裏事情にも詳しい。

C美さん 大学卒業後、日系ホテルに8年勤務後、フリーライターに転身。現在はホテルやトラベル関連の記事などを雑誌やWEBサイトに寄稿。

【宿泊編】
1室3000円でも赤字にはならない

A夫 ホテルの売り上げは、一般的に、宿泊・宴会・レストランの3つに分けられますが、最も効率よく利益を上げられるのは宿泊です。食材や飲料の仕入れが必要な宴会やレストランと違い、客室を1室販売するのに必要となるのは、シーツやタオルなどとそのクリーニング代、シャンプーといったバスアメニティ、清掃に入るスタッフの人件費だけですから。

B吉 アメニティは、どんな高級ブランドでも、仕入れる数が膨大なので、単価はかなり安いはずですよね。

C美 「1室3000円でも空けておくよりいい」と聞いたことがあります。利用がなくても清掃は定期的にしますから、ランニングコストがかかります。室料3000円では、ホテル建設費用などの減価償却費や社員の人件費といった、固定費まではまかなえませんが、少なくともランニングコストはカバーできる。だから、“直前割引”という販売方法が成立するんですね。赤字を出すくらいなら客単価を下げても集客しようと。

A夫 直前割引の価格ですが、常に同額にするホテルもあれば、当日の予約状況を見て、「あといくら売り上げれば利益が出るか」を換算して、その時々で設定するホテルもありますね。

B吉 デイユースはシティホテルでも以前から行っていましたが、最近は積極的に販売しているところも出てきましたね。それで1日2回転すれば、利益も稼働率も上がります。テレビ局など深夜労働もあるような企業が近くにあるホテルは、需要が高いようですよ。

C美 チェックアウトは一般的に正午前後ですから、それ以降、夕方くらいまでの間を“時間貸し”するんですね。一度清掃に入り、19時チェックイン10時チェックアウトなど滞在短めのプランを割安に販売したり。

A夫 ちなみに、一般的なシティホテルでは稼働率75%が、損益分岐点と言われています。もちろん、ホテルの規模や客単価によって変わりますが。

B吉 レストランや宴会場を持たず、客室のみという宿泊特化型ホテルに勢いがあるのは、一番利益率が高いところしかやっていないからですよね。

A夫 そうしたホテルのなかには、アパホテルなど大浴場を設けているところが少なくありませんが、それはサービスの一環であると同時に、利益を上げるための戦略でもあります。大浴場を利用してくれれば、客室併設のお風呂の清掃やタオル交換の必要がなくなり、さらに原価が抑えられますからね。

C美 ところで、世界的なブランドの名前を冠しているホテルのなかには、経営と運営が異なる、「運営受委託方式」をとっている場合もありますよね。経営は日本のホテル経営会社や不動産会社が行い、運営は、そのブランドを持つホテルオペレーション会社に委託するという。運営委託料の相場は、どのくらいなのでしょう?

B吉 契約ごとに違いますが、総売り上げの数パーセントに加え、売上総利益からも数パーセントを、受託者に支払うケースが多いのではないでしょうか。ホテルが赤字だったとしても、オペレーション会社が損失をこうむることはありません。

A夫 経営側からすれば運営委託料は大きな出費ですが、それでも世界的なブランドを冠することでのメリットは大きい。外国人客の集客につながりますし、信用度も高まりますから。

【宴会編】
最も効率よく稼げるのは、飲食ナシの会議

C美 宿泊に次いで利益率が高いのは宴会ですが、客単価がよいのはブライダルでしょうね。名のあるホテルの場合、コース料理は最低2万円くらいから。会場料、ドリンク、装飾花などを合わせると、客単価5万~6万円も珍しくありません。

A夫 ただし、最近は婚礼専門のエージェントから安い価格で受注しているホテルもあります。その場合、当然料理の原価も下がりますが、それで「あのホテルの料理はたいしたことがない」と思われるのは痛い。通常よりも原価率を上げ、利益を削ってでもブランドイメージを保とうとするホテルもあると思います。となると、婚礼=利益が大きいとは限らなくなる。

B吉 エージェントからの送客は昔からありましたが、当時はエージェントにコミッションを払うだけでした。

C美 利用客がホテル内のフラワーショップや衣装室を使えば、それらの業者からコミッションも入っていましたが、エージェント設定のプランには持ちこみ料無料をうたっているものもある。時代は変わりました。

A夫 一番ありがたいのは、株主総会や決算発表など飲食を伴わない会合でしょう。料理のサービスがないから、会場内に配置するスタッフは最低限で済む。スタッフは、責任者クラスは社員ですが、大半は人材派遣会社委託かアルバイト。その分の経費が抑えられます。

C美 それに、パンフレットなどを見ると、飲食を伴わない会合の会場料は、飲食ありの場合の5倍くらいに設定しているホテルが多いですからね。確かに効率がいいと言えます。

【レストラン編】
飲み放題は、ホテルにとって“美味しい商品”

A夫 料理やドリンクの仕入れ原価や人件費がかかるうえに、宴会と異なり、利用客がいようがいまいが、営業時間中は稼働しなくてはいけないのがレストラン。何回転もするのなら別ですが、利益率で見れば、最も効率が悪い部門ですね。

B吉 朝食はブッフェスタイルにするホテルが増えていますが、ゲストに人気があるということに加え、人件費が抑えられるという意味合いも大きいと思います。テーブルごとにサービスする必要がないので、最低限のスタッフですみますから。

C美 ブッフェだと、食材を上手に使えるというメリットもあります。アラカルト用に仕入れた牛肉が思ったほど注文が入らなかった場合、ブッフェ用の料理に回すとか。余談ですが、ホテルの料理長を務めたあとに店を出した方いわく、『ホテルは大量に仕入れるから、原価が抑えられる。同じ料理を出すにしても、ホテルのほうが原価率は下げられる』とのこと。

A夫 原価率と言えば、お酒のたぐいの原価率もすごく低いですね。シャンパンやワインの飲み放題プランを出しているホテルもありますが、ホテル側は絶対に損をしない。むしろ客単価が上がるので、どんどん利用してほしいくらいです。もっともビールは原価率が他と比べれば高いので、ビールばかり飲まれると痛いですが(笑)。

B吉 たいてい時間制限が設けられていますから、飲める量にも限界がありますしね。

C美 ブッフェに飲み放題と、ホテルが使いやすくなっている気がしますが、残念なのは若い世代の利用がないこと。

B吉 彼らには、まだハードルが高いのかもしれません。

A夫 ホテルになじみのあるゲーテ世代が、部下や後輩を連れてきてくれるとよいのですが。それをきっかけに、ホテルの魅力を知ってもらえれば、業界としてはありがたい(笑)。

C美 そのためにも、多くの方に、この特集でホテルの愉しみ方を極めてほしいですね。

Text=村上早苗、川岸 徹、今井 恵 Illustration=ハラアツシ、村上テツヤ Photograph=西川節子

*本記事の内容は13年11月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい