感覚を研ぎ澄まして操るルノー「トゥインゴS」の魅力とは?【クルマの教養】

歴史ある名車の“今”と“昔”、自動車ブランド最新事情、いま手に入るべきこだわりのクルマ、名作映画を彩る名車etc……。国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から“クルマの教養”を伝授する!

パリが仕立てたコンパクト

フランスのコンパクトカー、ルノー「トゥインゴ」は、欧州でAセグメントと呼ばれる最も小さいカテゴリーのクルマだ。そのサイズは、全長3645mm×全幅1650mm×全高1545mmしかない。日本車のサイズに当てはめると、ダイハツ「ブーン」などのリッターカーとほぼ同等である。手頃なサイズなので、街中での取り回しも抜群。しかもトゥインゴは、同サイズのクルマよりも、より小回りが効く。その秘密は、後程……。

そんな小さなトゥインゴだが、存在感はばっちり。その理由は、フランス仕込みの洒落たデザインにある。元気溢れるポップなスタイルは、新鮮で、チープさもない。もちろん、街中で活躍する実用車だから、割り切りはある。それをネガティブとせず、色使いやデザインなどの遊び心でカバーする。全てが前向きなのだ。実用性でははるかに凌ぐ日本のコンパクトカーも、このポジティブさには叶わない。今回の撮影車には設定がないが、開放感たっぷりのルーフ部が全開となるキャンバストップ仕様も選ぶことができる。

特殊な構造が生む濃い味わい

小回りが効く理由だが、それはトゥインゴの構造に秘密がある。一般的な前輪駆動車ではなく、リヤエンジン・リヤ駆動のRR方式のレイアウトを持つ。簡単に言えば、前輪が大きく切れるので、良く曲がるというわけだ。この構造は、メルセデス・ベンツのシティコミューター「スマート」と同様。この現行型は、スマートと基本構造を共有する親戚関係にある。

これは、新型トゥインゴを前輪駆動車から後輪駆動車への変更を決めた「ルノー」と、小さく手頃な価格のシティコミューターを送り出す「スマート」との思惑の一致によるものだ。ただスマートには、2ドアのショートボディ「fortwo」があるなどの違いもある。

さて、話をトゥインゴに戻そう。エンジンをラゲッジルーム下に押し込んだことで、鼻先も短くなり、全長の多くをキャビンへと割り当てることも可能に。だから、乗り込んでみると、広々とまでは行かないが、想像するよりもスペースがあって快適だ。

しかし、クルマ好きにとっての最大の魅力は、RRレイアウトによる後輪駆動車であることだ。この構造を持つ最も有名なモデルといえば、ドイツが誇るスポーツカー「ポルシェ911」である。そう聞くと、物凄いクルマかも……と思えてきたのではないだろうか?

シンプルな走りのモデル「S」

最新型のトゥインゴは、0.9Lの3気筒ターボエンジンとATタイプの6速DCTの組み合わせが基本だ。スポーツグレードも存在したが、Cafe規制の対応もあり、現在は本国を含め廃止に。その代わりとまでは言わないが、フレンチベーシックと呼ぶべき「トウィンゴS」というモデルが、今年2月に上陸。それが、今回の試乗車だ。1.0Lの3気筒DOHCエンジンと5速MTを組み合わせる、今どき珍しいグレードである。

1.0Lエンジンは、最高出力73ps/6250rpm、最大トルク95Nm/4000rpmを発揮。参考までに、0.9Lターボエンジンは、最高出力92ps/5500rpm、最大トルク135Nm/2500rpmで、馬力で1.26倍、トルクで1.42倍の差がある。ひょっとして、めちゃめちゃ遅い? という不安もよぎるだろうが、もちろん武器もある。

それは、ターボ車よりも70㎏も軽いこと。この軽さを活かし、マニュアルシフトで限られたパワーを引き出して走るのが醍醐味。ただ最大の問題は、ノーマルだとタコメーターがないことだ。つまり数字を参考に、エンジンの美味しいところを使うことができない。

まさに「なんじゃそりゃ」である。もちろん、シフトタイミングを知らせるメーターの表示機能は備わる。だが、それに従っていては最大限の走りは不可能。頼れるのは、己の感覚のみ。でも、それが面白いのだ。

そのクルマとの対話を盛り上げてくれるのが、後輪駆動による走りだ。お尻が踏ん張ってくれるから、走りや動きに粘りがあり、ドライバーとの一体感も強い。その感覚は、911のような路面に吸い付くような感じはないが、足がソフトな分、挙動も緩やか。低速でもクルマとの対話が楽しめる。その感覚は、911と同様。いや、よりダイレクトに感じられるだろう。

後輪駆動車の面白さを教えてくれるコンパクトカーは、今や超希少である。ただイメージを膨らませるならば、同じくRR車であるルパン三世の愛車「フィアット500」を思い出す方が、ワクワクするかもしれない。映画のような過激な走りはできないが、あの元気な走りを彷彿させる瞬間はある(と思う……)。

電動化が進む今、エンジンを感じながら走るというアナログな実用車は少ない。ラフな操作は、不快なエンジン音やギクシャクした動きとして返ってくる。今の時代、そんな当たり前のことも貴重な体験となってしまった。そんなスルメのように味わい深い「S」は、なんと179万円。クルマを学ぶには、全てが丁度良い存在だ。

大音安弘
大音安弘
1980年埼玉県生まれ。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後、フリーランスになり、現在は自動車雑誌やウェブを中心に活動中。主な活動媒体に『ベストカーWEB』『webCG』『モーターファン.jp』『マイナビニュース』『日経スタイル』『GQ』など。歴代の愛車は、国産輸入車含め、全てMT車という大のMT好き。
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