【ハリウッド映画化】ニコラス・ペッシェ監督が語る村上龍原作『ピアッシング』の狂気とユーモア

作家・村上龍の『ピアッシング』がハリウッドで映画化され、6月28日から日本でも公開が始まる。殺人衝動をもつ男と自殺願望をもつ女が出会うという斬新な設定のサイコスリラーだ。監督は、2016年に『The Eyes of My Mother』でデビューし、ファンタスティック映画祭で作品賞、監督賞など5部門を受賞したニコラス・ペッシェ。「日本文化を敬愛している」というニコラスが、映画『ピアッシング』について語った。


暴力的でいて、どこかユーモラス

私の監督デビュー作『The Eyes of My Mother』は、とても非常にダークでシビアな内容でした。そのため次回作は「ダークなストーリーのなかにも、少しユーモアがある作品を撮りたいな」と。そこで、選んだのが村上龍さんの『ピアッシング』です。

ニコラス・ペッシェ監督

村上龍さんを知ったのは、三池崇史監督の『オーディション』という映画です。私はこの作品がとても気に入り、原作者である村上龍さんに興味をもちました。『ピアッシング』を読んだところ、その魅力に引き込まれました。「殺人衝動」をもつ男性と「自殺願望」をもつ女性が出会うという内容。でも、ただ暴力的ということではありません。作品にはある種のユーモアが存在しています。登場人物が自ら望んで暴力的な世界に飛び込んでいくという設定が、ユーモラスなテイストにつながっていると感じました。

三池崇史監督の『オーディション』と『ピアッシング』には、大きな共通点があります。通常、このような映画で観客は、男性が女性を傷つける展開を予想します。でも、その予想は見事に裏切られる。『ピアッシング』では女性が強く、男女の立場が逆転して、女性が男性を傷つけることになります。男性が女性をひどい目にあわせようと思っていたのが、男性はその何倍もひどい目にあわされます。そんな捻じれた関係性が2つの作品の共通点であり、おもしろさだといえます。

最高のキャスティングが実現

制作の準備段階から、「主演にはクリストファー・アボットを」と思い描いていました。彼は以前からの友人で、これまではブルーカラー的な役どころが多かった。でも、彼はとてもハンサムで、ハイクラスの人物役もよく似合います。『アメリカン・サイコ』のクリスチャン・ベイルのようなイメージで演じてもらいたいと思いました。

クリス(クリストファー・アボット)には、「フランスの映画監督ジャック・タチのような作品にしたい」という話もしましたね。ジャックの作品では、ドジな男が往々にしてトラブルに巻き込まれます。『ピアッシング』では、完璧なはずの殺人計画が失敗するところに、ジャック作品のようなユーモラスな味わいを出したいなと考えました。

もうひとりの主演、女優のミア・ワシコウスカには、自由に演じてもらいました。ミア自身、これまでのキャリアとは違うキャラクターを求めていたのではないでしょうか。少し捻じれた女性を、私が思い描いていたイメージ通りに演じてくれました。彼女に出演してもらって、本当によかったと思います。

クリストファーとミアの主演2人は原作を読んでから、撮影に臨んでくれました。だから、映画では詳しく描かれていない過去のトラウマなどもきちんと理解しています。でも、映画ではあえてそうしたトラウマを入れることはしなかった。観客が登場人物に対して先入観をもたずに、見たままを体験してほしかったからです。2人が初めて出会うシーンで、観客も初めて彼らと出会い、一緒に物語を体験していきます。

ジャパニーズ・アートも必見

映画『ピアッシング』には、日本のアート作品がたくさん登場しています。ミア・ワシコウスカ演じる女性ジャッキーの部屋には写真家・荒木経惟さんの「若い芸者がスイカを食べている写真」が飾られています。私はもともと荒木さんが大好きで、彼の作品がもつシンボリズムやイメージに惹かれていました。荒木さんのセクシャルでフェティッシュなものを日常の中に見せるという手法は、『ピアッシング』のテイストにも合うと考えたのです。

荒木さんの作品は、一見しただけではわからないものも含めて、ほかのシーンにも出てきます。映画ではイサム・ノグチさんの家具も使わせてもらいました。ジャッキーの部屋の本棚には日本のコミックが並んでいるし、クロークの中には日本のデザイナーによる洋服が詰まっています。日本のアートやデザインって、本当に魅力的なんですよね。

映画を観た人から、「高層ビル群の映像が印象的だった」と言われます。この高層ビル群は、ロケ撮影ではなく、ミニチュアを用いました。ミニチュアを使ったのは、この作品はすべてファンタジーであって、人工的な世界であることを示すためです。外のリアルな世界と、映画の中のファンタジーの世界。この2つの世界を完全に切り離すためにミニチュアを選びました。

画面の色使いでは、「シーンごとに異なるカラーパレットを」と意識しました。物語が進み、夜が更けるに従って、暗い色彩から明るい色調へと変化していきます。色は黄色を多く使いました。これは、1970年代のジャッロ映画(イタリアのホラー・サスペンス映画)へのオマージュ。イタリア語で黄色を意味するジャッロには、エロチックでグロテスクなテイストを盛り込んだ作品が多く、私は大きな影響を受けました。『ピアッシング』には、ジャッロ映画の音楽もたくさん使っています。

日本のみなさん、ぜひ『ピアッシング』を楽しんでください。ダークな映画ですが、おもしろいと感じてもらえると思います、映画の中の、日本カルチャーや日本的な部分を探してもらえるとうれしいですね。


ニコラス・ペッシェ
1990年ニューヨーク生まれ。監督デビュー作となった2016年の『The Eyes of My Mother』が、サンダンス映画祭をはじめ世界各国の映画祭で高く評価され、一躍インディーズ映画界の新鋭として注目される。モノクロで実験的なサスペンスホラーである同作品は、ファンタスティック映画祭で作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞、編集賞の5部門を受賞。第2作となる『ピアッシング』は、村上龍の同名小説の映画化。次回作では、日本のホラー映画『呪怨』のリブート版となる『Grudge』に取り組む。


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『ピアッシング』
殺人衝動を持つ男と自殺願望を持つ女が出会い、オープニングからラストまで緊迫感が持続する村上龍の小説『ピアッシング』。この原作に魅せられたのが、米インディーズ界の新鋭ニコラス・ペッシェだ。デビュー作で2016年ファンタスティック映画祭の5部門を受賞した注目の監督が、洗練されたスタイルで原作のテイストを映像化。主人公は幼い娘をアイスピックで刺したいという衝動を抑えるためにSM嬢の殺害を計画。しかし呼び出した女はいきなり自分自身を傷つけはじめる。刃を外に向ける者と内に向ける者は、やがて共鳴していくのだろうか。
2018/アメリカ
監督:ニコラス・ペッシェ
出演:クリストファー・アボット、ミア・ワシコウスカ、ライア・コスタほか
配給:パルコ
6月28日(金)より、新宿シネマカリテほか全国公開


『ピアッシング』
村上龍 著 
幻冬舎 ¥419


Text=川岸 徹