前輪駆動方式 (FF)化されたBMW1シリーズの進化と課題とは?【深堀クルマNEWS】

100年に1度の変革期を迎えたと言われる自動車業界。本連載では、国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで、幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から業界の今を深堀する。最先端のクルマ紹介はもちろんのこと、 歴史ある名車の今と昔、自動車ブランド最新事情、今手に入るべきこだわりのクルマたち等々、さまざまな角度から深堀する。第1回は、BMW1シリーズについて。


FF化推進の理由  

2019年8月に、日本デビューを飾った第3世代となるBMW1シリーズの最大の変化は、駆動方式の変更にある。

初代と2代目が、BMW上級モデル同様、後輪駆動方式(FR)を採用していたのに対して、前輪駆動方式(FF)を採用。これが、BMWファン、いやクルマ好きには、大きな話題となり、先代1シリーズ末期モデルの売り上げが好調だったとも聞くほどだ。

しかし、BMWとしては初のFFではなく、MPVである「2アクティブツアラー」や「2グランツアラー」の導入を皮切りにコンパクトクラスのFF化を進めており、SUVのX1やX2などもFFモデルだ。最近モデルのFF車として、新たな4ドアクーペ「2グランクーペ」も発表している。

BMWがFF化を推進するのは、さまざまな側面での効率の向上だ。同社が手掛ける英国ブランド車のMINIは、初代モデルよりFF方式を採用しており、この技術と部品をBMWにも採用することでコスト低減を狙ったのである。

もっとも、FF化のメリットもあり、部品のレイアウトの変更やエンジンルームのコンパクト化により、同サイズなら、より室内やラゲッジスペースを広くすることが可能となるのだ。

FF化が賛否を呼んだ理由

では、なぜFF化がファンから賛否を呼んだのか。それはFF車のBMWが、FR車のBMWと比べると、BMWらしい運転の楽しさが味わえなかったことにある。MPVやSUVなら、ユーザーもユーテリティを重視し、またファミリーカーとしての色も強いため、受け入れられる土壌もあった。

しかし、1シリーズはエントリーモデルといえど、ライバルたちがFF車であるのに対して、敢えてコスト高のFRにこだわり、そのBMWらしい走りの味を提供してきたことが、多くの人に愛されてきた背景がある。

個人的にもFF化された1シリーズがどのような進化を遂げたのか、強い関心を持っていた。

用意された試乗車は、118i Playと呼ばれるモデルだ。先代モデルが、FRらしい鼻先の長いボンネットに、ルーフラインの低さを強調したキャビンを組み合わせた流麗なスタイリングだったのに対して、新型はフロントが短くなり、キャビンの大きさ強調され、今どきのハッチバックらしいスタイルに。ただ先代と比べ、ずんぐりした感は否めない。この点も好き嫌いが分かれそうだ。

ボディサイズは、全長4335mm×全幅1800mm×全高1465mm、ホイールベースは2670mmとなり、先代比だと全長-5mm、全高+35m、全幅+25mm、ホイールベース-20mmとなる。全長とホイールベースが縮められたが、公表値によると、後席足元は約40mm広くなり、ラゲッジスペースも20L増しの380Lまで拡大されたとあるから、FF化で居住性の改善が図られたようだ。実際、乗り込んでみると、後席は広くなったことが実感できた。

1シリーズのエントリーである118iのパワートレインは、1.5L3気筒DOHCターボで、最高出力140ps/4600~6500rpm、最大トルク220Nm/1480~4200rpmと実用的なスペックを備えるものだ。トランスミッションは、7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)となる。試乗場所は箱根周辺なので、ワインディング(峠道)も含めて試すことができた。

乗り始めて最初に感じたのは、静粛性の高さだ。3気筒エンジンなので、回転数が高まると特有の音は発するものの、音の強弱は運転に必要な情報としてエンジン音を伝える程度にとどめているようだ。

そして、乗り心地も良い。もっとも試乗車は、乗り心地重視といえるタイヤサイズなので、その点も考慮しなくてはならないが、それでも先代よりも快適性の向上が図られたなと感じさせる。その分、先代よりも分かりやすいスポーティな演出も抑えられたようだが、より運転しやすいクルマに仕上げられている。

期待するスポーティさは? 

では、BMWファンが期待するスポーティさは失われてしまったのか、その答えはワインディングにあった。高低差といくつものコーナーが連なる山道に入ると、118iは、水を得た魚のようにスムーズに駆け抜けていく。

車両からのインフォメーションがしっかりと伝わるため、ドライバーは的確な操作が行え、決してパワフルとはいえない3気筒ターボの力を存分に引き出して走ることができる。特に癖のない素直なコーナリングは、BMWらしい駆け抜ける喜びを感じさせてくれた。

このコーナリングの良さは、新機能「タイヤスリップコントロール」の恩恵もある。この機能は、簡単に言えば、タイヤの滑りを素早く検知することで、スリップを抑える制御を行うもの。結果として、コーナリング時にクルマが外に膨らむことを抑制することで、ドライバーの狙ったラインを走ることができるわけだ。

FFのBMWも、やるじゃないかと好意的な印象を持つことができた。ただ先代の1シリーズで感じたほどのBMWらしさが感じられないのも確かだ。そこは完成度というよりも、FR特有の動きと感覚、そして伝統的な味付けによるものだろう。

結論として、FFでもBMWらしさが演出できることは実感できた。しかし、誰かにBMWらしいクルマに乗りたいと言われたら、やはり、FRのBMWをおススメするだろう。まだ1シリーズでは、BMWに乗っているという満足度を得るにはキャラクターが薄いからだ。

また良くできたFFコンパクトハッチなら、ほかにも存在する。そんなライバルと戦うにも、BMWらしさを高めることは重要となる。どれだけBMW色に染められるか、それが新生1シリーズの課題だろう。

Yasuhiro Ohto
1980年埼玉県生まれ。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後、フリーランスになり、現在は自動車雑誌やウェブを中心に活動中。主な活動媒体に『ベストカーWEB』『webCG』『モーターファン.jp』『マイナビニュース』『日経スタイル』『GQ』など。歴代の愛車は、国産輸入車含め、全てMT車という大のMT好き。