読んでる本が男を語る 想像する男編

『動物翻訳家 心の声をキャッチする、飼育員のリアルストーリー』 

人に関わるのに疲れた時、動物の本を読みたくなる。禁じられた恋に落ちたなんていう小説とか、不安を愛そうみたいな自己啓発っぽい話からは遠く離れて、ただそこに本能のまま生きている動物たちと戯(たわむ)れたくて。

本書は動物そのものではなく、動物園で彼らの世話をする飼育員の仕事振りを追ったノンフィクション。でも、猫を通して「ニャンとかなるよ」と励まされるよりはずっと好ましいはず、と思ってページを開く。

環境エンリッチメントという言葉が動物園業界では流行しているそうだ。飼育環境を充実させて、精神的・身体的な健康を向上させる取り組みのこと。旭山動物園から始まった動物園再発見ブームもあって、そこで働く人々の仕事は動物がどのような姿形をしているのかを展示するという段階から、個々に特有の身体能力や生活パターンをも間近で感じてもらう方向へと進化しつつある。そのためにはまず従来の檻の中で飼うという概念を捨てることが求められるが、野生をそのまま再現できるわけではない以上、動物たちの「心の声」を聞きながら、少しでも快適な生活を送れる場所を作り出そうと苦心しているのかだ。

動物と話ができる特殊能力を持たなくても、日々側にいて観察し、触れ合い続ける飼育員たちには、動物が今何を考えているのかがある程度わかる。ペンギンの足取り、チンパンジーの後ろ姿、キリンの目つきは、時に言葉よりも多くを語る。飼育員は自分という人間の感情を通して彼らを理解しながらも、同時に自分とは決定的に違う種であるという現実を忘れずにありのままの彼らを受け入れなければならない。どちらにしても想像力を可能な限り働かせる必要のある、とても大変な作業なのだ。

つまりこんなふうに言える。それって人間同士とほとんど一緒じゃないか。他者と関わることに疲れている人には、きっと誰の心の声も聞けない。

『動物翻訳家 心の声をキャッチする、飼育員のリアルストーリー』 片野ゆか 著 集英社 ¥1,500