キーパーソンが語るクルマの近未来~友山茂樹 トヨタ自動車専務役員編~


TOYOTA──Shigeki Tomoyama
クルマって楽しいなと思える未来をつくりたい

"つながる"ことで広がるクルマの近未来

 グーグルやアップルといったIT企業の自動車産業への進出に対し、世界のトヨタは真っ向から受けて立つ構えだ。

 「"クルマ離れ"の時代と言われていますが、人間がクルマに求める価値は変わらない。私たちは"FUN TO DRIVE"が真ん中にある未来の自動車社会を築きたいと思っているんです」

 トヨタは、この春大幅な組織改編を行った。その目玉となるのが新設された「コネクティッドカンパニー」。トヨタの、いや自動車の未来を託されたのが、コネクティッドカンパニーの友山茂樹プレジデントだ。

 「私はスポーツカーおたくで、愛車はチューンナップした1997年製のスープラ。こういう人間に"Connected"部門を任せようというところがトヨタらしい。IT時代になっても"クルマ屋"として、FUNなクルマ、クルマ社会をつくっていこうという意志の表れです」

鍵を握るのは、情報通信サービス「T-Connect」

現在豊田市、仏・グルノーブル市で実験的なシェアリングサービスが行われている電動三輪自動車「i-ROAD」。

 クルマ屋が描く未来。その重要な役割を担っているのが、トヨタの最新鋭の情報通信サービス「T-Connect」だ。案内されたデータセンターの一室にあったのは、壁いっぱいの大きなモニター。そこには日本地図が表示され、T-Connectでつながったクルマが無数のドットで示されていた。

 「T-Connectでは、エージェント(オペレーター)の音声によるナビゲーションや交通情報のサービスを行っています。それぞれのクルマから収集された情報によって、渋滞状況などをドライバーに伝えることもできます。クルマそのものが端末として発信するさまざまなリアルタイムの情報を蓄積し、利用者に還元することができるのです」

 そう言って、「札幌を見てみましょう」と地図を拡大する。

 「赤い部分は、路面が凍結しているところです。ここを通過したクルマがスリップの状態を察知し、センターに伝えてくるので、近くにいる後続車に注意情報として伝えます。さらにエアバッグが開いたことを検知するとセンターからお客さまにコンタクトし、緊急車両を手配することもあります。このサービスで命を救われたという事例も数件あります。今後は人工知能を導入し、個人の趣向を学習することで、もっとパーソナルなサービスが可能になるようにしたいと考えています。例えば、蕎麦が好きなドライバーには、新しい蕎麦屋を教えるとかね(笑)。ビッグデータが蓄積していくことで、より充実したサービスが提供できるようになるのです」

T-Connectは、単なるカーナビの進化形ではない

さまざまな情報端末が並ぶT-Connectの"奥の院"。この部屋にカメラが入ったのはこれが初めてだという。

 パーソナルな「クルマとの関係」がクラウドにあれば、カーシェアのクルマでも同じように個人的サービスを受けることが可能になる。

 「愛車という言葉があるように、クルマと人間は、道具を超えた関係を築くことができる。これからは、クルマそのものではなく、人工知能のエージェントが相棒的にクルマをパーソナライズする存在になるのかもしれません」

 トヨタでは、今後通信機器を標準装備にするという計画がある。もちろんつながるのは、人間とクルマだけではない。クルマとクルマ、クルマと外部がつながることで、クルマの未来が大きく変わっていく。

 「多くのデータを集積することで、渋滞を緩和したり、交通事故を未然に防いだりすることもできるでしょう。安全で快適、そして環境にも優しいクルマ社会を追求するのは、我々の責任でもあります。でも私たちは、クルマを情報家電にするつもりはありません。カタチや使い方、所有形態が変わっても、クルマってやっぱり楽しいなと思えるような未来をつくりたいのです。トヨタはクールじゃないという印象があるかもしれません。でも私が言うのも変ですが、まじめで誠実な企業であるのは間違いない。クルマが個人情報の集積になった時、そういう信頼度も、クルマを選ぶ基準になるのではないかと考えています」

 FUN TO DRIVEと信頼。このふたつは、これからの自動車産業においてトヨタの大きな武器となるだろう。

友山茂樹
トヨタ自動車専務役員 コネクティッドカンパニー プレジデント。1958年生まれ。81年トヨタ自動車工業入社。情報システム本部長などを経て現職。IT担当でありながらサーキット活動もこよなく愛し、豊田章男社長の肝いりのモータースポーツ組織、GAZOO RACING FACTORYの副本部長も兼任する。

Text=川上康介 Photograph=栗本剛樹

*本記事の内容は16年4月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)