スーパー秘書は既成概念を吹き飛ばす「私にしかできないことを!」vol.01

好評企画の「秘書特集」。今回の取材で浮かび上がってきたのは、秘書のイメージが、従来のものから徐々に変化してきているということだ。「秘書」という呼び方を意識的に変えている企業があることも、その表れかもしれない。ボスのスケジュール管理、社内調整などをベースにしながらも、「その先」をボスは秘書に求めている。そしてそれに応えるべく、秘書たちは懸命に独自の仕事術を模索していた。今まさに、秘書の新時代が到来!? 一歩も二歩も先を目指す、新たなる秘書の世界を公開する!

言われたことを事務的にさばく、なんて秘書は言語道断。社長が秘書に求めるのは、常にボスの先を読み+αを考え続けディープに行動すること。国内外にその名が知れ渡る有名企業の秘書は、ひと味違った!

COMPANY DATA

1879年設立。その名は世界的にも知られ、海上保険の取り扱いは世界最大クラス。売上高、利益ともに日本の損害保険業界トップ。2004年に東京海上火災保険と日動火災海上保険が合併。東京海上日動あんしん生命なども傘下に持つ東京海上ホールディングスの中核会社。

取締役社長 永野 毅(写真中) 総務部秘書室主事 社長秘書 大谷津朋子(写真左) 総務部秘書室課長 社長秘書 藤本達也(写真右) 慶應義塾大学卒。1998年入社。首都圏、熊本支店で営業を9年、本店の経営企画部で6年。2013年6月より現職。会社のラグビー部にも所属していたスポーツマン。

基本的にすべての案件に同席する

ラグビーで鍛えた大きな身体。頑丈さには自信がある。「それだけが取り柄ですから」

日本を代表するエクセレントカンパニーのひとつと言っていいだろう。損害保険業界最大手、東京海上日動。社長の永野毅氏は、昨年6月に就任した。
「経営トップの仕事は大変な忙しさですが、秘書が私の健康を守ってくれています。私の限界を理解し、冷徹にスケジュールを管理し、無理をさせない。とてもありがたいことです」
 このスケジュール管理を担当しているのが、大谷津朋子さん。
「社長が心身ともにコンディションよくスケジュールをこなせるようにすることが、私の役割です。1日中、スケジュールとにらめっこしています(笑)」
 そしてもうひとつ、社長が秘書に求めたことがあった。
「社長というのはお山の大将になる危険がある。耳障りなことは、なかなか耳に入ってこないんです。本音のところ、声なき声が聞こえにくくなる。だから、私が快適に思わないことも、積極的に直言してほしいと最初に伝えました」
 そんな重責を担っているのが、藤本達也さんだ。社長就任と同時に秘書になった。
「まさに青天の霹靂(へきれき)でした。私は海外経験もないし、財務にも明るくない。前任者は人事、経理、海外などを経験した10年先輩のスーパーマンでした。本当に私に務まるか不安でしたが、社長秘書の先輩方に話を聞きにいくと、『大変光栄なこと。意気に感じてやるべきだ。トップによって求められるものは違うから、社長と一緒に秘書業務を作り上げていけばいい』とアドバイスを受けました」
 社長と同じ情報が入るよう、基本的にすべての案件に同席する。出張も海外を含め同行。見るもの聞くもの、すべて同じにして考えられるようにしている。
「すべてを社長におうかがいを立て判断を求めていては、とても社長の時間を有効に使えません。私ができることもありますから、それは私がやればいい」
 同じものを見ているからこそ、社長に成り代わって考えたり、資料を確認したりできる。現場にも同行するが、そんな時こそ、藤本さんの役割が重要になる。
「社長はとてもフランクに現場第一線の社員に意見を求めますが、社員が社長に本音で話すのは、やはり難しい。代わりに聞き、そのなかでも心ある声を届けることが私の役割だと思っています。私自身が意見することもありますが、いつでも真正面から受け止めてくれます」
 一方で、あらゆる場面で社長への気遣いも常に忘れない。
「いろんなプレッシャーが常にのしかかっているのが、経営トップ。ですから、秘書と接する時くらいは、素になってリラックスしてもらえるよう意識しています。本音で語ってほしいし、愚痴も言ってほしい。また、何かを伝える時にも、タイミングに気をつけます。私たちの一番のミッションは、雑事に惑わされることなく、最高の経営判断を社長にしてもらうこと。そのための環境を用意したい」
 スケジュールを担当する大谷津さんも、常にいろんなことを想像しながら行動するという。
「社長が今考えていることはどんなことか、本心は何か、を意識するようにしています。疲れていても、それが表に出るとは限りません。本当の姿を見極めないといけないと考えています。この案件には力が入っている。だから打ち合わせは延びるかもしれない、と想像できたら、後ろに余裕を持ってスケジュールを組んだりできます」

社内窓口やスケジュール管理を大谷津さん、それ以外を藤本さんで、秘書業務を分担している。大谷津さんが自ら判断できない場合は、藤本さんに相談する。


藤本さんは秘書になって服装も持ち物も変わったという。
「まずは白いワイシャツをたくさん買いました。スーツも買い換えました。革製の気取ったカバンを使っていましたが、分厚いビジネスバッグにしました」
 財布も長財布に。手帳のほかに小さなメモ帳を持ち歩く。
「胸ポケットにサッと入るものでないと不便だからです。小さなメモ帳はペンディング案件のリストとして重宝しています」
 健康管理にも、それまで以上に気を遣うようになった。
「絶対に休むわけにはいきませんので。服装面から健康面まで、今は妻のサポートがこれまで以上に厚くなりました。妻には本当に感謝しています」
 秘書になって1年強、この仕事の醍醐味を実感している。
「秘書というのは、実は専門分野がないんです。極端な話、漫然と仕事を流していると、何も身につかずに時が過ぎます。ただ、これは裏を返せば、本当に幅広い知識や引き出しが求められているということだと思います。まだまだ咀嚼(そしゃく)できることに限りはありますが、このような経験ができるのは社長秘書ならではと、日々そのありがたみを感じています」
 常に随行しているだけに、社長からは“秘書は分身であるべき”と言われている。ハードルは高いが、次第に手応えが感じられるようになってきた。
「ある文章を書いた時、『ずいぶん分身に近づいてきたな。ほとんど直すところがないよ』と言ってもらえたことがありました。ほんのちょっとでも近づけたかな、とこれは本当に嬉しい言葉でした」
 目指すは、黒子として現場との橋渡しをさらに円滑にし、有能な分身になることだ。
「そうすれば、社長の負担をもっと減らすことができます。今後大きな環境変化が予想されるなか、社長は5年後、10年後の会社のあるべき姿を考えなければいけないと常に言っていますが、そのための時間を生みだすこともできる。社長に何の心配もさせないようにし、社長が口に出さずとも、すべてがうまく動いていく状況にしていきたい。まだまだ言われるばかりで上手にできていませんが、それが理想です」


Text=神舘和典、上阪 徹 Photograph=星 武志、岡村昌宏


*本記事の内容は14年8月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。
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