「日本の女を歌う」NakamuraEmi ~野村雅夫のラジオな日々vol.25

現在、大阪のFM802を中心に、ラジオDJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回は独自のヴォーカル・スタイルで、パワフルに言葉を紡ぐNakamuraEmiだ。 


回り道の人生が歌になった

「オフィスオーガスタに新しく所属するシンガーソングライターを紹介したいんですが、お時間よろしいですか?」

初めてNakamuraEmiに会ったのは、メジャーデビューよりも前だったから、2015年だろうか。東京で開かれたとある野外音楽イベントだったように記憶している。新人という情報が頭に入っていたので、32歳の女性を目の当たりにして、正直なところ、少しだけ当惑した。それから東京で大阪で、ラジオでテレビで、彼女の話を聞くたびに僕はそのユニークな「回り道の人生」に惹かれていった。彼女の歌には、その道程が通奏低音のように下地になっている。だからこそ、深みがある。借り物の言葉なんてひとつもない。僕だって放送業界に入ったのは30歳。無駄を省いて最短距離を行くばかりが人生じゃないだろう。

これまで何度も話していたのに、FM802 Ciao Amici!には初登場となった2月21日。今回はそこでの僕らのやり取りを楽しんでいただくのだけれど、あらかじめ断っておきたいのは、僕が喋りすぎていること。ま、今回に限らず、往々にしてそうなのだけれど、今回は反省するレベルで喋りすぎた。Emiちゃんを迎えたのが嬉しかったのもあるし、新作に心底感動していたから、それをしっかりリスナーに伝えねばという使命感を抱えすぎたのかもしれない。笑って許してもらえれば、これ幸い!

NakamuraEmiです。よろしくお願いします。

ーーEmiちゃん、チャオ!

チャオ〜〜!!

ーー僕はEmiちゃんは長らく推しておりまして、ラジオでもテレビでも、何度もご一緒してきたわけですが、昨年4月から始まったこの番組には、実は初登場です。ごく簡単にプロフィールを紹介しておきましょう。神奈川県厚木市出身。1982年生まれ。山と海と都会の真ん中で育ちました。もともとは、J-popから始めたんですよね?

はい、そうですね。

ーー自分で歌うようになっていきます。並べ立てるとキリがない面白エピソードがあるところを大胆に端折っちゃいますが、ヒップホップやジャズに触れるようになって、そうしたジャンルに憧れて、今の独自のヴォーカル・スタイルが生まれます。いわゆるラップとも違うような気がするし、歌と素朴に言うのも違う気がする。独自の抑揚、フロウでもって、たゆたうように歌うスタイルを確立されました。しかし、今日久しぶりに会ってもね〜、とにかく、小柄!

ハハハ!

ーー小さいけれど、本当にパワフルに言葉を紡いでいくということで注目を集めて久しい…… こんな感じかな、プロフィールは。で、2月20日、『NIPPONNO ONNAWO UTAU VOL.6』リリースとなりました。おめでとうございます。

ありがとうございます。

ーーもうVOL. 6まで来ちゃいましたね。

そうですね。もう7年ぐらいまですかね。VOL.1を出したのが。その時はまだ会社員だったんですけど。

ーーこれは始めからシリーズ化を前提として「NIPPONNO ONNAWO UTAU」と名付けたんですかね?

最初はVOL.1て正直付いてなかったんですけど、2枚目の曲を集めてみた時も、近くにいる素敵な人たちに憧れて、いつか自分もこういう人たちみたいになりたいなっていう曲がすごく多かったんです。となると、アルバムのテーマは一緒だなと。そっから、まだ素敵な女性になりきれないまま、6まで来ました(笑)

ーーいやいや。もう十分素敵ですけどね。Emiちゃんにはいろんな職業の経験があって、だからこそ、いろんな職種、考え方に接してきているわけですから、自分自身のことも含めて、歌うエピソードがたくさんあります。結果的にそれが、「日本の女を歌う」という大きなプロジェクトの基礎になっていると思うんですね。だって、わずか数曲で日本の女について歌いきれるわけがない。そりゃ、6枚目に到達するわなっていう。今回の収録曲は8曲。テーマはずばり女性です。

ーー『バカか私は』という曲でスタート。このタイトルでいきなりガツンと来てしまいます。続いて、『雨のように泣いてやれ』。薄っぺらいと言われがちだけれど、本当にそうなのかという『女の友情』。『いつかお母さんになれたら』。地域コミュニティーについて歌った『おむかい』。『痛ぇ』。『甘っちょろい私が目に染みて』。『相棒』。それぞれ、タイトルから「どんな歌なんだろう」と興味をくすぐられるのは、いつもの調子です。Emiちゃんが作品を出すたびに、僕も聴いて、直接会ったりもしてるでしょ? 気づいたんだけど、アルバムをまたいで共通するモチーフってのもあるよね。たとえば『おむかい』っていう曲。今この記事を読んでいる人が、「自分のお向かいさんの名前を言えますか」みたいなね。僕なんかはマンションに住んでますが、お隣さんの名前とお顔は承知しているつもりでも、家族構成をそらで言えるかってなると… 回覧板って最近回しました? ってこともあるし。

前作に『新聞』という曲があって、携帯なんかを手放せない時代だけど、人と会って話すって大事だよねっていうテーマでした。そこと通ずるものがあるのかなって。

ーー『新聞』ではサラリと出てきていたエピソードが、広がって1曲に結実したのが今回の『おむかい』なのかな。『新聞』って曲は、前に僕が大阪梅田で観せてもらったライブで歌われていて、忘れられないものとなりました。というのは、ラジオのこともチラッと出てくるから。あと、この番組では先日とある万年筆を紹介したんだけど、万年筆っていうワードも出てくるでしょ? つまり、下手すりゃ、若い人からすれば、新聞、ラジオ、万年筆なんて古いものと思われてるかもしれないけど、そこにはぬくもりって絶対にあるんだぞと。新聞もタブレットで読むのもいいんだけど、タブレットだったら、読み終わった後に…… あれは猫だっけ?

そうそう、うちにハナっていうのがいるんですけど、猫です。読み終わった新聞を猫の餌入れにして使うという。

ーー新聞は読んだ後に色んな使い道があるわけよ。タブレットを折り込んで、その上にキャットフードを置くわけにはいかないもん。

そうですね。その曲の最後はそういう終わり方をしますね。細かいところまで、ありがとうございます。

ーーその『新聞』の中に、お母さんとのやり取りってのが出てくるじゃないですか。パソコンのキーボードを叩いていたら、何の音に聞こえるんでしたっけ?

ネズミの足音みたいだねって。

ーー考えたら、今はパッドに置き換わってきてるけど、操作にはマウスを使うもんね。

あ、マウス、ほんとだ!

ーーともかく、お母さんが登場するわけですが、今回は『いつかお母さんになれたら』っていう曲があって、これがね、僕と番組の女性ディレクターがグッと来ちゃいましたね。僕が年長ではあるけど、みんな同世代ですわ。

ほんとですか? そうなんだ。

ーー保育園に務めてたことってあったよね?

はい。幼稚園の方だったんですけど、先生をやってました。

ーーとある面白い園児がいてさ…… っていうところから話が始まります。似たような経験を実際にされて、それを思い出して曲を書かれたんですか?

そうです。実際に、りゅうと君っていう面白い男の子がいて…

ーーすげえ! 固有名出てきたよ。そんなにはっきり覚えてんの?

ハハハ! もちろん、覚えてます。

ーーでも、結構前の話でしょ?

今はその子は22歳になったんですよ。怖いけど(笑) その子がほんと面白くて、お母さんとも仲良くさせてもらってたんですね。で、そのお母さんが毎日色んな絵本を読み聞かせながら色んな世界を教えてあげていたんです。だから、こんな色んな発想ができる子になるんだって思ったことをすごく覚えていて、そんなエピソードから始まる曲ですね。

ーー今の日本の女性っていうのは、晩婚化が進んだり、シングルであることを選ぶケースが増えたり、結婚していても、意志は脇へ置くとして、子どもがいなかったりしますよね。僕は社会問題にするなよって思うけど、要するに人が少ないと金が少なくなるってことで、女性の生き方が安直に政治の問題として取り上げられて…… 「なんじゃそりゃ!?」って発言も偉い人の口から聞こえてくることあるじゃない。そのせいで、なんにも悪いことなんてしてないのに、肩身が狭い思いを強いられている女性も結構いると思います。Emiちゃんはそこに寄り添ったり、代弁してスカッとさせたり、今回もしてくれているなと。でも、あんまり自分としては構えてないでしょ?

そうですね。(構えて)「日本の」というよりは、自分も歳を重ねて、親友たちの子どもを見ている時の自分の気持ちからできた曲ですね。実は、私のチームって、みんな男性なんですよ。ミュージシャンも男性なので、この曲をどう伝えたらいいか、男性のみんなが困っちゃって。どうしているかっていうと、「俺たちがもっと地球規模の音にすれば、男性が聴きやすい曲になるかも」ってアレンジをしてくれました。

ーー僕は『バカか私は』なんかも気に入ってですね、この前番組でオンエアしたんです。これも女性がテーマではあるけどさ、大人になって尻もちついて転ぶのは、なんでこんなに痛いんだろうって…… これは男女共通じゃない? 子どもの頃はドッタンバッタンやってたけど、大人になってからはそう転ばないじゃない。比喩的な意味でもってことだけど。転ばないのがいいとされるし、転んだところを見られたくないしで。

ーーしかも、男女の差って、昔ほどないと思うしさ。そういう意味では、「男がどう聴くんだろう」なんて、あまり気にしなくていいんじゃないですかね。僕なんか、もうグサグサ来てるもの。

ほんとですか? 嬉しい。

ーー僕の中のフェミニンな部分があってさ。フフ。

ハハハ!

ーーEmiちゃんにも男性的な部分はきっとあるだろうしさ。ステージの上にいたら、やっぱり「カッコいい!」って見られることもあるだろうし。『女の友情』って曲には「『女々しい』って嫌な言葉」というフレーズがあって、僕も大嫌いな言葉だけど、女の友情がテーマなはずなのに、あの部分に救われる男性もいるはずだよ。

ああ! そうか。

ーーでも、あくまで身の回りのことを歌ってるから説得力があるんだろうね。なんか偉そうなことを言おうって感じはないし。ふと思ったんだけど、エッセイとか書かないの?

エッセイですか!?

ーーどうしたのよ? 口をおさえちゃって。

だって「エッセイを書いたら?」なんて初めて言われて、ちょっと……

ーー書けるっしょ!? 余裕だよ。このライナーノーツだって、そのままエッセイになるんじゃないの? この番組では書籍紹介のコーナーもありますが、Ciao Amici!をお聞きの全国の出版関係、編集者の皆さんね、NakamuraEmiちゃんに何かひとつ文章をという場合には…… フフフ…… お問い合わせいただければと思いますよ。

あ、どうぞよろしくお願いします。がんばります(笑)。

ーー今後の予定です。6月18日(火)Zepp DiverCityでの東京公演をフィナーレとするもので、日程を眺めていると、アコースティックセットとバンドセットが、日によって、会場によって、混在していますね。セットリストも変わるんですか?
NakamuraEmi NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.6 〜Release Tour 2019〜

そうですね。24ヵ所回るので、やりながらもどんどん変わっていくのかなと思います。アコースティック公演の方には、雅夫さんが前に観に来てくれた時にも一緒にやっていた、カサリンチュの朝光介くんにヒューマンビートボックスで加わってもらい、ギタリストのカワムラヒロシさんと3人でパフォーマンスします。

ーービートはドラムパッドとかじゃなくて、すべて人間の……

身体から!

ーー光介くんはまたムードメーカーだったりするから、MCも楽しいんだよね。バンド公演とはまた雰囲気が違うと思いますから、2ヵ所お出かけするのもいいかもしれません。お別れの1曲はどうしようかね。

雅夫さんとディレクターさん、おふたりがいいって言ってくださった『いつかお母さんになれたら』をかけてもいいですか?

ーーもちろんです。いや〜、この曲はね…… 僕はさ、ほら、お母さんにはいつまでたってもなれないですよ。

ハハハ!

ーーなれないけど、僕の身の回りにも、シングルの女性がたくさん同年代でいます。特に放送局なんてその割合が非常に高いです。グッと来たね。

フフフ

ーーちょっとさ、アミーチのみんな、あ、これ、リスナーのことね、聞いてくれよ! ちょー、ホンマに、ホンマに。

ハハハ! 急に誰!?

ーー今からこの数分間、手を止めて、しっかり耳を澄ませてみてくれよ! 途中でね、「なんちゃって」という言葉が出てくるんだけど、そこで次元がフッと変わるんだよね。そこがヤバイんだよ〜〜

嬉しい〜〜! すごい聴いてくれてる〜〜〜!

ーーEmiちゃん、この番組には初めてでしたけど、またリリースのたびに、ちょいちょい、ライブのたびにでもいいし、スタジオに来てよ。

また来さしてください。


野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
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