頼れる"小さな日本代表"スズキ「ジムニー」が愛される理由【深堀クルマNEWS⑤】

100年に1度の変革期を迎えたと言われる自動車業界。本連載では、国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで、幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から業界の今を深堀する。最先端のクルマ紹介はもちろんのこと、 歴史ある名車の今と昔、自動車ブランド最新事情、今手に入るべきこだわりのクルマたち等々、さまざまな角度から深堀する。第4回はスズキ「ジムニー・シエラ」。

扱いやすく、手頃な価格

巷に溢れる様々なSUVだが、そもそもはレジャーに使われる多目的車のことを指す。このため時代に合わせ、形や定義も変化してきた。

そんなSUVの中でも源流に近いところにあるのが、トヨタ・ランドクルーザーやジープ・ラングラーなどの優れた悪路走破性を誇る「クロカン」と呼ばれるクルマたちだ。林道などの未舗装路はもちろんだが、泥道や岩場のような足場の悪い道、時には道なき道さえも突き進む。クロカンは、厳しい自然を相手にする世界中の冒険野郎やプロフェッショナルの相棒に選ばれるプロツールでもあるのだ。

そのバックボーンに憧れる人も多いが、誰もが手を出しやすい存在とは言い難いもの確かだ。ボディサイズはデカいし、何より価格も高価である。しかし、日本には、扱いやすい上、手頃な価格で手に入るクロカンが存在する。

それがスズキ・ジムニーだ。

2018年7月にフルモデルチェンジを迎えた4代目

ジムニーは、軽自動車規格を基本に開発された小さな4WD車で、1970年に、初代がデビュー。その姿は、小さなジープそのもの。快適装備とは無縁だが、何処にでも行ける高い走破性から、土木・建設・林業などの現場で活躍するプロから愛されてきた。その機動力の高さと軽自動車という手軽さから、活躍の場は広がり、豪雪地や山間部の住人にも愛用されるように。

このため、改良やモデルチェンジを重なるごとに、その優れた基本性能を磨き上げるだけでなく、乗用車としての機能も高められてきた。その最新型が、2018年7月にフルモデルチェンジを迎えた4代目ジムニーだ。

ポップさも感じられる鮮やかなカラー  

新型ジムニーは、20年ぶりとなる全面刷新を図ったオールニューモデルだ。最も目を引くのは、そのシンプルながら愛らしさもあるスタイルだろう。

クラシカルな丸目ライトのマスクは、愛嬌もたっぷりだが、頑丈そうな直線的なスタイルのボディがプロツールらしい雰囲気を漂わせる。さらに、ゆとりある最低地上高と大径タイヤが、悪路も恐れない高い走破性を主張する。

小さいながらも、本物感を漂わせるところは、まるでヤンチャ小僧のようだ。レトロなスタイルに加え、ボディカラーにイエローやブルーなどの鮮やかな色が取り入れたことで、ポップさも感じられるようになった。ただこの形も、大切な機能のひとつ。直線的なスタイルは、運転時にサイズ感が掴みやすく、凹凸の少なくすることで雪の付着を抑える効果を担っている。

質実剛健なインテリア  

インテリアは、洒落っ気は薄く、まさに質実剛健な作りだ。正直、今どきの便利機能とは、縁遠い。しかしながら、ひとつひとつが考え抜かれた形であるのは、エクステリア同様だ。ダッシュボードなどのインテリアパネルが直線的にデザインされているのも、悪路走行中に車両の傾きを把握し易くするため。

また乗員が姿勢を維持し易いように、ドアやダッシュボードに大型のグリップがしっかりと備わる。スイッチ類などの操作系には、大き目のダイヤルやボタンを採用することで、視認性と操作性が高められている。

少々マニアックな話だが、ジムニーの本質を語るには、その構造も外せない。まずボディは、トラックなど頑丈さが求められるクルマに使われるフレーム構造を採用。その上に、ボディが装着されている。4WDシステムは、パートタイム式と呼ばれるもの。通常は2輪走行だが、悪路など必要な状況に応じて四輪走行を選ぶメカニカルなものだ。

サスペンションも、凹凸路で優れた接地性と路面との距離を保ちやすい前後リジット式とする。これらの構造は、クロカンに広く使われ、ジムニーの優れた走破性を実現するために、伝統的に受け継ぐ構造でもある。

新型ジムニーの仕様は、大きく二つに分かれる。660㏄ターボエンジンを搭載する軽自動車の「ジムニー」と1500㏄自然吸気エンジンを搭載する普通車の「ジムニー・シエラ」だ。軽自動車規格を基本に開発されているが、普通車も存在するのだ。こちらが輸出仕様のベースとなる。今回の撮影車も、シエラだ。

シンプルに両者の違いを表現すれば、エンジンの排気量とタイヤサイズのみ。実は、キャビンの広さは、全く同じだ。ただタイヤが異なる関係で、フェンダーに樹脂製カバーが装着され、ワイド化されているので、より迫力あるスタイルになっている。

狭い路地や駐車場もスイスイ  

街中でのジムニーの使い勝手は、良好だ。ボディサイズは、軽自動車なので小さい上、四角い形なので、狭い路地もスイスイ。もちろん、ボディパーツの違いで、少しだけサイズアップするシエラでも印象は変わらない。車高が高いので、運転中の視界も優れる。

都市部だと狭い駐車場にも、よく遭遇する。しかし、このサイズなら、不安とも無縁だ。例え、前後に車両が止まっている縦列駐車のパーキングにも積極的に挑戦したくなる。快適性は、どうなのか。新型は、乗り心地の向上にも力を入れたこともあり、従来型よりもずっと良くなった。もちろん、過度に期待してはいけないが、クロカンということを踏まえれば、十分だ。

オフロードに特化した性能が裏目にでるシーンも  

もちろん、不得意な部分もある。コンパクトなキャビンが故、後席を倒さないと、ラゲッジルームには、小物程度しか詰めない。旅や遠出は、快適性重視なら2名。後席ひとつを荷物置き場にして、3名に留めて置く方が良い。

またオフロードに特化した性能が裏目にでるシーンもある。悪路走破性を高めるべく、トランスミッションのギア比が低い。このため、どうしてもエンジン回転数が高くなる。特に高速走行時は、エンジン音や駆動の音が気になるシーンも多くなる。また軽くて背も高いため、風の影響も受けやすい。高速道路でも、最高速度は、80km/h以上+α程度に留めておく方が、疲れない。

このため、エンジン音と高速走行時の安定性を重視するなら、シエラがおススメだ。ただシエラの方が、エンジンが大きいといえど、パワフルというほどの差ではない。また軽自動車らしい軽快な走り味は、ジムニーの方が、より楽しめる。660㏄エンジンといえどもターボなので、元気に良く走るのだ。

意外にも多い女性ファン  

このように本物志向が故、犠牲になる点もある。ただ基本的には運転がし易いクルマなので、不器用な部分が受け入れられれば、誰にとっても頼もしい相棒となってくれる。そのため、意外にも女性ファンも多い。不思議なのは、このクルマに乗っていると、このまま何処かへ旅に出たくなること。小さいながらも力強く走ってくれる姿が、ドライバーの冒険心を擽ってくれるのだろう。小さくとも行動範囲を広げてくれる、そんなクルマなのだ。

最後にジムニーの逸話をひとつ紹介したい。この小ささにも秘密がある。それは、ジムニーを愛用するプロたちの強い要望でもあるのだ。その一例が、欧州の林業従事者のケース。道なき道を進み、山の手入れを行う彼らは、移動中のトラブルは、最悪、生死に関わることもある。

そのため、確実に、帰宅できるクルマとして、ジムニーを相棒とする。過酷な環境下で、この小さく軽いボディが生む機動力は、絶対的な武器となるのだ。

もちろん、大きなクロカンなら、ほかにもある。ジムニーではなくてはならない人々が世界中に存在するのだ。今、世界のジムニーは、全て日本から出荷される。まさに世界に誇る“Made in Japan”。それがジムニーなのだ。


Yasuhiro Ohto
1980年埼玉県生まれ。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後、フリーランスになり、現在は自動車雑誌やウェブを中心に活動中。主な活動媒体に『ベストカーWEB』『webCG』『モーターファン.jp』『マイナビニュース』『日経スタイル』『GQ』など。歴代の愛車は、国産輸入車含め、全てMT車という大のMT好き。