宮川サトシ ジブリ童貞のジブリレビュー vol.15『ホーホケキョ となりの山田くん』

幼少期に兄から「ジブリを見るな」といわれた漫画家・宮川サトシは、40歳にしてなお、頑なにジブリ童貞を貫き通してきた。ジブリを見ていないというだけで会話についていくことができず、飲み会の席で笑い者にされることもしばしば。そんな漫画家にも娘が生まれ、「自分のような苦労をさせたくない」と心境の変化が……。ついにジブリ童貞を卒業することを決意した漫画家が、数々のジブリ作品を鑑賞後、その感想を漫画とエッセイで綴る。  


『ホーホケキョ となりの山田くん』レビュー

新宿駅の西口と東口を繋ぐ連絡通路、その壁に貼られている高畑勲展のポスターを見るたび、あぁ行かなきゃ行かなきゃと焦っています。本当にジブリが好きだったらもうとっくに行ってますよね……私のジブリ熱、高畑熱はファッションジブリやビジネスジブリの類いなんでしょうか……。

高畑勲展は10月までやってるそうなので、必ず行ってここで報告させていただこうと思います。

今月はそんな高畑監督の作品の中でも、これまでずっと避けてきた「ホーホケキョ となりの山田くん」でジブりました。

私ぐらいジブリ漬けの生活を送っていると、パッケージを見ただけでだいたいの面白ジブリ指数がわかります。これは本当…正直言いますが、全然観る気がおきませんでした……。タイトルの「ホーホケキョ」の部分に、なんとも言えない地雷感が漂ってると言いますか…レビュー描くのがめちゃくちゃ不安です。

これって「おじゃまんが山田くん THE MOVIE」ってこと?

これまでにもAmazonからのメールで何度かおススメされていて、その存在は知っていたのですが……どうも食指が伸びなかったんですね。なんでこんな全然ジブリっぽくないのを観なきゃいけないのか。

……っていうかこれ、昔やってたテレビアニメの「おじゃまんが山田くん」ですよね。私の中で「ツヨシしっかりしなさい」と同じ思い出の引き出しに入ってて、子供の頃に見るものなくて無理やり見てたアニメの印象しかないんですよね……。私はジブリが見たいのであって、「おじゃまんが山田くん THE MOVIE」が見たいわけじゃないのです。

でもそのジブリっぽくない「おじゃまんが山田くん」を、わざわざ映画化までして、あの高畑監督が何を伝えたかったのか……?

興味があるとすればその一点のみ、他は観たい要素ゼロ。

これが「ALWAYS 三丁目の夕日」の山崎貴監督が「FAMILY おじゃまんが山田くん」みたいなタイトルで映画化したものだったら、絶対観てないと思います。……いや、山崎監督がどうとかいうわけじゃなくて、ですよ。「寄生獣」は原作ファンの自分も納得の出来だったし。

テレビアニメの「おじゃまんが山田くん」で印象的に残っているのは、主題歌やCMに入る時のアイキャッチのゴキブリたちが歌う曲がやたら耳に残ることと、あと山田くんの近所に住んでる?このヤクルトスワローズの熱狂的なファンのおじさん。

ずっとフライパンを叩きながら神宮でもないのに奇声をあげてスワローズを応援してて…あ、これ、あんまり見ちゃダメなやつなんだろうな……と、子供心に軽い嫌悪感があったんですよ。

このスワローズおじさんのせいで、プロ野球を夢中で応援する大人を偏見の目で見る癖がついてしまいました。なんであんなにビッグマネー稼いでいる人(選手)に向かって「頑張れーっ」って応援できるんだろう? とか、知り合いでもないのに「清原」って呼び捨てするんだろう? とか、どんどんひねくれたことを思うようになり、関係ないのに、やくみつる先生の漫画とかも区別がつかなくなって、野球漫画自体も敬遠するようになってしまいました……(野球だけに)。

今書いてて気づいたんですが、それが私自身の性格が歪み始めたきっかけだったかもしれませんね……。そうか……あのスワローズおじさんのせいだったのか…。

念のため九字を切っておきました

そもそもこの「ホーホケキョ となりの山田くん」、一般に人気のある作品なのか気になって近所のGEOまでレンタル状況をチェックしに行ってきたんですが、置いてあったのはDVDとBlu-ray各一枚ずつのみ。まさかジブリ好きの間でもあんまりホケキョられてない? 大丈夫かな……ジブリファン全体の8割がホケキョってると想定してレビューを続けますね。

「おじゃまんが山田くん THE MOVIE」じゃなかった……

ラフ画で描かれた新聞の四コマ漫画的な短いお話が、ジブリの技術によってキレイに動いてる……という感じのアニメでした。日本のどこにでもいる家族の些細なやり取り、皮肉めいたほっこり系のショートショートが続くんですよ。ギャフン!ズコッ!みたいな昭和っぽいオチがあったり、これといったオチがなかったり、そういうのが淡々と続く感じ。

時々オチの後に松尾芭蕉とか種田山頭火の俳句が入るんですが、これは私に教養がないせいでいまいちピンと来ませんでしたが、なんというかサラリーマン川柳の延長線上にあるアニメなのかな? どうあれ、テンポも良くてとても観やすかったです。ショートショートだからトイレに行くために一時停止するタイミングも取りやすい。

その感じを伝えたくて、原作のいしいひさいち先生を意識した4コマ漫画を描いてみました。俳句もなるべく漫画の内容とリンクしてピンとくるものをチョイスしてみたのでどうぞ。

どうやらこれ「おじゃまんが山田くんTHE MOVIE」ではなく、「パラレルワールド山田くん」だったようです。狂ったスワローズファンのおじさんも一回も出てこなかったし。

ただ、このラフ画がキレイにスルスルと動くアニメの感じは、先に「かぐや姫の物語」で体験しておいてよかったかもしれませんね……。もしかしたらリアルタイムでいきなり映画館で観てたら、ちょっと損した気分になったかもしれません。なんだよ! ラフじゃん! 山田くんのお父さんが乗ってる自動車、牛乳プリンみたいじゃん!って。

(ラフ画を動かすことの方が実は技術的にお金がかかるんだよ!とかそういうのもあるっぽい気はしますが、あくまで素人目線の感想で……)

途中から「死の匂い」が漂い始める

全体のテンポの良さにも慣れてきて、このまま何事もなく終わるのかな〜これやっぱりわざわざ映画にする必要あるのかな〜一旦寝ようかな……なんて思っていると、山田くんの家族内とその周辺に"死の予感"のようなものが漂い始めるんですよ。やばい来た! 振り返ったら高畑監督が立ってた! みたいな興奮がやってきました。これこれ、これを待ってた。

哀愁と思っていたものが「死の匂い」だと気づいた時の怖さ。スワローズおじさんとはまた違った怖さです。

気の強いお婆ちゃんが朝ごはんをまだ食べてないと言い始めたり、家族からないがしろにされてるお父さん、もしかしてこの後あんまり良くない病気の告知されるんじゃないの? とか、中盤からエピソードとエピソードの間に別れの空気がムンムンと立ち込め始めるんですね。台所で突っ伏してるだけのお母さんも、居眠りしてるのか死んでるのかがわからなくなる。

近所でたむろしてる暴走族にヘルメットをかぶって注意しに行くお父さんのエピソードがあるんですが、その話だけいきなり劇画タッチになったりするし……それが「死の匂い」と合わさってなんか凄いもの見てるような気がしてきました。

サザエさんと比べて観てしまう

「死の匂いのあるなし」って、同じ家庭内ほっこりアニメの「サザエさん」と大きく違う部分だなと思いました。

サザエさんの登場人物って"永遠に生き続ける生命体"って感じがしませんか? 誰かが足の骨折って入院するシーンはあっても、お葬式のシーンを見た記憶がなくて。(実際にあったらごめんなさい……)

個人的にアニメのサザエさんもちょっと苦手なところがあって、それは日曜日が終わる物悲しさを帯びているせいだと長年思っていたのですが、この「死の匂い」が感じられないことが=キャラクターにさほど魅力を感じられない原因だったのかもしれません。

死の匂い、別れの予感がするというのは、生きてるってことですもんね。死ぬかもしれないってことは、人としての最大の「共感」なのかなと。

小さい子も見る国民的アニメなんだし、そんな死の匂いなんていらねーよって言われたらそれもわかるんですけどね……。

なんにしても、このほのぼのとした絵柄で死亡フラグが立ちっぱなしで展開していく構成って、ちょっと新しいような気がしてきました。

「ジブリだったらとなりの山田くんが一番好き」とでも言っておけば、「おっ、こいつ通(つう)だな……?」と、相手を唸らせられるような作品というか……いや、もはやアート作品なんですよね、これ。薄暗い個室のブースに16インチぐらいの小さいモニターを設置して「となりの山田くん」を流しっぱなしにしたら、どこかのお洒落な個展で流れてる映像っぽく見えるんじゃないのかな……。

結論:たぶんそう何度も観ない、でも死にたくなった時のためにとっておこうと思えた作品

やっぱりこれまでのジブリ作品と比べると、映画として、そのスケールの矮小さ、あとラフ画感(山田くんのお父さんが乗ってる自動車とか木綿豆腐みたいだし)を考えると、正直かなり割高には感じました。「もののけ姫」も「となりの山田くん」もamazonで同じ5,385円。

最後までこれと言ってキレのあるギャグがあるわけでもない。ないんだけど、宇宙から見たらチリみたいな普通の一家の日常を、そんなに面白いわけでもないのに、なんだか淡々と観続けてしまう。

あれですね、節分の豆に似てるかもしれません。なんとなく気がついたら小袋一袋食べちゃってるあの感じ。

脱力、テキトー、どうせ人はいつか死ぬ。劇中では死ぬとこまでは描かないけど、どんなほがらかな絵柄で描かれたキャラクターたちも、いつか必ず死ぬであろうことを、エピソードとエピソードの間に匂わせる後半。

そんなのを観てるうちに、自分が、普通の家庭の幸せ(隣人の幸せ)がずっと続いてくれることを願っていることに気づくんですよね。

もしかしたらこれが高畑監督の言いたかったことなのかも。

関係ないですけど、警官になった大学時代の友人から「わさびの匂いを嗅ぐと自殺する気が失せる」っていう裏ライフハック的な話を聞いたことがあって、それ聞いた時ちょっと御守りをもらった時のような、妙な安心を感じたことがあったんですね。

この「ホーホケキョ となりの山田くん」を見終わった後にもそれと同じような、少し力が抜けるような気分になれたので、人生がしんどくなった時のために、この映画は持っていようかなと思います。

vol.16に続く



ジブリレビュー vol.14『耳をすませば』

ジブリレビュー vol.13『崖の上のポニョ』

ジブリレビュー vol.1 『風の谷のナウシカ』




宮川サトシ
宮川サトシ
漫画家。エッセイ『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』『情熱大陸への執拗な情熱』『そのオムツ、俺が換えます』/原作『宇宙戦艦ティラミス』『僕‼︎男塾』など。現在、週刊新潮にて『俺は健康にふりまわされている』を連載中
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