嶋浩一郎、滝藤賢一が推す文学と映画 文学と映画に学ぶ 「男前」の美学

どんなに時代が変わっても、男にとって文学と映画は最高の人生の手本である。なぜなら、本や銀幕のなかで繰り広げられる物語には、いつの時代も最高に男前な男たちが躍動しているからだ。そんな物語に精通する選者が厳選した文学と映画には、人生の糧となる男前の美学を学ぶことができる。

<選者>
編集者・クリエイティブディレクター 嶋 浩一郎

いざという時は格好いい不器用な男

「今回の5冊は、すべて男前を感じさせる側面が異なる本を選んでみました。ですが、すべてのキャラクターに共通するのは、どこか不器用な面があること。人生はうまくいかないことが多々起きるものですが、それとどう折り合いをつけるかが大切。僕はそこに、男前さが出ると思うんです。

普段は不器用でダメな面もあるけど、いざという時は自分が好きなことや独創的なアイデア、斬新なクリエイティブを発揮して突破する。絶体絶命な時にこそ、人間の強さは出ますから。それと本を読んでいて僕が男前だなと感じるのは、一般的にはダメだけど、僕だけはあなたのいいところを分かってるよ、みたいに感じさせる、愛すべきキャラでもありますね」

(左上から順に)

『のぼうの城』
和田 竜 著/小学館

「不可能に立ち向かう物語に、男はロマンを感じます。この本もその文脈にありますが、主人公の殿様は不器用ながら人望だけはある男前。そんな男が2万人の軍勢相手にひょうひょうと持ちこたえるさまが痛快です」

『陽気なギャングが地球を回す』
伊坂幸太郎 著/祥伝社

「男が憧れる物語に"バディ(仲間・相棒)もの"がありますが、その現代版が本作。公務員や喫茶店主が銀行強盗をするんですが、みな私生活では問題を抱えている。でも、ちゃんとやり抜くところに痛快さを感じます」

『ティファニーで朝食を』
トルーマン・カポーティ 著、村上春樹 訳/新潮社

「同じアパートに住む自由気ままな女性に恋心を抱く、作家志望の若い男が男前です。女性には常にジェントリーに接するんですが、実はどこかやせ我慢している。そんな女性に対する接し方は素敵だと思います」

『博士の愛した数式』
小川洋子 著/新潮社

「ひとつのこと以外できないけど、それをやらせたらすごい男は魅力的です。本作の博士もそんな不器用でオタク的な求道者。愛する数学と阪神タイガースの話題だけで懸命に周囲とつながろうとする姿が、愛らしくて男前」

『私は英国王に給仕した』
ボフミル・フラバル 著、阿部賢一 訳/河出書房新社

「この本はいわゆる"成長物語"で、プラハのホテル内のレストランで10代から働く少年が主人公。ひたむきに給仕長を目指しながら、悪いことを覚えたり、時には要領よく問題を乗り越えていく逞しい姿が男前です」

しまこういちろう                         1968年東京都生まれ。93年博報堂に入社。2006年にクリエイティヴエージェンシー「博報堂ケトル」を設立。雑誌やニュースサイトの編集長を務めつつ、本屋大賞の創設や下北沢に「本屋 B&B」を開店させるなど本の未来を見据えた活動も多数。

<選者>
俳優 滝藤賢一

男前とは、色気と責任、そして、ギャップ

「"俳優は遊ばないと色気が出ない"。昔から言われる粋なフレーズですが、僕は仕事が終わると一直線に家へ帰ります。40歳、4人の子を持つ親としては、"愛する家族を守る男"に憧れるし、美学を感じるからです。

トニー・スコット監督は、そんな男が惚れる男前を描く達人です。彼の作品の男たちは、自分のやるべきことに迷いがない。例えば『ラスト・ボーイスカウト』のブルース・ウィリスは身なりも汚く、ひねくれていて暴力的。冴えないオヤジですが、無骨な感じが堪らなくセクシーで男前! またチャウ・シンチー監督作品の男たちは、ふざけまくっているのにやる時はきっちりとやる。そのギャップにも男前を感じるし、そんな男を目指したいですね」

(左上から順に)
『マイ・ボディガード』
トニー・スコット 監督/松竹

「こちらもトニー・スコット監督作。デンゼル・ワシントン演じる米軍対テロ部隊出身の元軍人が、メキシコで少女のボディガードとなります。少女を守り抜くワシントンの、執拗に追い詰めていくさまが凄まじい」

『ラスト・ボーイスカウト』
トニー・スコット 監督/ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

「シークレットサービスから転落し、しがない私立探偵となった男の再生劇。ブルース・ウィリスの『ダイ・ハード』シリーズはすべて好きですが、本作も僕のベスト3に入る作品。最後のジグを踊るウィリスに痺れます!」

『トゥルー・ロマンス』
トニー・スコット 監督/ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

「今回は無差別に選んだつもりが、気づくとトニー・スコット監督作ばかり。本作はQ.タランティーノ脚本の映画化であり、デニス・ホッパーとクリストファー・ウォーケンの名シーンは、滝藤映画史に刻まれています」

『切腹』
小林正樹 監督/松竹

「小林正樹監督の代表作。妻子を守るための狂言で命を失った婿のため、井伊家にひとりの男が乗りこんでくる。そんな主人公役の仲代達矢さんは当時29歳でしたが、50歳くらいの浪人を演じ、壮絶な立ち回りを見せます」

『カンフーハッスル』
チャウ・シンチー 監督/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

「香港を代表する喜劇俳優、監督のチャウ・シンチーの出世作。彼が演じる主人公は貧しさから、冷酷非道の黒社会に憧れます。何でもないただのスケベな宿屋の親父が、実は太極拳の達人。このギャップにやられました」


たきとうけんいち
1976年愛知県生まれ。ドラマ『大貧乏』(フジテレビ系)に出演中。公開待機作映画は『関ヶ原』『榎田貿易堂』など。