エキスパートの愛車物語① 自動車ライター·サトータケシがシトロエン「C6」を愛する理由

「数ある工業製品の中で"愛"がつくのはクルマだけ」。トヨタ自動車の豊田章男社長が事あるごとにそう言うように、クルマとは人類に特別な力を与える大発明品なのかもしれない。1台の愛車にひとつの物語あり。ここに示すのは、各業界のエキスパートたちによる愛車物語。


ほかのクルマと乗っている感覚が違う

「C6」との出会いは実に14年前。

僕がシトロエン「C6」に初めて乗ったのは、自動車雑誌の編集部にいた2005年でした。ニューモデル試乗会に行き、乗り心地とデザインに惚れてしまったんです。でも、当時は価格が725万円で「無理だな」と……。まさに、夢のクルマでしたね。しかも、'12年に生産も終わってしまい、結局、新車では買うことができなかった。

その後も、あの感覚がやっぱり忘れられなくて、中古サイトでずっと検索し続けていました。すると、値段がだんだん下がっていって、今から4年前の'15年に、整備まで込々で約300万円という2010年型が見つかったんです。しかも、いろいろと履歴を調べてみると、持ち主はワンオーナーで、その方はディーラーで完全に整備をしていて、「これは掘り出し物だな」ということで、決断しました。

本当は、シャンパンゴールドがベストだったんですけど、日本に入ってきている台数も少ないので色は選べなかった。内装の明るい感じが自分の好みに合っていたので「良し」としようと。

内装のコンセプトは「テクノ禅」。日本の茶室からインスピレーションを得ている。

このクルマの何がいいかと言うと、「ハイドロニューマチック・サスペンション」というシトロエン独自のサスペンションが装備されていることです。車高の上がり下がりに特徴があり、とても乗り心地がいい。エアサスともちょっと違う、独特の浮遊感覚がある。高速道路とかでは特に感じることができます。僕の母親ですら「ほかのクルマと乗っている感覚が違う」と言ったぐらいですから、このクルマは本当に乗り心地がいいんだと思います(笑)

あとは、形が気に入りました。僕の場合、高級である必要はなくて、仕組みとか形とかが面白いクルマが欲しい。このクルマって、メーターなどのインパネ含めて内装のコンセプトが「テクノ禅」っていうらしいんです。茶室にインスパイアされていて、わびさびにハイテクを組み合わせたというか。あるいは、ハイテクによってシンプルにわびさびの世界を演出できているということなのかもしれません。湾曲しているリアの部分も、お気に入りポイントのひとつです。

内側に湾曲しているリアの眺めもお気に入りのひとつ。

クルマの未来を考えると、自動運転への流れは止まらないのは明確ですし、将来、運転そのものが今の乗馬みたいに趣味の世界になると思うんです。今でも、クルマ業界はコモディティ化が進んで、安いクルマがみんな同じ仕組みになってしまっている。「ハイドロニューマチック・サスペンション」もコストの問題などで生産が終わりましたし、「C6」みたい個性は、もうあまり見かけなくなった。だから、朽ち果てるまでこのクルマには乗りたいですね。


【サトー・タケシの愛車遍歴】

①トヨタ「カローラ・レビン」(20歳~23歳)
『頭文字D』という漫画で、スプリンタートレノというクルマが出てきましたが、その兄弟車。初めてアルバイトして買ったクルマですね。

②マツダ「ユーノス・ロードスター」(23歳~34歳)
就職してからすぐに買いましたね。乗り心地がよくて、12年ぐらいずっと乗っていました。今のクルマが朽ち果てたら、もう子供も大きくなっているので次は原点に戻って、ロードスターに乗るのかもしれません。

③ルノー「サンク」(28歳~32歳)
僕が初めて買ったフランス車。ロードスターと並行して乗っていましたね。僕がフランス車のことを好きになったのはここが原点ですね。

④ルノー「カングー」(34歳~37歳)
値段も適当で、乗り心地がいいし、中も広くて、言うことなしのクルマです。次に開発されるカングーは、日産の「NV200」というクルマと同じ形になってしまうという噂もある。日本のミニバンみたいになってしまうかもしれないので、狙っている人は今のうちに買っておいた方がいいかもしれません。

⑤ルノー「メガーヌ」(37歳~48歳)
メガーヌには、2ℓと1.6ℓの2台に10年以上乗りました。フランス車は、特に速いというわけではないのですが、本当にとにかく乗り心地がいい。

⑥シトロエン「C6」(48歳〜)
28歳でサンクを買って以来、気がつけばずっとフランス車に乗っていますね。

Takeshi Sato
幼少期からクルマ好きで、自動車文化誌『NAVI』編集部に就職。副編集長を務めた後に独立した。現在はフリーランスのライターとして男性一般誌、ビジネス誌、ファッション誌、web媒体にクルマの記事を中心に寄稿する。本誌『GOETHE』のクルマ連載ページ「NAVIGOETHE」で毎号執筆を担当。


Composition=鈴木 悟(ゲーテWEB編集部)   Photograph=吉田タカユキ