全世界で巻き起こるサウナブームの今 ~ととのえ親方のサウナ道⑥<タナカカツキ対談#2>

札幌を訪れる経営者や著名人をサウナに案内し、"ととのう"状態に導いてきたことから"ととのえ親方"と呼ばれるようになった松尾大。プロサウナー・ととのえ親方の連載は、今回からサウナブームの生みの親・タナカカツキ氏との特別対談を掲載。その第2回は、日本だけではなく世界で巻き起こっているサウナブームについて話し合う。

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2011年の『サ道』発売時から「サウナブーム」と言われてていた

――カツキさんの『サ道』がドラマ化され、女性マンガ家がサウナを描く作品も複数発表されるなど、今はまさにサウナブームと言える状況ですよね。

タナカ 僕がウェブで『サ道』の連載を書きはじめたのが2009年で、'11年に単行本が出たんですけど、その頃には「サウナブーム」と言われていたんですよ。「なんかサウナ好きな人増えたよね」って。ただ、そのときは「サウナってタイトルに入れたら売れないだろう」と思ったので、ちょっと濁して『サ道』にして。「これ何だろう?」と手にとってもらう作戦でした。

――実際のところ利用者は増えているんでしょうか。

タナカ サウナ施設には潰れているところもあったりしますけど、良い施設は増えてきていますし、利用者も増えている感覚がありますね。ただ、"大ブーム"という感覚はない。'10年頃にSNSでサウナを好きな人同士がつながって、そこから話題が拡散するようになったと思います。

親方 Twitterが中心の文化ですよね。濡れ頭巾ちゃん(「ととのう」という言葉を使い始めたサウナ愛好家)とカツキさんがつながったりして。サウナ界で「紀元前・紀元後」みたいに言われている時期です。

タナカ 僕も日本サウナ・スパ協会のサウナ大使に任命されて、サウナがすごい盛り上がった時期なんですよ。

親方 そのあとで日本初のサウナ専門誌『Saunner』が出たり(2014年)、『サウナの教科書』(2015年)みたいな本も出るようになりましたよね。僕はまだカツキさんと知り合いになってないですけど、札幌でサウナに入っていて、周囲から「プロサウナー」みたいに言われはじめた時期でした。

「ととのう」「温度の羽衣」などの概念が日本のサウナと水風呂の歴史を変えた

――それだけサウナが盛り上がると、カツキさんのサウナ関連の仕事も状況が変わったんじゃないでしょうか。

タナカ 話の通りが良くなりましたね。昔はサウナの企画って、雑誌とかのメディアではぜんぜん通らなかったんですけど、今は女性誌も向こうから提案をしてくれる。サウナがヨガみたいな存在になりつつあるというか。

親方 カツキさんが広めた「ととのう」や、水風呂に入ったときの「温度の羽衣」という概念は、サウナの歴史も変えたし、水風呂の歴史も変えたと思うんですよ。特に僕は「温度の羽衣」のシーンが『サ道』の中でいちばん大好きで、「あのシーンが水風呂に入れなかった人達をどれだけ変えたか!」と感じています。それまで「オレは水風呂に入ったら心臓止まって死ぬ」みたいな人が多かったんですけど、「いや、羽衣ってものがあってな」と説得できるようになったんです。温度の羽衣によって"水風呂の向こう側"が見えたんですよね。

タナカ でも温度の羽衣の説明をして、「じゃあ試してみる」と入ろうとすると、施設によっては水風呂にバイブラ(浴槽の底からポコポコと泡の出る装置)があって羽衣ができなかったりするんですよね。

親方 ずっと冷たいままっていう(笑)。

――4月にもカツキさんと親方はフィンランドのサウナツアーに行ってきたそうですが、やはり本場のフィンランドから学ぶことは多いですか。

タナカ そうですね。日本のサウナを客観的に見れるようになるのも面白いです。

親方 日本のサウナにも良いところ・悪いところがありますからね。いいところから言うと、日本は水風呂の文化がすごく発達しています。海外には日本のような水風呂が少ないんですよ。

タナカ 代わりにプールですよね。あとぬるいシャワー(笑)。水を冷やすのってすごい電力が必要だし、時間もかかるし大変なんですよ。温泉施設でも一番お金がかかるのは水風呂だったりしますから。だから、入らないのはもったいない!

親方 水風呂はどんな小規模のものでも作るのに1000万円程度はかかると言われていますからね。冷却器で400万円、循環・ろ過の機械で400万円で、あと浴槽が200万円くらい。それに温度を低くしようとすると、1度下げるごとに100万円ほど金額が上がっていく。

タナカ より冷やすには機械も大型のものにしなきゃいけないんですよね。しかも、それだけ高いのに壊れる(笑)。まだ機械の歴史も浅くて洗練されていないし、メンテナンス費用も高いんです。

サウナ歴の長い人は北に多い。そのワケは水温の冷たさ?

――親方は今年の1~3月に下北沢の高架下で開催されたサウナイベント「CORONA WINTER SAUNA SHIMOKITAZAWA」にも関わられていましたが、水風呂はどうしていたんですか?

タナカ 冬だから水温は大丈夫だったんじゃない?

親方 水道水がそのままで8度だったんですよ。

タナカ いいですねぇ。話が早いです(笑)。

親方 だから、寒い場所のサウナは水風呂を作るうえで有利なんですよ。僕がプロデュースした洞爺湖万世閣(北海道洞爺湖町)のサウナは、湖の沖合400mの深いところから水を引っ張っているので、年間の平均水温はチラー(冷却装置)なしで10℃くらい。寒い時期は当然シングル(一桁)になります。

タナカ いいですねえ。サウナ歴が長い人は北に多いですよね。特に北海道なんかは水も空気もキレイでととのいやすいですか

親方 ですよね。濡れ頭巾ちゃんとかも旭川出身ですし。

――フィンランドがサウナの本場というのも、それも関係したりするんですかね。

タナカ 北海道と気候も似ていますからね。

親方 ヴィヒタの材料になる白樺のある地域ですし。関係あるかもしれないなぁ。

中国、ロンドンやNYでもサウナブームが同時発生中

タナカ あと先日にフィンランドに行ったときは、海外も日本と同じくサウナブームなんだなと気づきましたね。ロンドンやニューヨークの都市系のサウナも盛り上がっているし、中国もスーパー銭湯がブーム。世界的にサウナが盛り上がっている時期なんです。世界的にデスクワークの人が増えて、都市で生活する人のライフスタイルが変わったことで、サウナが新しい形で活用されるようになったんだと思います。

――海外にも「ととのう」という概念はあるんでしょうか?

タナカ それは行くたびに聞いています。「日本ではこういう状態を“ととのう”って言っていて、快感物質が脳から出るようなトランスするような感じで~」と説明するんですけど、アメリカ人はすぐピンとくるんですよね。「オッケーオッケー。脳がパッキーンとなるあの感覚のことか。心がメチャクチャ広がって、みんなのことを好きになるよな!」みたいに。日本の「ととのう」にあたる言葉もあって、「サウナマジック」と呼ばれています。フィンランドにも同じような言葉はあるんですけど、それは全然一般化していなくて、使っているのは本当にサウナ好きの一部。「フィンランドでととのっているヤツは10人に1人もいないよ」とも聞きました。

――その違いは何なんでしょうか。サウナの違いなのか、入り方の違いなのか、もしくはドラッグ・カルチャー(?)の浸透具合の話なんでしょうか。

タナカ ニューヨークとかの高級なサウナに集まっている人達は、街で遊んでいる30代や40代が多いので、快楽を追求する過程でそういうカルチャーを通ってきたのかもしれませんね。一方でフィンランドのサウナは、日本のお風呂みたいな感覚でみんなが入るもの。その中で、ととのうまで持っていけている人は一部で。それは日本の状況とそっくりです。

――日本でも「ととのっている人」は10人に1人くらいですか。

タナカ もっと少ないでしょうね。日本でも高齢者の方の大半は『サ道』のこととかは知らないでしょうし、サウナではまだそういう人が多数派で。サウナーたちが盛り上がっているのは首都圏が中心なんですよね。

#3に続く

©「サ道」製作委員会
ドラマ25「サ道」
放送日:毎週金曜深夜0時52分~1時23分
放送局:テレビ東京、テレビ大阪、テレビ北海道、TVQ九州放送ほか
原作:タナカカツキ『マンガ サ道~マンガで読むサウナ道~』(講談社モーニングKC刊)
出演:原田泰造、三宅弘城、磯村勇斗、荒井敦史、小宮有紗、山下真司、荒川良々 / 宅麻伸
監督:長島翔
主題歌:Cornelius 「サウナ好きすぎ」(ワーナーミュージック・ジャパン)
エンディングテーマ:Tempalay「そなちね」(SPACE SHOWER MUSIC)


タナカ カツキ
由緒正しき「日本サウナ・スパ協会」が公式に任命する日本でただ一人の「サウナ大使」というステキな肩書きを持つマンガ家。元々はサウナが苦手だったが、ある日、思いきって入ってみた水風呂でととのってしまい、その日を境にサウナにどハマり。コップのフチ子の生みの親でもあり、それら仕事のアイデアは、ほぼサウナ内で思いついている。『マンガ サ道~マンガで読むサウナ道~』(講談社モーニングKC刊)2巻が現在発売したばかり。水草水槽の世界ランカーでもある。
https://www.kaerucafe.com/


Text=古澤誠一郎



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ととのえ親方
ととのえ親方
札幌在住。福祉施設やフィットネスクラブを経営する実業家にしてプロサウナー。サウナにハマったのは20代半ばの頃で、その後は世界各地のサウナも訪問。札幌を訪れる経営者や著名人をサウナに案内し、“ととのう”状態に導いてきたことから“ととのえ親方”と呼ばれるように。2017年にはプロサウナーの専門ブランド「TTNE PRO SAUNNER」を立ち上げ、'19年2月には友人の医師らとサウナの最適な入り方を提唱する「日本サウナ学会」も設立した。
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