廃れた農地をブドウ畑に! 無謀といわれた男が造った 美術館のような夢のワイナリー

「ここから見る眺めが大好きなんです。ワイナリーを訪れてくれた人は皆さん、この空気感に惚れ込んでくれますね」 インテリアデザイナー、片山正通氏が手がけた開放感溢れる建物の屋上テラスから、開けた土地を望むのは高橋竜太氏。岡山県新見市の深い山間にあるワイナリー「domaine tetta(ドメーヌ テッタ)」を、イチから築き上げた。

「岡山をワインの名産地に。ここがその拠点になればいい」

【ワイナリーオーナー】
domaine tetta 高橋竜太氏

荒れ果てた土地をイチから蘇らせる

はるか彼方の山の麓まで、延々とブドウ畑が続く。

テラスから見えるのは彼方まで続くブドウ畑。10ヘクタールの敷地に約1万本のブドウの樹が整然と植わっている。一帯はもともと、生食用ブドウの畑だった。前所有者が廃業し、いったんは荒れ果てた土地を地元で建設業を営んでいた高橋氏が買い取り、現在の眺望へと作り変えた。

「ベンチャーを立ち上げたいと模索していた時期に、この土地が放り出されていることを知りました。すぐに、ぜひ自分が責任を持って引き受けようと決意しました。地域に根ざして事業を起こせるのなら、地元への貢献にもなるし、事業の強みにもつながりますからね」 

そこで、開墾をし直して、もう一度ブドウ栽培を始めた。ただし今度は生食用ではなく、ワイン用のブドウを作ることに。岡山でワイナリーを立ち上げる、それを目標に定めたのだ。

山梨を筆頭に中部・北陸地方でワイン造りが行われているのは知られるところだが、中国地方でというのはあまり聞かない。

「たしかにそうなんですが、考えてみれば岡山は、古くからブドウをはじめ果物の名産地。土地のポテンシャルがあることはいわば証明済みです。それにこのあたりはワイン用ブドウに適した石灰質の土壌なので、これを活かさない手はありません」

一帯は石灰石の採れる土壌。ワイン栽培に向く。

ワインの本場・フランスは国土の半分以上が石灰質といわれるように、ミネラルがたっぷり溶け込む土壌は、ワイン用ブドウ栽培にはうってつけなのだ。

「実はいいワインができる条件は整っているんですよ。これまで瀬戸内から中国地方でワインを造る発想がなかったのは、雨が多くてワイン用ブドウがあまり育たないと思われていたから。そこは工夫すればカバーできます。畑全体にビニールの屋根を設けて、樹木に当たる雨の量をコントロールしたり、どんな季節にも下草を取り除く手間を惜しまなければいい」

土地の人々と協働しながら、人一倍の手間をかけ、悪戦苦闘すること数年間。ようやく今年、栽培から醸造、瓶詰まで手がけた2016年ビンテージのワインを完成させることができた。

「軽やかだが、味わい深く優しいワインに仕上がりました。スタッフやここまで支えてくれたサポーターの想いも詰まった+αのエッセンスを感じるワインです。鮨など和食全般にも合わせやすい、と思います」

日本中から人が集うワイナリーを目指す

ワイナリーの建築デザインは、片山正通氏によるもの。大きく取られた開口部を開け放つと、室内が周囲の自然と一体化。日差しや風、木々の香りが流れ込んでくる。

自家醸造のワインを出荷するだけではない。高橋さんはワイナリーに直接、人を呼び込むことも目論んでいる。地元の人間のみならず、観光でここまで足を延ばしてもらえたらと考えているのだ。

ブドウ畑が一望できる丘に位置するワイナリーは、地下に醸造所と貯蔵庫があり、1階はワインの販売所として機能している。ゆくゆくはここでレストランやカフェの営業を計画する。

醸造所の壁で光を放つのは同郷の石川康晴氏(ストライプ・インターナショナルCEO)が理事長を務める石川文化振興財団から寄託された現代アート作品。

開口部を大きく取り、ガラスを多用した明るい建物では、ワイン販売スペースから醸造作業場を眺めることができる。作業場の壁面には、何やらカラフルなネオンが輝いて見える。これはダグラス・ゴードンとジョナサン・モンクの現代アート作品。ワイナリーの一部とは思えない、美術館のような建物だ。

「栽培から醸造、瓶詰まですべてを手がけた初めてのワインが出荷」

「ようやく自分たちで醸造したワインを出荷できる体制が整いました。これからは『ワインを媒介にして人が集い発信できる場』になるよう注力していかないと。地元の人間が動いてこそ、岡山をもっと元気にできるはず」

事業であるとはいえ、ワイナリーを持つという夢を現実のものにした。もちろん道のりは平坦ではなく、周囲からも「本当にものになるかどうか......」という目を向けられていたが、ここまで漕ぎ着けられたのはひとえに本人の熱量のゆえである。

「この土地を蘇らせたいと心から思い、土を起こしたからには責任があります。いったん木を植えて畑に命を吹き込んだら、もう逃げるわけにはいかないんですよ。この土地と一緒に暮らしていく決意は、ちゃんとあるつもりです」

ワインボトルのエチケットはグラフィックデザイナー平林奈緒美氏が手がける。


Ryuta Takahashi
1976年岡山県生まれ。2009年、耕作放棄地の再生を目指してtettaを設立。翌年から事業を開始、ワイナリーとして再生させることに成功。tetta代表の立場でプロモーション活動、経営管理業務を担っている。http://tetta.jp/


Text=山内宏泰 Photograph=東谷幸一

*本記事の内容は17年5月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)