[ALEXANDROS]川上洋平の映画愛 ~野村雅夫のラジオな日々 vol.20

現在、大阪のFM802を中心に、ラジオDJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回は、ミュージシャンのなかできっての映画通[ALEXANDROS]川上洋平だ。


新作はブルックリンで半年かけて制作

あけましておめでとうございます。2019年のお正月を、いかがお過ごしでしょうか。僕はといえば、この三ヵ日も欠かさずFM802の生放送。ラジオを聴いていただきたいのと同時に、今年もこの連載を、どうぞよろしくお願いします。

今年最初にお届けするのは、昨年末に放送した、[ALEXANDROS]川上洋平くんとの対話。彼はミュージシャンきっての映画通ということで、ニューアルバム『Sleepless in Brooklyn』の話に進む前に、毎度恒例となっている「最近だとどの映画がよかった話」から始めることになった。

お久しぶりです。[ALEXANDROS]のボーカル・ギター、川上洋平です。

ーーどうも、久しぶりです。よろしくお願いします。ブログ等で、洋平くんが相変わらずしっかり映画を観ているぞってことは把握してるんですけど、さすがにアルバム作りなんかしてると忙しくて本数は減ったんじゃないですか?

そう。だから、今年はね、そんなに観てなくて。100本行ってないかな。92、3本。

ーーそれでも、100本あたりまではもってくるのが素晴らしい。

150本は観ておきたいんですけどね。

ーー映画館での鑑賞の方が、数としては多い?

そうですね。映画館の方がいいです。ポップコーンを食べに行っているようなもので。

ーーハハハ! 僕はFM802で毎年度末にマサデミー賞なるものをやってるんですよ。で、洋平くんは洋平くんで、世界一小さな映画祭……

カワカミー賞のことですね。

ーーカワカミー賞を開催してるじゃないですか。いずれも、開催者の独断で決めていくスタイルだよね。

ですね。誰の意見も受け付けない。

ーー勝手に決めるからね。マサデミー賞は3月末。選考を始める時に、いつも気になって洋平くんのも覗いちゃうのよ。時期は違って……カワカミー賞はいつだっけ?

僕は1月です。

ーーだから、本家のアカデミー賞とカワカミー賞はちゃんとチェックして、マサデミー賞を発表する放送に臨むわけだけど、そこで僕は毎年のようにこう言ってます。「野村雅夫は今年度◯◯本観ました。そして、[ALEXANDROS]川上洋平は忙しいにも関わらず、僕よりも多く映画を観ている。また負けた」ってね。

だから、暇なんじゃねえかって言われてますよ、フフ。

ーーさっき打合せ中に少し話したら、我々ふたりが共通して最近面白かったと感じているものに、『クワイエット・プレイス』が挙がりましたね。

そう! これはほんと好きでした。

ーーこれって、向こうで観たの?

はい、ニューヨークで観ました。

ーー僕はアメリカで映画館に行ったことがないんですよ。ほら、日本って、マナーにかなり敏感で、映画館はとても静かじゃないですか。今は応援上映ってスタイルも出てきたけど、あれはマナーがしっかりしていることの裏返しでもあるわけで。日本は世界でもわりと特殊な上映環境だと思うわけ。ニューヨークはどうなんですか?

いやぁ、もう、ほんとディズニーランドみたいですよ。

ーーハハハ!

みんなもう、応援というか、笑うし、いちいちセリフに対して突っこむし。なのに、エンドロール始まったら、みんなもう席を立ちますね。エンディングでもし自分の曲が使われてたらって考えると……

ーー辛いとこあるよね。そんな中、『クワイエット・プレイス』はいつもと雰囲気が違いましたか?

「音を立てたら殺される」って設定だったから、みんな静かに観ていて。「ニューヨークなのに、みんな静かにしてるよ!」って僕は思ってましたね。そしたら、小さ〜な声で「オーマイガー」とか聞こえたりするんですよ。怖い映画だしね。あの作品ばかりは、みんなひそひそ話でしたね。

ーー『クワイエット・プレイス』は、監督がジョン・クラシンスキーという人で、自分が一家の父親役で主演もしていたんだけど、ホラーなんて撮ったことないから、何本か観て研究したっていうんだけど、そのわりには出来すぎですよ。

監督は、妻役で共演しているエミリー・ブラントの実の夫なんですよね。いい映画だったと思いますよ。家族向けでもあるし、ホラーだけど、すんなり観られて……なんか星新一のショートショートを観ているような気分にもなりましたね。

ーーいわゆるツッコミどころ、設定のあらってのはあるんだけど……

そうそう、でも、そこじゃないんですよね。

ーーあ、よかった。僕はラジオで力説してたんだけどさ。こうやって共感してくれると……

そうなんですね。嬉しいな。僕もどうもあまり賛同を得られてないみたいで。

ーーそう、ダメな人は全然ダメだからさ。

ーーニューヨークの話も出ましたが、[ALEXANDROS]は『Sleepless in Brooklyn』というアルバムを出しました。こちらはブルックリンという地名が入っている通り、向こうでレコーディングをしていたってことでいいんですよね? どれくらい滞在していたんですか?

合計で約半年間いて……

ーーなが!!

そうなんですよ。レコーディングというよりは、曲の制作で向こうにいた感じですね。

ーーははぁ。ネタを仕込んでから向こうに行くんじゃなくて、向こうに行ってから始めたんだ。

そうそう。レコーディングは、別に日本でも僕はよくて、あまりこだわりはなかったんですけど。

ーーなんで、そういう風にしたの?

もう7年8年とずっと日本でやってたんで、ちょっと飽きてきたんですよね(笑)

ーー環境を変えようってことか。何か得るものはありました?

ライブを毎晩のように観に行ったし、スタジオでも毎日のようにみんなで曲作りしていると、隣の部屋から音が漏れてきたんですけど、向こうはアマチュアも含めて、ミュージシャンの演奏がとにかく上手いんですよ。普通に道を歩いたり地下鉄に乗ったりしていて見かけるストリート・ミュージシャンも、上手いしかっこいい。まず、そこでへこみました。俺たちこれまで何やってたんだろうなって。何者でもないし、何も作れてないなって。気づきました。

ーーバンドにもいろんなケースがあると思うけど、最初ってビジネスのことも一切考えないだろうし、単純に楽しいからとか、何かを生み出したいからやるんだって人たちが多いと思うんですよ。[ALEXANDROS]だって、みんなで一緒に住んでたわけじゃない? そういう意味で、ある種の原点回帰に近い環境に、強引にでも一度戻してみるっていう試みだったのかしら?

リセットされた感じはあるし、丸裸になったような気分もあって、心地よかったです。でも、その分、自分たちがこんなにダメだったんだなっていうところもあらわになったんですよ。それは4人だけで行ったからこそ、気づいたことでもあると思います。ここは本当に名刺代わりの1曲を作んなきゃ、とか、他のメンバーだったら演奏上手くなんなきゃな、とか、そう実感することになったんじゃないですかね。

ーーそうやって、アルバム全13曲の多くを向こうで収録したわけです。クレジットを見ていると、アレンジには外国人の名前もあります。

今回はアレックス・アルディという人がメインのプロデューサーで一緒に作業してくれたんですけど、彼はPassion Pitというエレクトロ・ポップなバンドのプロデュースをしていた人です。僕はすごく好きだったので、今回お願いしました。

ーー今僕は1曲目の『LAST MINUTE』という曲のところを見てるんだけど、[ALEXANDROS]とアレックス・アルディさんも含めて4つの名前がクレジットされていて、結構多いじゃない。現場はどんな感じだったんだろうと思って。

曲は全部自分たちで作って、だいたい方向性も決めてました。で、あともうちょっとキラッとさせたいなとか、もうちょっとグルーヴを変えたいなとか、最後のフレーバー付けみたいなところをお願いしたってことです。プロデューサーっていっても、最後の最後だけ手を加えてもらった感じです。それだけでも、僕らはその結果に満足していますね。あと、佐瀬貴志くんに関しては、エレクトロな音作りを一緒にやってくれました。

ーーブルックリンに場所を移して、原点回帰的に4人で互いに向き合いながら暮らし、向こうの音楽カルチャーからおおいに刺激を受けて作ったアルバムなわけですが、僕が今回思ったのはね、日本語がより研ぎ澄まされているなってこと。最果タヒさんが歌詞を書いたコラボ曲『ハナウタ』ってのもあるわけだけど、戸田よぺ子さんの訳詞も含め([ALEXANDROS]には英語詞も多いが、ほとんどの場合、この字幕翻訳家の戸田奈津子をもじったペンネームで、ブックレットには川上洋平が日本語に訳したテキストが掲載されている)、僕は洋平くんの言葉が耳に残りました。これはなぜなんだろう?

向こうでアメリカの音楽も聴きまくっている中、ふとしたタイミングで『LAST MINUTE』という曲ができたんですけど、実はこれ、仮歌の段階ではヒップホップっぽい雰囲気で歌もラップ調だったんです。歌詞も英語でした。ところが、レコーディング・スタジオのボーカル・ブースに立った瞬間に、なぜだかわからないけど、日本語が出てきたんです。しかも、わりと淡々としたフォークっぽい感じの言葉が。それを試しに歌ってみたら、めちゃくちゃハマったんですよ。「あれ……」ってなりましたね。だって、ニューヨークに来たし、ここは英語で歌おうって思っていたのに……

ーーそうだよね。企画とすれば、海外で曲作りをして、そのままレコーディングもしてってなれば、全編英語でドーンみたいなのって、ありそうだもの。

いよいよボーカル録りって段階で「違うな」って思ったあの違和感は、逆に日本のバンドがアメリカに来たからこそ感じるものなのかなと思って、そこは大事にしました。

ーー面白い。きっと意図してなかったことだと思うんですよ。

そう。まったく意図してない。

ーー僕がこうやって大阪で働いてるのに、今も京都に住み続けているのは、その前に2年間イタリア・ローマに住んだからだからね。ハハハ!

ハハハ! そうだったんだ。なるほど。

ーー自分ではそんなこと思ってもいなかったのに、自分のベースとしている文化圏、僕らの場合は日本から離れた時にふっと気づくことってあるんだよね。アルバムに話を戻せば、これは日本語や英語に限らずですけど、言葉の配置にこだわったブックレットが非常にかっこいいです。サブスクリプションや配信では味わえない部分ですよね、これは。

嬉しいですよ、そこに触れてもらえるのは。

ーー洋平くんたちの場合には、戸田よぺ子さんもいるので、必ず日本語も付くわけだけど、改めて、英語も日本語も、言葉の味わいってのがもう一段上のステージに躍り出たと思っています。こんな言い方は偉そうだけど。

いえいえ。ありがとうございます。

ーー最後に触れたいのは『Your Song』なんです。アンコール・トラックとして『SNOW SOUND』と『明日、また』が入ってはいるものの、それはあくまでアンコールだから、この『Your Song』が実質的なアルバムの最後なのかなと思います。その意味で、大事な曲ですよ。音楽は自分たちの想いから作られるものなんだけど、このアルバムができあがった今となっては、聴いているリスナー、つまり「あなたの歌」なんだって感じたの。

そうです。まさにそう。

ーー歌詞には「だから歌ってよ イヤホンを外してよ」って出てくるじゃない。「イヤホンを外せ」とはなかなか人は歌わないぜ。そこまで言うかって(笑)

そうですね(笑)確かに。聴かなくていいってことですもんね。

ーーそれぐらい染み込んじゃうと、歌はもう聴く人のものになるもの。映画だって、好きなものはいつだって脳内再生できるでしょ?

それです! だから、好きな映画って、意外と何回も観なくてもよかったりする気がしますもんね。

ーーそれが音楽でもあるんだってことを、最後にパーンと言われた気がしてます。すごくいいなと思いました。潔いっていうか。しかし、なぜ『Sleepless in Brooklyn』なんですか?

なんとなく、ブルックリンはどこかに入れたいなと思いつつ、時差ボケもあったし、寝ないで夢中で作ってたこともあるしってことで、あの某映画のタイトルが浮かんで、こう落ち着きました。

ーー僕は今日話すまで、そこまでどっぷり半年もブルックリンにいたなんてことは知らなかったので、今想像するのは、メンバーみんなが、きっと体温にたとえると常に微熱みたいな精神状態にあったのかなって。

そうそう。なんか浮遊感があるというか。

ーー大興奮じゃないんだけど、常にちょびっと浮足立ってる状態?

そうなんですよ。

ーー眠れない時ってそうですよね。その感覚が、証としてこのアルバムには入っているのかな。

ありますね。ディレイ感というか。

ーー僕ら聴いてる方も、そのフィーリングを味わえるんじゃないかと思います。そうしているうち、アルバムの曲たちが、やがては「Our Songs」になっていくことでしょう。今日はどうもありがとうございました。

ありがとうございました。

[ALEXANDROS]は、現在『Sleepless in Japan Tour』という長いツアーを回っているところ。まずはライブハウスでぐるりと全国に出かけ(全公演ソールド・アウト)、3月から5月にかけては以下の日程でアリーナツアーが控えている。そして、ファイナルはさいたまスーパーアリーナ2days。

▼2019年▼
3/02日(土) 宮城県 ゼビオアリーナ仙台
3/12日(火) 神奈川県 横浜アリーナ
3/13日(水) 神奈川県 横浜アリーナ
3/19日(火) 大阪府 大阪城ホール
3/20日(水) 大阪府 大阪城ホール
3/30日(土) 北海道 北海道立総合体育センター 北海きたえーる
4/13日(土) 広島県 広島サンプラザホール
5/12日(日) 福岡県 マリンメッセ福岡
5/18日(土) 愛知県 ポートメッセなごや 3号館
6/15日(土)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
6/16日(日)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ

チケット情報など、詳細はバンドの公式サイトを確認してほしい。

そんな合間、しかも年の瀬の忙しいさなかに出演してくれたのが、FM802が贈るロック大忘年会RADIO CRAZYだ。10回目にして、彼らの出演は8回目。デビューの頃から、年末はほぼ欠かさず大阪に来てくれていることになる。今回はZ-STAGEという最大キャパシティーのステージで初日のトリを務め、満員のオーディエンスを盛り上げてくれた。

最後になるが、洋平くんのブログで今月発表されるというカワカミー賞のラインナップが今から楽しみでならない。今年もまた、映画についても、もちろん音楽についても、彼とゆっくり話す機会を持ちたいところだ。

vol.21に続く

野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
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