【阪神のブランド学①】観客動員数12球団一! なぜ甲子園には連日4万人以上が集まるのか?

シーズン真っ只中のプロ野球において、他球団とは一線を画すように異質で強大なブランド力を誇るのが、阪神タイガースだ。本拠地・甲子園球場には今も連日、4万人が集まる。10年以上も優勝から遠ざかるチームが、なぜ今も熱狂の"中心地"であり続けるのか。10年間、スポーツ紙の「虎番」として密着取材を続けるスポニチ・遠藤礼記者が、猛虎を取り巻く世界、その周辺の人々を分析した。第1回は、12球団トップの観客動員数について。


今季前半戦も、観客動員数は12球団トップ

世界に誇れる動員力だろう。先日、セ・パ両リーグから前半戦終了時の観客動員数が発表され、阪神は前年から4・5%、約2000人増の1試合平均4万3270人で12球団トップだった。数字の通りプロ野球が開幕すれば、甲子園には連日4万を超える人々が駆けつける。タイガースは2005年以来、リーグ優勝から遠ざかり昨年は17年ぶりのリーグ最下位という屈辱も経験。それでも、奮わない成績にもほとんど影響されることなく、聖地は毎日、虎党を飲み込んでいっている。阪神のブランド力を語る上で欠かせない聖地。なぜ、虎党は飽きずに、そして、めげずに足を運ぶのか。自分なりの答えは、約20年前の記憶にあった。

小学5年生の時、甲子園でおじさんに絡まれた思い出

黄色いメガホンに"SHINJO"と刺繍されたユニホーム、そして忘れてはいけない猛虎魂……。そのすべては今、実家の押し入れに埃をかぶって眠っている。入社3年目の2010年にスポニチの「虎番」を拝命し、チームを追いかける今でこそ「虎党」を名乗ることはなくなったが、僕は確かに聖地に"通っていた"1人だった。

小学5年生の時、タテジマの野球帽を被って、母と初めて阪神甲子園球場に足を踏み入れた時の光景は今でも鮮明に残っている。緑の天然芝と、黒土のツートンカラーに対戦相手の広島東洋カープの鮮やかな「赤」が、やけにマッチしていた。プレーボールが宣告されると、そこには未体験の「熱狂」が待っていた。ストライク1球、ヒット1本に沸き、得点すれば地鳴りのような大歓声が響き渡る。逆に失点、劣勢となれば、ため息のち静寂。むしろ、この静けさの方が印象的だ。小学生には難しい四字熟語「一喜一憂」の究極形を味わった1日。しきりに飛んでいたと思われる野次も当時はあまり意味が分からなかったが、隣のおじさんに「ボク、新庄にソックリやんか! みんな、新庄がおるで」と絡まれ、全く知らない周囲の人たちもメガホンを叩いて盛り上がっていたことだけは、はっきり覚えている(新庄に似ていると言われたのはその一度だけ)。

おじさんに絡まれたことも含め、何年経っても忘れない皮膚にも染みこむ思い出はその後、高校、大学と変わらず球場へ向かう理由になった。足を運ぶたびに、極上の観戦が上書きされていくようなイメージ。だが、僕のような体験を誰もが幸せだと感じるわけではない。いきなり「新庄に似ている」と絡まれるのはむしろ恐怖に近いかもしれない。4万人もいれば、共通点を見つけること自体がすでにナンセンスなのかもしれないが、数ある中のヒントは「あの一帯」にあるような気がしていた。

生粋の「虎党」が集結するライトスタンド

甲子園のライトスタンドは異世界だ。私設応援団が陣取り「ヒッティングマーチ」と呼ばれる選手個々の応援歌を打ち鳴らして、ひとつになる。汚い言葉も飛び交うアクの強い生粋の「虎党」が集結する、言ってみれば聖地の中の聖地。「一見さん」には敷居が高い……そんなイメージかもしれないが「住人たち」の話を聞けば、少し様子は違った。ツイッター上のスポニチ公認の個人アカウント(@sponichi_endo)で約1万1千人のフォロワーへ向けて野球観戦する上で「甲子園の魅力は?」と"直球"を投げ込んで聞いてみると、こんな声が次々に返ってきた。

「ライトスタンドでは、知らない人が隣にいてもヒットが出ればハイタッチするし、1人で来ても喜びを分かち合えますよ」

「女性が1人で行っても周りの人たちが声をかけてくれるので」

「勝った時に他人であっても、一緒になってメガホンを叩き合って喜びを分かち合えるのが最高」

「マクロな熱狂」と「ミクロな熱狂」が渦巻く

体感気温が有に40度を超えそうな「熱狂地帯」は「オアシス」の側面もあった。試合が行われる約3時間の間に勝利の興奮だけでなく、知らない人との薄くても密度と熱量だけは高い友情も芽生える。僕が、似ても似つかない新庄と言われて周囲が謎に盛り上がったような「ミクロな熱狂」の数々が観客席のあちこちで生まれ、忘れがたき思い出になる。フォロワーの中には「甲子園は"実家"です。実家だから年に3、4回は帰るでしょう?」という強者もいるほどだから、共感や感動だけでなく、居心地の良さすら感じている人も少なくないのだろう。

ジェット風船飛ばしや六甲おろしの合唱といった「マクロな熱狂」に加えて、人間の心を小さく揺さぶる"エモい"出来事が起こる土壌が整う場所。だからこそ、甲子園での観戦は、宝物になり「通う」レベルにまで昇華していく。今日も、忘れがたき新たな体験が4万人にアップデートされていくのだ。

Text=遠藤 礼


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