KYOTOGRAPHIEが開幕! 世界的写真家アルバート・ワトソンの「心」眼

今年で7回目を迎え、いまや京都の春の風物詩となった「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」。そのなかの目玉企画の一つとして、5月12日まで京都文化博物館別館に展示されているのが、アルバート・ワトソンの写真だ。


「大事なことは準備をしておくこと」

アルバート・ワトソンという写真家をご存じだろうか。

若くして初めて撮影したセレブリティとなったアルフレッド・ヒッチコックに対しては、首を絞めたばかりのガチョウを持たせるという大胆なアイデアで思わぬ表情を引き出し、自身のキャリアを切り拓いた。撮影嫌いを公言していたスティーブ・ジョブズですら、終わってみればその写真をいたく気に入り、自著の表紙とその遺影にも採用したほどの世界的な存在である。

そんなワトソンの多岐にわたるプリント50点が、昨年までに56万人を動員し、今年2019年は開催7回目にしてすっかり定着した「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」の企画の一つとして、旧日本銀行京都支店で現京都文化博物館別館に展示されている。

近代建築の先駆者、辰野金吾らが手がけた京都文化博物館別館の全景。数々の特別な建造物を舞台に同時多発的に、キュレーションも際立った展示がKYOTOGRAPHIEの真骨頂。 ©︎ Takeshi Asano - KYOTOGRAPHIE2019
2階では商業写真からアートワークまでアーカイブをまとめた映像も上映。アートカレッジでは写真以外にグラフィックデザインと映像制作も学んだと話したワトソンの多様な結合が見て取れる。©︎ Takeshi Asano - KYOTOGRAPHIE201

「シンプルなことではあるのだけれど、とにかく準備をしておくこと。そのことがまったく予想しない結果をもたらし、誰もの記憶に刻まれる写真を作り出すことにつながるんです」

展示に際して来日した76歳になるワトソン。写真祭が主催したレクチャーで「これからのフォトグラファーに伝えたいことでもある」と前置きし、そう強く主張したが、それは写真に限らずともすべてのクリエイティブ、そしてビジネスにも通じる教えといえる。

例えば今年のKYOTOGRAPHIEのメインビジュアルにもなっている、坂本龍一を捉えた1989年発売のアルバム『BEAUTY』のジャケット写真。ワトソンはリサーチの段階で、素晴らしい音楽家のみならず、役者であり、パフォーマーでもあり、さらに作曲家でもある坂本の多様な特異性に着眼し、現場では実際に音楽を流しながら「あなたの作品を身体で翻訳してほしい」と伝えたという。

感情的で身体的。ワトソンと坂本が拠点とするニューヨークで撮影された『BEAUTY』のジャケット写真。Photo by Albert Watson

一方で1992年撮影のミック・ジャガーがまるで豹に変身しているかのような、まさに記憶に残る一枚は「多重露光を行うことで、ミックと豹を重ねています。ほかにもインクであり、ペイントであり、すべての写真において、やはりシンプルなアイデアであるレイヤリングを応用しています」と話した本人の言葉通り、ワトソンを構築するもうひとつの要素を最たる表現で伝えた作品でもある。

「違う被写体が立つだけで、光は見え方を変える」と話したワトソン。多重露光で撮影されたミック・ジャガーを捉えた写真は、坂本の写真とは一転ミニマルなポーズで、光の扱いのみに配慮した。Photo by Albert Watson

そんなふたつのシンプルを掛け合わせることでワトソンが50年以上をかけて挑み続けてきたのは、ミック・ジャガーの写真なら豹の生命力溢れる毛並みにまで見入ってしまう、フィルムの再現性とプリントの奥行きの中にしか宿らない圧倒的なクオリティにほかならない。

そして同時に、もしかしたらそのクオリティ以上に、「これ以外のポイントはない」と思えるワトソンが心を決めたそれぞれの対象との最上の瞬間にも、強い共感を覚えるのだ。

目の前にあるものの美しさとは、自分はそのなにやどこを、美しいとするのか。

そこにはただ魅せられて終わりではない、私たちの「心」眼をも研ぎ澄ます写真体験が、きっと待っている。

ワトソンの展示をサポートしたのは「もはやクルマだけを売る時代にない」との企業理念から長年KYOTOGRAPHIEのメインスポンサーを担うBMW。GW中はミックの写真をラッピングしたゼロ・エミッションの電気自動車「BMW i3」がKYOTOGRAPHIE会場間を運行。
KYOTOGRAPHIE 京都国際写真展
アルバート・ワトソン「Wild」presented by BMW
期間:2019年4月13日(土)〜5月12日(日)
会場:京都文化博物館 別館
開館時間:10:00~19:00 ※入場は閉館30分前まで
休館日:4月15日、22日、5月7日
入場料:大人1,000円、子供800円 ※ほか各有料会場に入場可能なパスポートも販売中
問い合わせ:075-708-7108(KYOTOGRAPHIE Office)
www.kyotographie.jp


Albert Watson
1942年、スコットランド・エディンバラ生まれ。名だたる著名人のポートレートを手がけ、世界各国のVOGUEの表紙を100以上、ほか著名誌の表紙を多数撮影。一方で今回のKYOTOGRAPHIEの展示にも加えられた故郷スコットランドの風景をはじめ、そのアートワークも世界中の美術館やギャラリーで展示されている。フォト・ディストリクト・ニュースが選ぶ最も影響を与えた写真家20人の一人に選ばれ、主な受賞歴にグラミー賞やルーシー賞、三度にわたるアンディー賞、ハッセルブラッド・マスターズ賞など。


Text:岡田有加(edit81)