エキスパートの愛車物語② 自動車雑誌元編集長·田村十七男が「ディフェンダー」を愛する理由

「数ある工業製品の中で"愛"がつくのはクルマだけ」。トヨタ自動車の豊田章男社長が事あるごとにそう言うように、クルマとは人類に特別な力を与える大発明品なのかもしれない。1台の愛車にひとつの物語あり。ここに示すのは、各業界のエキスパートたちによる愛車物語。第2回は自動車雑誌元編集長·田村十七男(となお)さんが愛用するランドローバー・ディフェンダー。


「ここ20年近くはこれ1台で暮らしています」

このランドローバー・ディフェンダーを買ったのは23年前、1996年ですね。当時、『ランドローバー・マガジン』というランドローバーの専門誌の編集を担当することになって、この仕事をやるんだったら自分でも買おうと思ったのがきっかけです。

ランドローバー・マガジンのメインスポンサーがローバー・ジャパン(当時)だったので、本当だったらレンジローバーかディスカバリーあたりを買うのがスジだったんです。というのも、ディフェンダーはあの時点では正規輸入されていなかったので。

でも、イギリスへ取材に入った時にディフェンダーに乗って、形も含めてすごく気に入ったんですね。あの時はオリジナルのミニ・クーパー1.3を持っていて、お世話になっていたミニ屋さんがあったんです。そのお店が試しに新車のディフェンダーを並行輸入すると聞いて、イギリスで試乗した青いボディと白い屋根の組み合わせをオーダーしました。

ショートボディのほうが小回りが利いていいかなとも思ったんですが、ミニがあったので英国車の小さい方と大きい方の両極を所有するのが面白いんじゃないかと思って、ロングボディにしました。

オーディオに関しては、スマートフォンの音をFMトランスミッターで飛ばしてラジオで聴くことができる。「エンジンの音がうるさいから、音質はあまり関係ないかもしれません(笑)」とか。

ミニ屋さんで納車された時はうれしかったですねぇ……。ああ本物だと思ったのを覚えています。あと、座る位置が高いと遠くを見渡せるから安全だしリラックスして走れるな、とも感じました。ミニは2000年頃に手放したので、ここ20年近くはこれ1台で暮らしています。

長く乗っているからいろいろ壊れるところも出てきますけど、路上で止まっちゃったのは23年間で3回ぐらいですかね。4、5年前に、中央道の八王子インターの手前でドライブシャフトのセンターのジョイントが外れて止まったのはよく覚えています。修理に21万だか23万だかかかって、イタかったなぁ……。

2年前には、湘南からの帰り道にラジエターまわりのバルブのフタが壊れてストップ。これは800円のパーツの不具合でした(笑)。あとは雪の日に窓が下りたまま動かなくなったりとか。基本的にシンプルなメカニズムなので、みなさんが想像するより信頼性は高いと思っています。

フロントウィンドウ下部に、室内に空気を取り入れるためのベンチレーションが備わっている。

「買い替えたいと思ったことはありません」

このクルマを取材に使っていた頃は年間3万kmくらい走ってましたけれど、最近はそんなに走っていません。このクルマでよかったと思うのは、荷物が載ることですね。昔は新潟とか長野にフライフィッシングの取材に行ったり、29歳から始めたアイスホッケーをいまも続けていたり、ゴルフをやったり、荷物を積む機会が多いんですよ。

買い替えたいと思ったことはありません。買った時には、長く乗れるクルマがいいとは思いましたが、まさか23年も乗ることになるとは想定外でした。スマホやパソコンと同じように、新しいモノを知ったほうがいいよと忠告してくれる友人もいて、確かにその通りだとは思うんですけど、欲しいと思う新車もないんですね。

ただ広いだけでなく、スクエアな形状なので使い勝手もいい。細かいことを気にせずに、アイスホッケーのスティックやゴルフバッグなど積みっぱなしにできるところが魅力だという。

「気に入ったものを長く使うのが性に合っている」

長く乗れる理由のひとつに、ボディがアルミ製ということがあります。錆びないんですね。古いイタリア車だとボディが錆びて床に穴が開くなんてケースもあるみたいですが、このクルマはボロくなっても丈夫なんです。だからもうちょっと乗ることになるでしょうね。25歳で買った中古のパジェロ、30歳で買ったオリジナル・ミニ、そして32歳で買ったこのディフェンダーと、自分で所有したクルマは結局この3台だけなんですよ(笑)

でも、よく考えてみると、28歳の時に手に入れたカワサキZ-1はいまも持っているし、40歳の記念で購入したマーティンのアコースティックギターもまだ愛用しています。趣味のモノに関しては、気に入ったものを長く使うのが性に合っているのかもしれませんね。


【田村十七男の愛車遍歴】

①ホンダVF400F(20歳〜28歳)
「空前のバイクブームの頃で、カワサキZ-1を手に入れるまでに国産バイクを3、4台乗り継ぎました」

②三菱パジェロ(25歳〜30歳)
「初めて所有したクルマでしたが、ディーゼルエンジンがうるさくて遅くて、びっくりしたことを覚えています」

③カワサキZ-1(28歳〜現在)
「念願かなって手に入れた憧れのバイクで、いまもガレージで眠っています。そろそろ、動かしてあげていなぁ……」

④ミニ・クーパー1.3(30歳〜42歳)
「ミニの専門誌の編集もしていたので、いろいろなショップの方に教えていただいたり、お世話になったりした思い出の1台です」

⑤ランドローバー・ディフェンダー(32歳〜現在)
「新しいSUVがたくさん出てきましたが、正直、乗り換えたいと思う新車がないんです。だから動く限りは乗り続けると思います」


Tonao Tamura
1962年東京都生まれ。十七男という名前は、父が師事していた関係で、太宰治や中原中也とも交流があった作家、伊馬春部が命名。'90年にミニの専門誌『ミニ・フリーク』の創刊に携わり、'95年より編集長を務める。その後、『ランドローバーマガジン』の創刊編集長を経て、独立。


Composition=サトータケシ  Photograph=山下亮一