事業の軸は"サステナブル"。海のF1「セールGP」が持つエンタメとしての可能性②

ヨットレース界に新風を吹き込む、世界最高峰の国別対抗戦「Sail(セール)GP」の2シーズン目が2月28~29日にオーストラリア・シドニーで幕を開けた。100万USドル(約1億812万円)の優勝賞金を懸けた"海のF1"と称される新たなるエンターテイメント。チーム数も大会規模もボリュームアップを果たした2シーズン目の幕開けをゲーテWEB編集部員が密着取材。その可能性と魅力を全3回でお届けする。

風の力だけで動くから環境を破壊しない

2シーズン目の開幕を迎えた "海のF1"と称される「セールGP」が、なぜエンターテインメントとしての可能性を秘めているのか――。2月末にシドニーで行われた開幕シリーズを現地で取材している際に、日本チームの最高執行責任者の早福和彦氏から聞いた言葉が妙に腑に落ちた。

「このスポーツは、全長約15mものヨットレース艇が世界最速(時速約100km)のスピードで海を駆け抜ける。"海のF1"とも言われますが、自動車レースと大きく違うところは、エンジンは積んでいないところ。風の力だけを利用して動いているから、ひとつも環境を破壊をしていないんです」

確かに、それは凄いことだと思った。全長15mの乗り物が時速100kmで海の上で行う高速レースは迫力抜群。しかも、環境に優しい。そんなスポーツは他に見たことがない。

サステナビリティ(持続可能性)を軸とする包括的な戦略  

1年目のシーズンを終えた際に、セールGPのラッセルクーツCEOはこう振り返った。

「私たちは新しいグローバル・スポーツ・リーグとして、他のプロスポーツと肩を並べる持続可能な国際スポーツに成長し続けます。初年度で学んだことを生かし、さらにグレードアップした来シーズンの開幕が楽しみです」

セールGPは設立当初から、事業全体でサステナビリティ(持続可能性)を軸とする包括的な戦略の開発と実装に取り組んできた。 特に、人類の永遠課題である「環境破壊」に対する革新的な解決法を模索し続けている。

レース会場では、使い捨てプラスチックや食品廃棄物の排除にも取り組み、エネルギーの削減にも取り組んでいる。実際に、昨シーズンの5大会を通して、食品廃棄物が75%減少。飲食に関しても、59%植物ベースのメニューが提供され、使い捨てカップや食器は一切不使用だった。

イギリス・カウズ大会では、植物油を動力源とする発電機が使用され、一時的な電力供給による炭素化への影響が90%削減した。最終戦のフランス・マルセイユ大会で導入された伴走のモーターボートは、低炭素化を図るため、効率的なテクノロジーを駆使。今後数年で導入される新艇にも既存部品の再利用を積極的に進める予定だという。

競技普及とファン拡大への取り組み

セールGPは、まだまだ世界的認知度は高いとは言えないが、新たなファン獲得に向けて地道な取り組みを続ける。その戦略の一環として、マルセイユでの最終戦では、「eスポーツアリーナ」に参入。ファンに最高速のバーチャル・ヨットレース体験を提供。 eセールGPは大会期間中に計100,831艇の参加があり、実に11,429回レースが行われた。

そして、セールGPがある意味、最も力を入れているのがセーリングの普及だ。「セールGPインスパイア」という取り組みを昨季途中からスタート。ニューヨーク、カウズ、マルセイユにて、3つのテーマ(学習、キャリア、レーシング)を掲げ、3,021人の現地の若者たちが大会に参加した。さらに、「世界ユース育成プログラム」として、一人乗りフォイリング艇によるU-20ユース国際大会を開催。早福氏が中心となって、国内でのフォイリングキャンプ、および新たなるセーラーの育成も強化し続けている。

  世界ユース育成プログラム  

「空のF1」とも呼ばれた世界最速の3次元モータースポーツ「レッドブル・エアレース」は昨年、突如として終了。機体の整備や会場設備などによる巨額の費用、スポンサー集めの課題が原因だったとされるが、やはり、戦略的なサステナビリティという考えが欠如していたことは間違いない。

セールGPは、果たして世界的なスポーツとなりえるのか。大会全体としては、ロレックスやオラクルなど世界的な大企業の支援は得ているが、日本を含めて各チームのスポンサーが充実しているとはまだまだ言えない。競技としての面白さ、そして、環境保護や競技普及を含むスポーツとしての「持続可能性」に、どれだけの企業がエンターテインメント性を見いだしてくれるだろうか。これからが、正念場である。

③に続く

Text=鈴木 悟(ゲーテWEB編集部)