アマダナ社長が挑む「ビールと音楽」

アナログ盤のR&Bに針を落とし、専用のサーバーから極上のビールを注ぐ──。洗練されたデザインの家電を生活ごと提案するのは、アマダナ社長の熊本浩志。それをとりまく暮らしや風景とパッケージでモノが提供される時代が訪れた。

宣言して、落とし前をつけて前進!
家電を通して生活をデザインする
アマダナ代表取締役社長 熊本浩志

Tetsu Mizutani サントリービール 代表取締役社長(写真右) 1961年東京都生まれ。上智大学卒業後、サントリー入社。酒類事業本部企画部部長、ウイスキー部長、スピリッツ事業部長を経て、2014年10月、新しく設立されたサントリービールの初代社長に就任。

 サントリービール代表取締役社長の水谷 徹氏は、2015年に実施したマイレージキャンペーン用の、超クリーミー泡サーバーの完成報告を受けた日が忘れられない。

 このサーバーは「ザ・プレミアム・モルツ」の「絶対もらえるキャンペーン!」のために作られた特別品。スタッフの提案で、デザイン家電ブランドのアマダナとコラボレートした。

 ブルーに金メッキを施した洗練されたボディ。缶のセットアップや洗浄の手間も軽減。過去に例のない完成度の高さだ。水谷氏はひと目見て満足し、アマダナ代表取締役社長の熊本浩志に笑顔を向けた。

 「熊本さん、これ自己評価では、何点ですか?」

 100点か? 120点なのか? しかし、思わぬ自己評価が返ってきた。

 「60点です......。まだまだできることがあると思っています」

 その瞬間、サントリーや広告代理店のスタッフ、さらには熊本に同行したアマダナのスタッフたちまでも、その場にいる全員が凍りついた。そして、次の瞬間、水谷氏の大笑いが部屋に響いた。

 なんて正直な人だろう。この人ともっと仕事をしてみたい、と水谷氏はわくわくしたという。

環境を整えることがビールをおいしくする

 「もちろん精一杯やりましたけれど、それはさまざまな枠組みのなかでのこと。もっともっとやりたいことがあって、それを僕なりにひと言でいうと、60点という言葉になったんです。でも、空気がかたまったあの瞬間を思い出すと、さすがにまずかったなと」

 熊本はちょっとばつが悪そうにふり返る。

 マイレージキャンペーン用のビアサーバーの依頼を受けた時、熊本はすでに次の展開を見据えていた。

 「ビールを飲む"シーン"を作りたいと思ったんですよ」

 若いころから、ビールは味わうよりも勢いでグビグビ飲むもの、景気よく酔うためのものだと思い込んでいた。

 居酒屋へ入ると誰もが言う「とりあえずビール!」という台詞や缶ビールのプルリングを引いた時の、プシュッ! という響きがそれを象徴していた。

 しかし、サーバーの製作に携わり、ビールとの向き合い方に変化が生まれた。

 「グラスに注いで、泡立てて味わったら、いつもよりも格段に味わいが増したんですよ」

 熊本は打ち明ける。

ワインにチーズ、日本酒に刺身、マスターズドリームにアナログ音楽

ビールについてもっと知るために、京都・長岡京市にあるサントリービール京都工場を見学。徹底して味わいを追求する姿勢に感銘を受ける。「ビールがいっそう愛おしいものになった」

 「実はね、ビールについて、僕が長い間誤解していたことがあります。酒屋で買う缶ビールや瓶ビールと、レストランやバーで飲むビールは、別のものだと思っていました。お店で飲んだほうが格段においしく感じていたからです。ところが、中身は全部同じだと水谷さんに教わって、びっくりしました」

 適温のビールを、よく磨かれたグラスに注いで、しっかり泡立てて飲むと味わい深くなることを知った。

 「それでビールそのものだけではなく、飲む環境を整えて、シーンを作りたくなりました。おそらく日本人がビールを安くたくさん飲みたい時代は去って、これからはきちんと味わって、豊かで幸せな気持ちで愉しむものになると思っています」

 サントリービールは、2015年にスーパープレミアムクラスのビールを発売した。「ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム」は開発から発売まで10年余りの歳月を費やし、素材、製法にこだわり抜いた、まさに醸造家が追い求めた"夢のビール"だ。熊本はこのビールを初めて飲んだ時に衝撃を受けた。

 「この旨さを自宅でも体験したい! それならマスターズドリーム専用の本格的なビアサーバーを作ろう」

 そして、マスターズドリームをさらに愉しむためには"パートナー"の必要を感じた。

 「ワインにはチーズ、日本酒には刺身、ハイボールには焼き鳥や唐揚げ、合いますよね。では、マスターズドリームには何が合うか──。僕は音楽だと思いました。それもアナログレコードです。CDやダウンロードでオートマティックに流れる音ではなく、選び抜いた1枚に針を落とす感覚がいいと思いました」

 専用のサーバーで丁寧に注いだマスターズドリームを、1枚のレコードを聴きながら味わう。このシーンを提案したいと考えたのだ。

 「人間も、誰と一緒にいるかは大切ですよね。自慢話をするやつって、モテないじゃないですか。本人が何も言わなくても、魅力的な親友や妻がいると、価値が高まります。それを思うと、マスターズドリームにとっての、親友や妻に相当するのが、サーバーであり、アナログレコードやプレーヤーではないかと」

 熊本のこの発想を水谷氏はすぐに受け入れた。

 「ビールをのどの渇きを癒やすためではなく、ワインのように集中力をもって味わう飲み物にしたいと、ずっと考えていました。ビールは、世界的な"エナジー・ドリンク"です。実際に経済成長が著しい国で多く消費されています。日本も高度経済成長期やバブル期には消費量は右肩上がりでした。ところが、直近は消費が伸び悩み、マーケットが縮小しつつあります。原因は人口の減少だけではないはず。だから、新しい飲み方、愉しみ方の提案が必要です。今ある市場を奪い合うよりも新しい市場をつくる発想です」

 2016年春、熊本の想いが実現。マスターズドリーム専用の本格的なビアサーバーが発表された。サントリービールとアマダナのコラボレートによる新しいライフスタイルを提案するプロダクトだ。マット系ブラックのボディーにゴールドの金属ノズルが映える。

金属のノズル、レザー調のハンドルと細部にこだわった本格サーバー。

 「インテリアとして常にリビングやキッチンに置かれるデザイン性の高いサーバーにすること。コミュニケーションツールになるものづくりをすること、これがアマダナの基本です」

ローリング・ストーンズ仕様のレコードプレーヤーを販売

Naoshi Fujikura ユニバーサル ミュージック合同会社 社長兼CEO 1967年東京都生まれ。ポリドールを経て、2007年ユニバーサル シグマ マネージングディレクターに就任。12年からユニバーサル ミュージックの邦楽を統括。14年より現職。 渋谷で開催されたアマダナ ミュージック発足イベントにてSIBRECOを発表。

デジタルとアナログが
共存する時代が来た

 モノだけではなく、モノを含むシーンを提供する意味で、もうひとつ、サントリービール同様、アマダナにとって重要なタッグがスタートしている。ユニバーサル ミュージックとコラボレートするアマダナ ミュージックだ。熊本がビールを味わうシーンに、アナログレコードプレーヤーとそこから流れるサウンドをイメージした理由は、ここにもある。

 2015年、アマダナ ミュージックはアナログレコードプレーヤーSIBRECOを発売した。ボディは総天然木。アンプ内蔵。脚に組みこまれた小型スピーカーが温かい音を鳴らす。一体で音楽を楽しめるオール・イン・ワン・タイプだ。

 「若い人たちは、音楽を楽しむ"ツール"として、デジタル派とアナログ派に分かれているのではありません。ふだん、スマホで音楽を聴いていても、ファッション感覚でお洒落なアナログプレーヤーがあれば欲しくなるはず。彼らはスマホで写真を撮りながらも、インスタントカメラのチェキを買います。あるいは、スタバに通いながらも、自宅で1杯ずつ丁寧にドリップするコーヒーも楽しみます。つまり、デジタルとアナログは共存している。ただし、どちらも、そこにファッション性の高さがあることが前提です」

東京・渋谷にあるアマダナのオフィスにて。一角には畳敷きの小上がりにコタツを設置(このコタツもアマダナ製品)。社員とここで鍋をやることも。食材はもちろん宮崎のもの。調味料まで取り寄せる。

 この熊本の考えに強く共鳴したユニバーサル ミュージック社長兼CEOの藤倉 尚氏は語る。

 「アナログレコードの世界での売り上げは、8年間で6倍以上になっています。デジタルからの反動よりも、アナログだからこその音圧とか音の柔らかさが評価されているんです。アナログを積極的に作るアーティストも出てきています」

 ユニバーサル ミュージックは世界マーケットの約40%のシェアを誇る最大のレコード会社のひとつだ。ビートルズやローリング・ストーンズからレディー・ガガまで在籍している。日本人アーティストもユーミンからドリカムまでいる。小澤征爾をはじめクラシック系の音楽家も豊富な音楽業界の大勢力だ。

 「幅広い作品のレパートリーを持つ我々と最先端のデザインを手がけるアマダナが手を結べば、ハード、ソフトともにさまざまな可能性が広がるはずです」

 そう語る藤倉氏は、このプロジェクトで、さっそく強力なカードを切った。2016年、SIBRECOとのアーティストコラボ第一弾として、ローリング・ストーンズモデルの全世界1000台限定発売を、熊本とツーショットで並んで発表したのだ。

世界限定1000台のローリング・ストーンズモデル。¥25,000(アマダナ・ミュージック TEL:0570-077-773)
 「ストーンズの象徴であるロゴをデザインに使ったプレーヤーです。1から1000のシリアルナンバーが刻印され、1から4はストーンズのメンバーに贈呈します」

 ストーンズのマークやロゴの使用は音楽業界内でも特別にハードルが高い。最終決裁権はメンバー本人達が持っているのだ。つまり、このレコードプレーヤーを見たミック・ジャガーが使用を許可したのである。藤倉氏のネゴシエーション能力の高さ、フットワークのよさがあったからこそのビッグビジネスだ。

実質尊重、既成概念に縛られず、今ある条件の有効活用が大切

大学卒業後10年間は野球から距離をおいてビジネスに集中した。「野球をやったらのめり込みすぎることがわかっていたので、強い意志を持って離れました」。その後は軟式野球チーム「東京バンバータ」の捕手を経て監督に。2014年、東京ドームで行われたマルハンドリームカップと甲子園で行われた全国軟式野球統一王座決定戦ジャパンカップで全国制覇、2冠を達成。

生き方もビジネスも野球に教えられた

 ビールもアナログプレーヤーも成熟した商品。そこにデザイン性という付加価値を与えることをアマダナは行ってきた。電卓やウォーター・サーバーなど数々の人気商品を生み、アーティスト、デザイナー、IT系ビジネスマンなど知的欲求やアート志向が強い層に愛用されている。これ以上の機能は不要と思われている製品にもう一度生命を吹き込むということにおいて熊本は抜群の才能を発揮する。

 「僕が作りたいのは、家電よりも、それによって変わるライフスタイルです」

 すでにあるものをフル活用して、価値を高める──。言い換えると、「現有戦力をフル活用する」能力は10代の時の野球部体験で身につけた。

 出身高校は宮崎県立宮崎西高等学校。公立の進学校で、いわゆる野球の強豪校ではない。しかし、顧問担当教師が実に魅力的で、野球にのめり込んだ。

 「野球は弱者が強者に勝てるスポーツだ」

 恩師、里岡勝郎氏の言葉が熊本の心に火をつけた。

 「里岡先生はラグビーで日本のトップ選手だったかたで、野球経験がなく、だから既成概念にとらわれないんです」

 進学校なので、圧倒的身体能力の野球エリート部員はいない。練習は授業後の1時間だけ。その戦力と練習条件でいかに勝つかを徹底的に叩きこまれた。

 「練習はすべて実戦形式です。ゲームで1アウト2、3塁になったら、絶対に2ラン・スクイズです。ヒットは狙いません。打てる確率が低いからです。ノーアウト1塁の場面は、必ず送りバントでなくスチール。博打に打って出る。そういう野球で得点を挙げると、どんな強豪でも動揺します。向こうの監督は怒り、選手は委縮し、大振りして自滅していく」

 こうした頭脳戦を駆使して野球強豪校を破り、宮崎県のベスト8まで勝ち進んだ。

 「高校3年間の野球体験で僕の脳は完全に入れ替わりました。既成概念や他人がやった過去の例にとらわれず、すべて実質でジャッジするようになった」

大学では野球部に入ると同時に"個人商い"にも手を染めた。野球部では1年時からレギュラーだったが、その傍らDJも始める。DJのセレクトは、既成の音楽を自分流にアレンジする。そこに熊本はハマったのだ。やがて、イベント企画も始める。自分でDJをやるよりも派遣主のほうが儲かると考えた。同じ手法で家庭教師派遣業を行い、ビンテージデニムのオークションでも稼いだ。商品調達は大学内。学生たちの仕送りのお金が尽きる月末を狙い、彼らからお洒落なデニムを買い取り、雑誌に写真を掲載し、はがきでオークションを行った。ネットオークションが普及する前の時代だ。

これらはすべて実質重視のビジネス。この実質重視、そして既成概念にとらわれないこと、さらに今ある条件を有効活用することを10代のうちに徹底的に身につけた。そして、大学卒業後4年間勤めた東芝で企業のスケール感を体感したことが今のアマダナの礎になっている。

「もうひとつ、野球に教えられたことがあります。大風呂敷を広げる大切さです。高校3年の時、疲労骨折で打てなくなってね。威張っているのに結果が出せないから、あせっておとなしくなり、さらに打てなくなりました。悪循環に陥った反省から、大学以降は成績にかかわらず大口を叩き、言った手前自分にプレッシャーを与え、努力と気合でつじつまを合わせた。ビジネスも同じ。宣言して、落とし前をつけて、前へ進みます」

熊本君は純粋な野球少年。私は野球部の絵描き担当。
もう30年の付き合いです

東村アキコ氏 漫画家1975年宮崎県生まれ。『海月姫』『かくかくしかじか』『東京タラレバ娘』『雪花の虎』など、OLを中心に圧倒的に支持されている。連載は現在なんと7本!

 「アッコちゃん、これ、あんたやろ?」と、小学校6年生の時、熊本君が『コロコロコミック』に掲載された私のヒトコマ漫画を見つけてくれたことは忘れません。すごく嬉しかったから。私たちは小学5年生から高校まで同じ学校でした。高校は進学校。彼は野球部。私は野球部のポスターの絵描き担当。部活では彼だけが本気で甲子園を目指していました。彼の家は高校の隣の「こんにちは電器」という電気店で、デジタルに強く、文武両道でした。そう、彼の熱血ぶりにほだされたお父さんが校庭にある日突然、勝手に夜でも野球の練習ができるよう照明を取りつけた事件もありました。熊本君とは今もよく会います。よほど好きなのか、彼は毎回宮崎にできた団子屋さんの話をします。「おいしいから食べろ!」と。

松嶋啓介氏 KEISUKE MATSUSHIMA シェフ

 5年ほど前に友人の紹介で会いましたが、熊本さんはビジネスでもプライベートでも常に真剣度の高い熱血漢です。仕事のフィールドは違いますが、クリエイティブの力をもって、日本が元気になるように、お互い頑張りましょう!

藤川佳則氏 一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 准教授
 僕は米国で10年、ビジネススクールを通じて世界中の企業経営者に会ってきました。彼らに共通しているのは握手の力が強いこと。でも、帰国したら日本人経営者の握手は弱かった。初めて僕の手を力強く握ってきた人が熊本さんでした。手がしびれたことを覚えている。
伊東弘幸氏 アディダス ジャパン マーケティング事業本部 ディレクター

 常に熊本さんからは"野球愛"を感じます。熊本さんが監督をするチームの用具サポートをさせていただいていますが、ユニホーム、スパイクともクールで派手で、大会ではいつも目立っています。スタイルもプレイも、すべてが常識にとらわれないのが魅力です。

Hiroshi Kumamoto
1975年宮崎県生まれ。名古屋商科大学卒業後、東芝に入社。デザイン性に富んだ新家電シリーズ、アテハカを自ら企画し商品化。業界の注目を集める。2002年起業し、アマダナを立ち上げ。ヒット商品を続々リリースする。2014年よりハイアールアジア(現アクア)CCOも務める。

Text=神舘和典 Photograph=太田隆生、伊藤 信(京都)

*本記事の内容は16年3月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)