光と風が通り抜ける職住一体の六角形の家

グラーツ・オートモビール代表取締役 荒井 賢氏の六角形をいくつも連ねた形の個性的なショールーム&住居は、家族の一体感を醸成してくれる唯一無二の建築だった。

職と住が絶妙なかたちで一緒になった建物
東京・環状八号線におけるランドマークのひとつが、輸入車ショールーム「GRAZ」。六角形を基調とした幾何学的な形態を持つ建築で、環八を走りながら眺めるかぎり、いったい何の建物なのかは想像がつかない。

石と砂の中間の風合いを持つ「洗い出し左官仕上」と呼ばれる外壁は、ガラスや金属を多用する通常の自動車ショールームとは一線を画し、むしろ美術館の類かと思わせる。

ただでさえ個性的でアーティスティックなこの建物の2階が、実は住宅になっていると聞けば、さらに驚かされる。外観からは「家」の雰囲気なんて微塵も感じさせないというのに。

ダイニングには広く取った開口部からたっぷりと光が降り注ぐ。内庭の壁面に貼られた青いタイルが開放感を高めてくれる。

「1階のショールームと一体化するかたちで、2階の住宅はぐるりと壁で覆われています。周囲の騒音を遮断できますし、家っぽさを外に漏らさぬことにもつながります。ショールームに生活感を持ち込むわけにもいきませんからね」

ショールームのオーナーにして2階で家族と暮らす、荒井賢グラーツ・オートモビール代表取締役が、そう教えてくれた。

1階は輸入車のショールーム。六角形の空間が連なり、それぞれ1台ずつクルマが収まり、じっくり見て回ることができる。

完全なる職住一体を実現したこの建築、もともとは店舗利用を考えて計画したものだった。世田谷の幹線通り沿いという格好のロケーションに惚れ込み、まずは土地を取得。その後、改めて周りの環境を歩いてみると、道路からひと筋入れば閑静な住宅街であり、都内有数の自然を有する等々力渓谷も目と鼻の先。家族がここで暮らすのもいいと思えてきた。

そこで設計を、建築家の中村拓志(ひろし) 氏に依頼した。

「昔から建築好きで、あれこれ見ていました。なかでも、自然と一体化した中村さんの作品に憧れていました」

光と緑をふんだんに居住空間に取り込む
中村さんが示したのは、1階の店舗と2階の住居をともに、六角形のモチーフで統一する案。1台につきひとつの個室を割り当てた、お客様本位のショールームから発想した。区画の分かれ目には、「く」の字型の壁柱を配置してある。

住居も同様に、ところどころ「く」の字型の壁柱で分かたれた空間が、リビング・ダイニング・キッチンに当てられている。壁柱で区切られていてもつながりは確保されているので、空間全体が伸びやかな印象だ。

例えばキッチンにいるとリビングのソファは見えないが、そこで寛ぐ家族の気配は、はっきりと感じられたりもする。空間のつながりが、そこに住む人たちの一体感を生んでいるのだ。 

住居としては個性的な形態ゆえ、はじめは心配だったという。

六角形の空間にキッチン、ダイニング、リビングの機能が収まる。デッドスペースができてしまいそうに思えるが杞憂で、壁面の鋭角的な交わりがむしろ空間に広がりと奥行きを生み出している。

「設計案を見てすぐに『これは面白い』とは思ったものの、住み始めるまでは一抹(いちまつ)の不安もありました。『家具、ちゃんと入るのかな』などと。実際は心配無用でしたね。動線がよく考えられているし、収める家具も含めて提案いただいたので、使い心地は想像以上にいい。何より、家族がごく自然にひとつの空間に集って、憩(いこ)える家になっているのが嬉しい」

居住空間を壁で覆って内庭を配しているので、採光と風通しにも優れる。ほうぼうに置かれた植栽も生き生きとしている。

「自然をふんだんに採り入れるのは、中村さんの建築の特長ですからね。明るく生命感に溢れた場に日々身を置けるというのはありがたいこと」

湘南にも家を持つ荒井さん、そちらも建て直しを検討中だ。

「家はどうしようかとプランを考えたり、建物がだんだんできあがっていく時が何より楽しいですから(笑)」


Text=山内宏泰 Photograph=高島 慶(Nacása & Partners)

*本記事の内容は17年7月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)