映画『ボヘミアン・ラプソディ』公開! クイーンはなぜ伝説のバンドと言われるのか?

故フレディ・マーキュリーの姿を描いたクイーンの伝記映画、『ボヘミアン・ラプソディ』が11月9日より全国公開される。「ボヘミアン・ラプソディ」、「伝説のチャンピオン」、「ウィ・ウィル・ロック・ユー」といった誰もが知る名曲の演奏シーンは必見だ!


伝説のバンド、クイーンが蘇る

ロックバンド、クイーンのヴォーカリスト、フレディ・マーキュリーを主人公に描かれた映画『ボヘミアン・ラプソディ』が11月9日に公開される。この映画、クイーンの曲をリアルタイムで体験した人とそうでない人で、反応が分かれるかもしれない。試写では、右隣にいた60歳前後の女性2人は号泣していた。一方左隣の40代前半男性は退屈そうにうなっていた。

では、自分はどうだったかというと、けっこう楽しめた。全編クイーンのナンバーが本人たちの歌と演奏で使われているからだ。僕の年齢は56歳で、中1で「キラー・クイーン」、中2で「ボヘミアン・ラプソディ」、中3で「愛にすべてを」、高1で「伝説のチャンピオン」がヒットした。それぞれの曲が鳴ると、サウンドが引き金になって、長い年月脳に格納されていた、多感な時代の自分の思い出もよみがえる。

1970年代、日本のティーンエイジャーの中では、クイーン、キッス、エアロスミスは三大人気バンドだった。中でもクイーンの音は新しかった。言ってみれば音楽の百貨店。ロックバンドでありながら、オペラやジャズやゴスペルやフォークを巧みに取り入れていたからだ。映画の中でも、オペラをヒントに「ボヘミアン・ラプソディ」が作られる様子も描かれている。また、映画の冒頭に使われている「愛にすべてを」のクライマックスは、明らかにクワイアーといわれるゴスペルの合唱。「ボヘミアン・ラプソディ」が収録されているアルバム『オペラ座の夜』の中のフレディの曲「うつろな日曜日」の間奏部で、ギタリストのブライアン・メイが弾くフレーズはデキシーランド・ジャズ。同アルバムのブライアンの曲「39」は、SF的な歌詞を歌っているけれど、音楽的にはフォークソングだ。

クイーンの魅力は1枚のアルバムの中に、あるいは1曲の中でも、さまざまな音楽のテイストが盛り込まれていること。ファイト一発のストレートなロックではなく、インテリジェンスが感じられた。実際に、レコーディングではさまざまな工夫が行われている。フレディの声は、まずリード・ヴォーカルをありのまま録音する。次に金属の缶の中にヘッドフォンを入れて再生してマイクで録音する。それを何度も重ねていく。アナログの時代だからこその知恵だ。

ロックバンドには大きく分けて2系統がある。圧倒的な1人が牽引するワンマン型バンドと、複数のメンバーが曲作りをして歌う民主的なバンドだ。日本のメジャーのバンドにはワンマン型が目立つ。一方、外国のロックバンドは民主的な形態が多い。ビートルズ、ザ・バンド、ザ・フーなど、複数のメンバーが曲を作り歌っている。だからこそ、ビートルズには4人がそろわなければできない演奏があり、コーラスがあった。ローリング・ストーンズは、ヴォーカルのミック・ジャガーはワンマンバンドのようにふるまっている。しかし、ギタリストのキース・リチャーズをはじめほかのメンバーは民主制だと認識しているのではないだろうか。だから、キャリアの折々でミックとキースをはじめほかのメンバーとの間に軋轢が生じるのだろう。

クイーンは、フレディのワンマンバンドの色が濃い。フロントマンだし、あまりも個性的だからだ。しかし、アルバムを通して聴くと、あるいはバンドのキャリアを俯瞰すると、民主的なバンドであることがわかる。全員が作詞作曲をしているし、ブライアンとドラムスのロジャー・テイラーはリード・ヴォーカルもとる。バンドの圧倒的な強みであるコーラスも、声域の広いフレディ1人で声を重ねてつくっているわけではない。高音域はロジャーが、低音域はブライアンが受け持ち、クイーンにしかできない厚みのあるコーラスを作り上げている。

さらに、メンバー4人全員がヒット曲を生んでいる。「ボヘミアン・ラプソディ」や「愛にすべてを」や「伝説のチャンピオン」はフレディだが、スポーツでホームのチームのチャンスに頻繁にイントロが使われる「ウィ・ウィル・ロック・ユー」や「フラッシュのテーマ」はブライアン、「RADIO GAGA」はロジャー、「マイ・ベスト・フレンド」や「地獄へ道づれ」はベーシストのジョン・ディーコンがつくっている。寡黙なジョンだが、フェンダーのローズピアノを見事に使いこなし「マイ・ベスト・フレンド」をつくったときには自分の曲をシングルに選ぶことを主張し、実際にヒットさせた。

つまり、クイーンは、誰かが欠けるとクイーンでなくなる。メンバーの換えがきかない、バンドらしいバンドだったのだ。

以上の状況を踏まえて観ると、映画『ボヘミアン・ラプソディ』をより楽しめるのではないだろうか。後半部で高額な契約金を提示されたフレディは傲慢になりソロ活動を始める。しかし、成果はあがらない。フレディの頭の中で鳴る音はフレディ1人では現実化しない。よそから腕利きのミュージシャンを連れてきても、思うようにはできない。それがバンドメンバーで活動し続けてきたミュージシャンの宿命であり、同時にバンドの魅力なのだ。彼らの関係性を劇中では“Family”という表現を使っている。仲がよかろうが、そうでなかろうが、おたがいが必要な集合体が、家族であり、バンドなのだ。

映画では1985年のライヴ・エイドも描かれる。絆を取り戻したクイーンは、ロンドン郊外のウェンブリー・スタジアムで22分間、圧倒的なパフォーマンスを行う。このステージは衛星放送されたので、テレビで観た人も多いはず。1曲目は「ボヘミアン・ラプソディ」。間奏部から「RADIO GAGA」へ。ラストナンバーの「伝説のチャンピオン」まで4人の演奏のクオリティはあまりにも高く、フレディの声の状態も最高の状態。150ヵ国もの音楽ファンが度肝を抜かれた。世界中のレコード店でクイーンのレコードやCDが品切れになったほどだった。


『ボヘミアン・ラプソディ』
数々の名曲を生み出した伝説的なロックバンド、クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーの壮絶でドラマチックな人生を描いた伝記ドラマ。物語は、28曲のクイーンの名曲で彩られ、極上のミュージック・エンターテイメントに仕上がっている。
2018/アメリカ、イギリス
監督:ブライアン・シンガー
出演:ラミ・マレック、ルーシー・ボイントン、グウィリム・リー、ベン・ハーディー、ジョー・マッゼロほか
配給:20 世紀フォックス映画
11月9日より全国公開
© 2018 Twentieth Century Fox


Text=神舘和典