cero 東京発ポップバンドの現在 ~野村雅夫のラジオな日々vol.9

現在、大阪のFM802を中心に、ラジオDJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回は、ひとつのカテゴリーにおさまりきらない、先鋭的な冒険を続ける稀有なバンド、ceroだ。


ceroのアルバムで、カラオケは無理でしょ!

「はっぴいえんどが好きな雅夫さん、このバンドのこと、知ってますか?」

2011年だったと思う。僕が当時担当していた深夜の生放送に、常連の高校生リスナーからリクエストが届いた。cero(セロ)というバンドの『21世紀の日照りの都に雨が降る』という曲だ。スタッフが出してきたCDを試聴したところ、僕はすぐさま心が震えた。

コンテンポラリー・エキゾチカ・ロック・オーケストラ(Contemporary Exotica Rock Orchestra)。その頭文字を取って、cero。2004年に高城晶平(ヴォーカル・ギター・フルート)、荒内佑(キーボード・サンプラー・コーラス)、橋本翼(ギター・コーラス)の3人で結成したこのバンドは、その後、シティ・ポップ・リバイバルの旗手などと評されることになるのだが、彼らの音楽はそんなひとつのカテゴリーにとどまらず、先鋭的な冒険を続ける稀有なバンドとして独自の地位を獲得して今に至る。

オフィシャルのバイオグラフィーから表現を借りれば、「リリース、ライブが常に注目される、音楽的快楽とストーリーテリングの巧みさを併せ持った、東京のバンド」。誇張でも何でもない。その通りだ。

番組に来てもらったのは5月24日だったのだが、その時の話が愉快にして有意義だったので、ここにその記録を読み物として残しておきたい。


ーー以前僕が担当していたCiao MUSICA(2013年4月〜2018年3月)では、もうずいぶんお世話になりましたが、ceroがあんまり作品を出さないもんだから、会う機会に乏しくなり、番組も変わっちゃったのよ。でも、3人を前にすると、また以前のムジカ(MUSICA、イタリア語で音楽の意味)に戻っちゃう気分ですよ。でも、新番組のアミーチ(Amici)っていうのは「友達」ってことで、3人とはこれまでもアミーチでしたから。そんな友が待望の新譜を持ってやって来てくれたわけです。アルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』が、5月16日にリリースとなりました。おめでとうございます。 3年ぶりのアルバムだ!

高城 そうなんですよね。前作の『Obscure Ride』の時に、僕に子どもが生まれて、もう3歳になってるから。目に見えて、その3年が形になっちゃってるっていう。

ーー高城くんに関しては、お子さんが生まれたこともあって、今までと音楽制作は違うでしょ?

高城 最初の方とかは、本当にテンポ感がわかんなくて、夜遅くまで作業ができないから、これは無理だろぐらいに思ってたんですけど、だんだんわかってきて、夕方の6時までで作業終わりっていうようなサイクルができてきたんです。そこからは、うまくやれるようになりました。

ーーその辺は、荒内くん、橋本くんは、舌打ちですか?

荒内・橋本 いやいやいや。

ーー今いいとこだったのに、帰んのかよ? みたいなさ。

荒内 ハハハ。でも、曲作りは各自、家でやるんですよ。

ーーそっかそっか。とはいえ、ceroは3人ともソングライティングができるバンドじゃないですか。デモを持ち寄った段階で感じる変化みたいなものは?

高城 できあがったものも、いろいろな変化を感じさせます。ただ、子どものことは別にしても、僕ら3人とも33歳になるんで、やっぱり、それこそ3年前とは取り巻く環境も違ってきているので、できる音楽も変化してくるものなんじゃないですか。

ーー音を聴いてみると、それはもう、間違いなく変わってますよ。

高城 ですね。

ーー深化してます。まずは、『POLY LIFE MULTI SOUL』というアルバムタイトルについて、ご説明いただきましょうか。

高城 これは荒内くんがね……。

荒内 そうですね。どんな意味だったか、もうわかんなくなってきちゃってるんですけど……。

ーー思い出せ(笑)! 忘れたという答弁は許さないぞ。記憶にない、とか。

荒内 記憶にございません。

ーーこら! では、具体的にいきましょう。まずPOLYというのは、客観的にどういう意味かというと?

荒内 複層的、多層的。

ーーポリリズムなんかで使うこのPOLってのは、何か数が多いことに使われる接頭詞ですよね。

荒内 そうらしいですね。まさにポリリズムとかを今回使っているんですが、バンドがね、サポートメンバーが3人増えて、計8人でライブをしたり、録音したりしているんです。その中で、彼ら/彼女らの出自、生い立ちが本当にバラバラで……。たとえば、芸大出身の作曲家もいれば、ストリートで始まった人もいるし、性別年齢すべてバラバラで、スタジオでも楽器のならしでバッハを弾いている人もいれば、プリンスを弾いている人もいるという。それが同時なんですよ(笑)。

ーー 一言で言うと、「混沌」!

荒内 普通に気持ち悪いんですけどね。同時にやんなよっていう。でも、そういう状況が、小さな社会として面白いなと思ったので、ポリリズムにかけて、バンドの状況をうまく表せないかなと考えたところから、POLY LIFEを着想したと。

ーーマルチ(MULTI)でもありますもんね。音楽シーンを広く見渡せば、それは普通のことなんだけど、ひとつの音楽集団の中にゴチャッと同居しているというのが面白いことだな、ということですね? バラバラの8人がよってたかって音作りをしたらどんな音楽が生まれるのかという、その結果がこの1枚であるってことだ。

荒内 そうです!  ありがとうございます。

ーー世に出ているアルバムについての情報で言えば、ブラジル、アフロ、ポスト・ロック、ニュー・ウェーブ、そして現代のビート・ミュージックなどがミックスされているということになりますね。僕が面白いなと思ったのは、初回限定盤の特典なんです。A・Bの2種類あって、AにはライブDVDが付いてる。ceroのライブは独特のものがあるから、「今どこでどんな音が鳴ってるの?」っていう確認も含めて興味深いから、これはよくわかる。気になったのはBの方ですよ。インスト・バージョンのCDが付いてる。90年代にバカ売れしたようなJ-POPのシングルには、要はカラオケとして使えるインストのトラックが付いていたものですが、ceroのアルバムで、カラオケは無理でしょ!

(一同、しばし笑って……)

ーー高城くんの真似はできないもの! カラオケで歌ってくださいっていう意図じゃないでしょ?

高城 あれで歌う人は少ないでしょうね。

ーー再生ボタン押して、歌詞カード見ながら、「よーし!」みたいな。

高城 それは、なかなかいない。

ーー要は、こういうことじゃないんですか? このアルバムで、ceroはこれだけの多様なリズム・サウンドを生み出しているものの、リスナーはやはり普通はボーカルに耳を澄ませてしまう。そこで、高城くんには悪いけれど、いったん脇っちょにどいてもらって、ボーカル抜きのトラックにしても、それだけで鑑賞に耐えうる、どころか、味わい深いものを作っているのだという自負。僕はそう捉えたんです。

高城 なるほどね。確かに、その通りでもあります。より構造が見えやすいってところもあります。さらには、これは先日荒内くんと喋っていたことなんですが、インスト・バージョンがあると、ちょっとした作業をするだけで、逆にボーカルだけを抜き出すこともできるんです。すると、リミックスを作れるわけですよね。インスト盤を提示することによって、色んな反芻の仕方が生まれるかもしれないわけです。もしかしたら、聞き手が何かここからクリエートするとか。そういう方向にも可能性が開かれているのは、結構いいことだなと思ってますね。

ーーこの1枚からまた広がっていくPOLY MUSICになるかもしれない。アルバム丸ごとのインスト盤が初回特典で付くってのはあまりないことで驚いちゃったので、突っ込んで話を聞いてみました。

ーーFM802のBEAT EXPOという番組で、今回のアルバムから『魚の骨 鳥の羽根』という曲が、先だって、全国のラジオで初オンエアされました。

高城 はい。802が最初でしたね。

ーー僕もそれを聴いてたんです。それはもう、ぶっ飛びました。ceroって、今こうなってるんだって。リズムが一筋縄ではいかない。それこそ、ひとつの曲の中でも、8人が8人、それぞれ違うことをしているっていう。しかも、そこに言葉を正攻法で乗せるなんてこともしてない。とまあ、ここまでceroが「変わった。新しいceroだ」とは言ってきたものの、ずっと通底するものもあるとは思っているんです。インタビューするたびに毎回同じような話をしているようで申し訳ないんだけど、「水」ですね。

高城 ああ! ありがたいですね、しっかり聴いていただいて。

ーー水はもう、どんだけ入れてるのよ! 水というモチーフでどんだけ曲できるんですか?

(一同、再び、しばし笑って……)

高城 そうなんですよね。

荒内 確かにね。

高城 結構やってるんですよね。

ーー今回、12曲で、川なんかも含め、水にまつわるモチーフが入ってないのって、『Double Exposure』ぐらいじゃない?

高城 そうか。逆にあの曲には入れてないですね、そう言えば。

ーーこの水縛りは、みんなで話し合ってるんですか?

高城 いや、これは完全に僕の独断です。荒内くんが唯一最後の曲を書いてますけど……。

ーーでも、入ってるよ。

高城 めちゃくちゃ入ってますね。

ーー雨も降ってるし、雨の匂いもするし。

荒内 アイスキューブもある。凍ったり、溶けたりしてる。

ーーほら、もう……。

高城 ハハハ!

ーーそれと、もうひとつ。橋本くんが、今回びっくりしたのが、『夜になると鮭は』って曲で、まさかのレイモンド・カーヴァーを取り入れたじゃないですか。

橋本 あ、それもまあ、アイデアは高城くんなんですけどね。トラックは僕で。

高城 橋本くんがインストの曲をあげてきて、ここに乗せるのは歌なのかなぁって迷い、最終的にはポエトリー・リーディング的なものがいいんじゃないかっていう風になって、カーヴァーから持ってきたんです。

ーー僕がまたレイモンド・カーヴァー大好きなんですよ。『夜になると鮭は』っていう、これは詩だよね。ご存じない方のために補足しておくと、彼はアメリカの短編小説をメインで書いていた人なんですが、詩も優れたものがすごく多くて、日本では村上春樹が全訳をしていて、僕はその全集を持ってるのよ。で、アルバムを聴きながら……。なかほどで「なんだ今のは!? おい、ちょっと待て! 」ってなったわけですよ。

高城 一旦ストップって?

ーーそう、まさに。ちょっと、ここは本棚へ移動しま〜す!

高城 陽気なリスナーだなぁ。

荒内 陽気で文化的だ。

高城 最高だな。

ーーこれ、中公文庫から出てるんだけど(現在は中央公論新社が出している村上春樹 翻訳ライブラリーの『ファイアズ(炎)』に収められているものが手に取りやすい)、なんと、これだけ、今うちの本棚にないの! 夜になると、鮭がうちの本棚から消えてるんだよ。

高城 鮭がいない!

ーー誰かに貸したのかよくわからないんだけど、とにかくない! あ、でも、考えたら、ここに歌詞カードあるわ。

橋本 手元に揃ってる!

ーーで、また戻ってきて、もう一回再生ボタンを押したんだ。

高城 忙しいなぁ。

ーーごめんなさい。話がすっかり前後しちゃいましたが、水ですよ、水。これはもう、デビューの頃から……。

高城 よく出てきますね。

ーー水辺から離れる気はないの?

荒内 ただ、今回はちょっと違うんですよ。今までは、わりとスペクタクルな水って言えばいいかな……。海とか、ある意味、スクリーンに映ってるものを見てる感覚だったんですけど、今回は実際に手に触れられる物質としての水っていう扱いになってきているんじゃないかな。

高城 浸かってるっていう。

荒内 もう自分でバシャバシャっと浸かってる。

ーーもっとフィジカルな感じだ……。これは、この調子だと、水モチーフはまだ続くな。

高城 まだまだ水でいけるかな?

ーーいけそうだわ。とても面白いです。バンドによって、ソングライターによって、何で曲を書くのかっていろいろじゃないですか。ここまでこだわってるってのは、あまり無いと思うので、ぜひそういう意味でも、これまでのceroからの移り変わりも含めて、今荒内くんが言ってくれたような、同じモチーフでもどう変わってきているのか、聴き直してみると味わい深いんじゃないかと思います。お願いだから、次の出演は今回みたいに時間空けないでくださいよ。次また番組が変わってからとか嫌だからね。

高城 毎回、番組名が違うっていう。

ーーそう、それはダメ。また近い内に遊びに来てくださいね。ありがとうございました。

cero一同 ありがとうございました。


このゲスト出演から1週間後、僕は彼らのライブを京都の老舗ライブハウス「磔磔」で確認した。8人の楽団が放つ熱を帯びた多彩なリズムが会場で渦巻き、超満員のオーディエンスがその中で恍惚と身体を揺らし声を上げるその様は、まさにPOLY LIFE MULTI SOULを体現したような夜であった。


Text=野村雅夫


野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
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