強面パンクロッカー? TOSHI-LOW ~野村雅夫のラジオな日々vol.30

現在、大阪のFM802を中心に、ラジオDJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回は、BRAHMAN/OAUのTOSHI-LOWさんだ。


6年間、息子のお弁当をつくり続ける

毎日のようにゲストをたくさん迎えている僕の番組FM802 Ciao Amici! スタッフから「こんなゲストオファーがあるんですけど」と毎度相談を受けるのだけれど、僕もその時は耳を疑った。「雅夫さん、鬼がやって来るという話なんです」。熊(くまもん)や狼(MAN WITH A MISSION)とラジオやイベントで話すことはこれまでにもあったが、鬼とサシで話すのはこれが初めて。ミュージシャンで鬼というニックネームが定着しているのは、ただひとり。BRAHMAN、そしてOAU(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDから今年4月に名称を変更した)のTOSHI-LOWさんだ。でも、僕は知っている。実は彼がとても柔和で誠実な人だということを。

TOSHI-LOWさんはお弁当作りについての本を出版されたばかりということで、2019年6月3日 FM802 Ciao Amici!にて放送した今回の対話は、いつもとは毛色の違うものとなった。男二人で、お弁当。お楽しみあれ。

チャオ! TOSHI-LOWです。

――チャオ。久しぶりです。

チャオチャオチャオチャオ〜〜

――この番組、月曜日はね、グルメの話をしておりまして、お店の紹介だったりが多いんですけど、今日は先月発売になりました『強面パンクロッカーの弁当奮闘記 鬼弁』の話をうかがおうということで、「鬼弁」の著者、フフ、弁当の作り手、TOSHI-LOWさんを迎えたというわけです。

いや〜、お恥ずかしい。今からでも、気になるお店の紹介に戻したほうがいいと思うよ。

――ハハハ! 本屋さんの料理本コーナーには、今、この「鬼弁」がドンと平積みされてるんですよ。その違和感たるや!

この本の横にさ、「10分でできる 作りおきおかず」みたいな本があるからね。

――表紙には、TOSHI-LOWさんが作ってきたお弁当の数々がひしめき合っておりまして、その前でエプロン姿、腕を組んでの仁王立ちです。

ほんと、お恥ずかしい。(野村雅夫の手元にある現物を指さして)返品できるなら、してほしいくらいです。

――ハハハ レシピ本コーナーでTOSHI-LOWさんが左右に睨みを利かせている格好ですよね。

ヤバイよね。それを主婦が手に取ると思ったら、ゾワゾワするよね。

――しますね〜、なぜこういう本が出たのか。いや、そもそも、なぜ弁当を作っていたのか。お話いただけますか?

長男が通っていた小学校には給食がなかったのでね。そして、嫁も忙しいので、交代で作っていたら、ちょっとずつたまっていったんだよね。

――ご長男はもう小学校を卒業されていますから、丸々6年間、ご夫婦で交代交代で作られたと。言ってみれば、おふたりとも不規則な仕事で、TOSHI-LOWさんなんかはツアーもあるわけで、それぞれ作れる時に分担していたってことですね?

そうなんだよね。嫁(女優のりょう)もね、ありがたいことに、忙しい方なので。顔もなんか速そうな感じだしさ。新幹線に似てるんだよ。

――ハハハ! この本には新幹線の形をした容器に入れたお弁当も出てきましたね、そういや。ただ、ゆくゆくは本にしようと思って作り始めたわけじゃないですもんね。

嫁がね、インスタを始めるのよ。で、それを見るために、俺もインスタのアカウントを取ったの。今でも、もちろん鍵アカなんだけど。で、記録というか日記というか、(弁当の)投稿を始めたのね。朝ちょっとイライラしたりすると、ちょっとだけ小言を言うイメージで。それが溜まってってさ。で、そのアカウントは俺が知ってる人には開放するから、結局だんだんバンドマンたちが集まってきて、みんなツッコんでくれたりして。「それ、普通、弁当には入れねえだろ!」とか。そこから本を作りたいって話が出てきて、世界初の鍵アカウントで書籍化っていうね。

――ですよね。SNSから書籍って結構生まれてますけど、そこに鍵がかかってるっていうのはね。要は、家族オンリーではなく、セミクローズな感じで徐々に広がっていったんですね。

そうね。知ってる友達だったら、いいよ〜って感じで。

――本の構成としては、ご長男が入学してから6年生になるまでのお弁当の記録が時系列に並んでいます。身体も大きくなっていきますから、容れ物のサイズも変わっていったり、TOSHI-LOWさんのモチベーションも上がったり下がったり。

そう。上がったり下がったり。

――そうした感情の起伏まで含めて克明に記録されています。で、各ページの下の方には、ミュージシャンや著名人のコメントが掲載されています。これは実際にInstagramでのお仲間ですかね?

そこに載ってるのは、俺のアカウントをフォローしてくれてる人だけだね。

ーー10-FEETのTAKUMAさんとか、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのゴッチさんとか、高野寛さんとか、今パッと見て、僕も交流のある方もこうしていらっしゃいます。こうした人たちの、読者に向けてではない、TOSHI-LOWさんに向けてのリアルな反応がそのまんま反映されているという。ただ、勘違いしてほしくないのは、レシピ本ではありません。

レシピ本ではないですね。それはグッチ裕三のを買えばいいと思うよ。

――ハハハ! そりゃそうだ。お弁当作りを始めるまで、TOSHI-LOWさんは自炊なんてされてたんですか?

あのね、俺、ずっと食べ物屋さんで働いてたんだ。大学が夜学だったんで、そこで昼間はずっとフライパン振ったりしてて、最後、社長に「取ってこい」って言われて、調理師免許を取りに行ったら、受かっちゃった。

――だから、素地はあったわけですね。

まあまあね。

――この本には、途中にTOSHI-LOWさんのエッセイが挟まります。副題に「強面パンクロッカー」なんてあるように、昔はミュージシャンとしてのイメージもあるから表(おもて)しか見せないって気持ちがあったけど、いつの頃からかそれがなくなっていったという趣旨の文章がありますよね。昔だったら、この種の本は出してなかっただろうと。自分の作った弁当を世間に晒すというのは、ものすごく裏というかプライベートなことだし、いわゆるキャラ弁みたいなのがあるわけでもないし、正直この弁当はどうなんだと人によっては思うかもしれないものもあるわけです。

おトイレを覗かれてるようで、恥ずかしい気持ちなんだよ。しかも、それがちょいちょい売れてるって思うと、どうしようって。

――ご長男のコメントが入ってるのも良かったです。

食べた本人だからね。

――僕のこの番組は、時間帯的に晩御飯を作りながら聴いてくれている、あるいは家族の帰りを待っているリスナーも多くいるんです。毎日やってるとしんどいと思うんですよね。

大変だろうね。

――育ち盛りのお子さんがいたりなんかすると、翌日の弁当のことも視野に入れながら買い物をして、晩御飯を作るわけですよ。

そりゃそうだよ。ちょっと残してタッパに入れといて。

――そんなリスナーのことも想像しながら、『鬼弁』を読んでいた時に、僕がハッとしたのはね、「やってやってるというのはただの傲慢」っていう文でした。これはたまたまですが、お弁当作りを始めるのと、東日本大震災のボランティアを始めるのと、ちょうど時期が重なったんですってね?

そうなんだよね。だから、弁当作って、そのままボランティア行くって日もあったよ。そういう時に、自分の傲慢さっていうかな、気づくこともあったわけ。やっぱり、いろんな人がいてさ、自分の思い通りにいかなくてストレス溜まっちゃったり、被災地の方がストレスをぶつけてくることもあったり。「なんだよ!」とか思ったんだけど、いつの間にか自分も、「あれ、俺、やってやってるって思ってるんだな」ってわかったんだよね。「ありがとう」って当然言われるものって思っている自分に気づくわけ。これじゃ、ダメだと。それよりも、自分がやらせてもらってる、自分が勉強させてもらってるって思わないと。そっちに考え方を切り替えたら、すごい楽になった。実際、そういう人と相対する時にも、「そう思いますよ」ってうまく反応できるようになったし、そうするとその人達も喜んでくれるようになって、「じゃあ、手伝ってよ」ってなったから。こういうことなんだなと。「作ってやってんのに、なんで残すんだよ!」みたいなオーラを出してた時もあったんだろうな。

――ご飯を作って誰かと食べる、あるいは誰かに託すのって、人間関係のなせる技じゃないですか。その日々の中で、ギスギスしたり、イライラしたり、忙しかったりする時もある。みんないろんな想いを抱えている中で、何はなくともご飯は食べなきゃいけない。でも、うまくいかない部分を修復してくれるのもご飯なんですよね。ただ、作る人の状態は味に出るかも。お子さんも「今日の弁当まずかった」って思ったことも正直あるだろうし。

あるだろうね〜 「全残し」なんてこともあったし。

――全残し、ね。父ちゃん、イライラしてたのかな、ってのが味に出てるぜ、とか。

酔っ払って帰ってくると、味が全然わかんないしさ。すっげーしょっぱくしちゃったりとか。

――明らかに、これは父ちゃんが作ったやつじゃねえ、とか。

それはしょっちゅうあったよ。飲んでたバーで作ってもらった焼きそばとか。

――それがまたコミュニケーションにもなっていくということですね。で、実はこれは面白いシンクロなんですが、OAUの最新曲『帰り道』が、現在放送中のテレビドラマ『きのう何食べた?』のオープニングテーマとしてオンエア中なんです。このドラマは、男性カップルが同棲をしていて、そこで食事を作るという設定なわけですが、TOSHI-LOWさんの場合は親子って違いはあるにせよ、男同士をつなぐ料理の話ってのはリンクしてますよね。

いろんなリンクがあるよね〜。でも、あれじゃない? 雅夫ちゃんも、そっちの世界でモテるんじゃない? そのルックスだし。

――僕は当然モテます。フフフ。

わかる、なんか。

――でも、僕はゲイと話すのに何の抵抗もないどころか、むしろ楽しいです。

俺もそうなんだよ。あの人たち頭いいし、男の気持ちも女の気持ちもわかってるところがあるし。俺は東京の2丁目で何年かず〜っと遊んでた時があったからさ、このドラマの主題歌って話がきた時に、(登場人物の)気持ちはわかるって思ったもん。そう自負する部分ありだね。

――本の話に戻りますけど、TOSHI-LOWさんの中に「父性と母性の両方がある」みたいなフレーズありませんでした?

あのね。俺、最近思うんだけど、最終的に、男がどんどん強くなって進化すると、何になるかって言うと、おばちゃんなんだよ。

――ハハハ! そうそう。だから、母性も出ちゃうんだ。

出ちゃうんだよ。俺の周りの最近の友達はもうみんなおばちゃん化しちゃってさ、飲み会やってても。で、女の人は逆にどんどん親父になっていく。強いんだ。ドカって座って。

――だから、男が「俺には女性的要素はまったくない」って言い張っておばちゃん化を拒んでると……

それはダメ。全然変化に対応できてないですね。時代遅れです。

――今話してきたような部分が、実は、『鬼弁』にもテレビドラマにも通底する要素なのかなって思います。計画してたわけじゃないのに、奇しくもリンクしているってのが面白い! だから、どちらも楽しんでほしいところです。リンクしていると言えば、『帰り道』のMVも、ドラマのオープニングの映像手法に合わせて、ワンカットで撮影されています。メンバーのMARTINさんがカメラを回してるんですよね。あと、MVを観てたら、「あれ?」って気づく人もいるでしょう。802おなじみのバンドマンなんかの姿も。

そうそう。いるね。出てくるね。

――そんな発見も楽しんでください。その『帰り道』は現在配信中ですが、6月26日に『Whare have you gone』と合わせてシングルとしてリリースされることになっていますので、そちらもチェックしてください。そのシングル・リリースを記念してのライブがOAU THE PREMIUM RELEASE PARTYも決まっていますので、ぜひお出かけください。てなことで、普通に音楽の話もいいんですけど、ミュージシャンもまた人間なので、お弁当も作るぞっていうお話を今日はメインにうかがいました。

そういや、イタリア・ツアーにBRAHMANで行った時にさ、ねじねじのマカロニが弁当にいいぞって教えてもらったんだよ。

――パスタのお弁当も『鬼弁』には掲載されてましたね。

あれは伸びないからいいぞって話を向こうのミュージシャンに教えてもらってさ。

――もうね、うちのイタリア人の母が弁当を作っていた頃に教えてやりたかったですね。僕は中学高校の6年間、弁当を作ってもらっていましたが、パスタが入ってたことは一度もない。

ないんだ!

――そう。普通のお弁当屋さんののり弁やなんかでも、スパゲッティを入れたりすることってあるじゃないですか。ほら、隅っこの方でスパゲッティが申し訳なさそうにいるっていう、あれ。そういうパスタ使いも一度もなかった。

イタリアを感じる具材が入ってることはなかったの?

――ゼロでしたね。

ゼロなんだ! マジで!?

――ただね、TOSHI-LOWさんの『鬼弁』とシンクロしたもので例を挙げると、サンドイッチですね。当時(90年代半ば)、まだ僕の周りではサンドイッチ弁当を持ってきてる友達はあまりいなかったから、コーンビーフなんか挟んでもらった日には、ちょいと羨ましがられたもんです。

そうだよね。俺も子どもの頃にサンドイッチが弁当に入ってるってのはあまりなかったな。

――でも、マカロニはいいアイデアですよね。マカロニだペンネっていうショートパスタ系は使えるんだけど、麺類を弁当に入れるっていう発想はあまり浮かばないからびっくりしますよね。『鬼弁』でも、開けていきなりドーンと讃岐うど〜んっていう絵面には僕もまいりました。

あれね。うどんは俺の自信作だったのよ。うどんと皿うどん。皿うどんは、残されたけどね。むっちゃ残ってた。「食べるのが痛い」って言ってた。

――ハハハ! あの乾麺は確かにビビるし慣れてないと痛いかも。ただ、長崎には皿うどんでも太麺ってのがあるから、あれで試してみる価値はあるかも。でも、あの麺は長崎じゃないと手に入らないんだよな〜 と、話は尽きませんが、またお越しいただいてメシ話でもできればと思っています。最後に、新曲をお送りしましょう。この番組の放送時間、平日夕方にピッタリで、僕もかけるたびにジ〜ンときています。曲紹介いただけますか?

はい。どなたも気をつけてお帰りください。そして、家に帰ったら、言ってください。「ただいま」って。OAUで『帰り道』です。

――TOSHI-LOWさん、ありがとうございました。

ありがとうございました。

野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
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